スクリーンショット__3_

楽曲制作 - sense. CONNECTの舞台裏

今回、sense.のデジタルインスタレーション作品「CONNECT」の楽曲制作、効果音等を担当しました、木原真仁 / Kihara Masato です。
この記事では、私がどのような工程を踏んで今回の音源を完成させたのかを簡単に紹介したいと思います。
音楽についてあまり知らない方でも楽しめるよう、小難しい音楽理論等は綴っていないので、ぜひ最後まで読んでいただけたら幸いです。

※この記事では音声を使って説明している箇所が多々あります。
また、スマホのスピーカーだとわかりづらい部分もあります。
イヤホンやヘッドホン、なるべく高音質で聴くことのできる環境で読まれることをオススメさせていただきます。


画像1

↑ 私が作業しているパソコン周りの写真です。


私は今回、5曲の楽曲制作と効果音、そしてそれらの尺合わせや音量バランスの調整等を担当しました。
では、どのような手順を踏んで最終的に映像と合わせる1つの音源を作ったのか、おおまかな流れから紹介します。

今回の音源を完成させるまでの手順
 1 それぞれの楽曲のイメージを固める。
 2 メロディーや和音を作る、要は作曲する。
 3 MIXと呼ばれる作業をする。(後に詳しく説明します。)
 4 効果音をつける。
 5 全ての音源を映像用の一つの音源にまとめる。

大きく分けるとこんな感じの作業工程を踏みました。
それではこの一つ一つについて、そこそこ細かく説明していきたいと思います。

※もちろんのことですが、作曲家全員が私と同じことをして楽曲制作をしているわけではありません。
あくまで私自身のこだわりとして語ります。


1 それぞれの楽曲のイメージを固める

当然といえば当然ですが、曲を作るにあたってまずは、どういう曲を作ろうかと考えます。
アップテンポにしようとか、暗い感じにしようとか、他にもジャンルはクラシックにしようとか、ロックにしようとか。
また今回の場合は、映像のシーンごとに合わせて作るため、尺がある程度決まっていますし、同じような雰囲気の曲を並べるわけにもいきません。
映像をイメージしつつバラバラの世界観を固めるのが、普段一曲ずつ好きなように作るのとは勝手が違い、正直今回の制作の中でこの工程が一番苦労しました。
では、結局私が何を考えて曲を作り始めたのか、映像制作の板谷から当初送られてきていた絵コンテ中の一枚でも眺めながら、2曲ほど振り返ってみましょう。

画像2

最終的に完成した楽曲 Stars
映像では星座や宇宙が表現されるということで、夜、星空を眺めるときに似合いそうな、ゆったりとした曲にしたい。
遅めのテンポで、ピアノやカホンなど、アコースティック系の楽器を使う。
Aメロ→Bメロ→サビといった一般的なポップスの構成では、約1分の短い尺に収まらないため、同じメロディーを数回繰り返すようにする。

画像3

最終的に完成した楽曲 Digital Sign
夜のビル群を飛び廻るという派手な映像になるらしい。
ギターやピアノ、派手なパーカッションでシネマティックな曲にしたいが、おそらく効果音をたくさんつけることになるため、重厚な効果音と曲が混ざらないよう、少し安っぽいが未来感を演出できるシンセ系の音を主軸に置きたい。


2 メロディーや和音を作る

作る曲のイメージを固めたら、本格的に作曲をしていきます。
ただ、この工程は私自身直感的に進めている場所でもあり、いざ説明しようとなると難しい音楽理論の話になりかねないため、音とともにサクッと振り返ります。

ピアノロール (2)

↑ ちなみに私は全く楽器が弾けないので、代わりにパソコン上のソフトに演奏してもらってます。

・まず、基盤となるメロディーと和音を作ります。

・次に、それぞれの楽器のパートを作っていきます。

・最後に、全ての楽器を合わせて聴いてみましょう。

終了。
簡素ですみません…。


3 MIXをする

作曲をし終わったら、MIXという音質を整える作業を行います。
軽く説明すると、音量バランスの調整をしたり、音をヘッドホンの左右に振り分けたり、EQやコンプレッサー、リバーブ等のエフェクトを使ったりして、曲を聴きやすいものにしていく作業です。
細かく話すと難しくなるので、音とともに耳で違いを感じていただけたらと思います。

※音質の悪い環境だと、少しわかりづらい変化を説明していきます。
ぜひ、イヤホン、ヘッドホン等を使用して聴いてください。

スクリーンショット (5)

ではまず、音作りの段階で少しは整えていますが、作曲を終え、音量バランスを調整しただけの状態の音源です。

聴けなくもない、普通の音源に聴こえるかもしれません。
ではここからMIXをしていきます。

・ピアノ
~Before~

~After~

いろいろいじってはいますが一番わかりやすい点として、音が左右に大きく広がったと思います。

・ギター
~Before~

~After~

ディレイをかけて空間が大きく広がり、キラキラした感じになったと思います。

・シンセリード
~Before~

~After~

音量バランスは変えていないのですが、メロディーを演奏しているメインのシンセリードが聴こえやすくなったと思います。

こうした作業を楽器ごとの兼ね合い、全体としてのまとまりを考えながら行っていくのがMIXという工程です。
最後に全楽器を合わせてビフォーとアフターを聴き比べてみましょう。

~Before~

~After~

違いがわかっていただけましたでしょうか。
このMIXの後に、マスタリングと呼ばれる一曲全体を通して音圧等を整える作業を行い、とりあえず曲は完成します。


4 効果音をつける

曲が完成したら、次は映像に沿って効果音をつけていきます。
私が効果音をつける際に考えていることを2点ほど、音とともに紹介していきたいと思います。


・同じ効果音を繰り返し使う

私はあまりたくさんの種類の音を使わずに、なるべく同じ効果音を何度も使うようにしています。
今回も、シーンごとに似たような効果音をいくつか集め、それらを繰り返し、または流用することで大部分を構成しました。
なぜかというと、もちろん映像の完成後に急いでつけるため、時短の意味もあるのですが、経験則として全然違う音をいくつも並べると、効果音が浮いて聴こえてしまい、まとまりが悪くなるからです。

しかし似たような効果音ならまだしも、同じ効果音を短い間隔で何度も使うと、少し不自然に聴こえてしまうという問題も出てきます。

スクリーンショット (7)

↑ この地面が割れるシーンでの効果音を例に説明します。
まずはただ音を並べただけの状態です。

~Before~

少々不自然に聴こえると思います。
そこで、一つ一つの音の高さや再生されるスピードをわずかにずらしたり、MIXの時と同様に音量を調整をしたり、音を左右に振り分けたりすることで、自然に聴こえるようにしていきます。

~After~

わかりにくいとは思いますが、このように一つ一つの音を少しずつ変えることで違和感をなくすという手法は、銃声音や打撃音など、同じ効果音を何度も再生するゲーム等でもよく使われています。

ここ以外でも、例えばラストの都市を飛び廻るシーンでは、ビルが右を通り過ぎるときには効果音も右に、反対にビルが左にあるときには音も左に振り分けるなど、効果音が映像となじむように様々な工夫をしています。


・映像の世界観を広げる

…どう書けばいいのかわからず、かっこいい書き方をしてしまいました。
私が効果音をつける際に考えていること、2つ目です。
例を挙げながら説明します。


スクリーンショット (12)

まずこの落雷のシーン。
普通に雷の効果音をつければいいようにも思えますが、実際の落雷の音はとても低いし、長い間ゴロゴロゴロ…と尾を引いていてインパクトがないです。
また、映像では急に光がバシッと出てきますが、音をつけるなら前兆がある方が自然です。
そういったことを踏まえて最終的に次のような効果音をつけました。

このように、映像と効果音がなじむように、音を誇張して作ったり、映像では表現されていない部分の音を足したりしています。
他にもいくつか紹介します。


スクリーンショット (11)

この花がたくさん出現してくるシーン。
少なくとも私は花が開くときの音を聞いたり、花が急にたくさん出現してくる場に立ち会ったことはありません。
しかし映像ではハッキリと動いているため、効果音をつけないのは不自然です。
ということで次のような効果音をつけることにしました。

単体で聴くと、紙や枯葉をガサガサと触るような音に聴こえます。
しかし映像を見ながら曲と一緒に聴くと、花が出現するという演出にそれなりになじんで聴こえたので採用することにしました。


スクリーンショット (10)

最後にこのオフィスを通り抜けるシーン
人はいないですし、映像に従うのなら効果音は何もつけなくていいようですが、それだと味気なかったので次のような効果音をつけてみました。

キーボードの音やしゃべり声等をたくさん入れると、映像では何も映ってないのに、忙しないオフィスに入った気分になると思います。

このように効果音をつけるという工程では、あくまで映像と効果音の調和を保つことに重きを置きながらも、映像を強調したり、映像のみでは伝わらないイメージを表現したりすることで、より世界観に没頭できるような工夫を重ねました。


5 映像用の一つの音源にまとめる

最後に全ての曲と効果音の音量バランスを調整して、映像と合わせる一つの音源にします。

この工程で今回私が特に気に掛けたのは、音の大小のメリハリです。

この記事の音声が再生されるところでも音の大きさを表す波形が表示されていると思いますが、要はこのギザギザをなるべく大げさにしたいということです。

波形1

上の画像のように、ほとんどギザギザが変わらず、ずっと音が大きい状態になっている曲もこの世にはたくさんありますし、もちろん私も作ります。
これに対して、今回私が最終的に一つにまとめた音源の波形は、次のようになっています。

波形2

効果音の部分だけあきらかに大きくなっており、それ以外の部分は小さくなっています。

普段の制作では効果音が途切れる場所で細かくBGMを大きくしたりもするのですが、派手な効果音の部分だけ大音量で流れる方が映画のようで迫力があり、今回の作品には合っていると思ったため、今回はBGMを小さくしたままやや大きめの音量で効果音をのせました。

以上で全工程終了。
映像と合わせる一つの音源が完成しました。


最後に

一つの作品のために様々な雰囲気の曲を作るというのは今回が初めてのことでしたし、効果音の知識もまだまだ少ないため、このプロジェクトを通してとても大きな経験値を得られたと思っています。
今後もより一層進化した音源を発表できるよう、日々精進してまいります。
わかりづらい箇所も多々あったと思われますが、この記事を通して音楽について多少なりとも理解を深めていただけたようでしたら幸いです。

長い記事に最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?