見出し画像

未来への遺産

それは俺が農業大学で学んでいた時だった。
佐藤と言う真面目な学生から聞いた奇妙な話しだった。

佐藤にはもうボケてしまった祖母がいたらしいのだが、その祖母がしきりと、
「衣装箱を大切にしておくれ」
と言っていたらしい。どうしても祖母の声が離れなかった佐藤は遺品整理でその衣装箱をもらったらしい。

ある日、衣装箱から音が聞こえた気がした佐藤が衣装箱を開けると、何と中には田んぼが広がっていたらしい。そして、小さな農家が一つぽつんとあって夫婦と子供が忙しそうに田んぼを世話していたそうだ。穏やかなその風景にしばし立ち尽くしていた佐藤は、それからというもの度々覗いてはその風景に見とれていたらしい。

それからしばらくの間衣装箱が開けられない位、大学の勉強が忙しくなった佐藤は気にしながらも衣装箱をそのままにしていたらしい。

ある日、音がしないのを不思議に思った佐藤が衣装箱を開けてみると、何と田んぼが枯れて夫婦と子供が庭先で亡くなっていたそうだ。
佐藤は涙を流しながら、
「早く気づいていたら、助かっていたかもしれない。農業大学に通いながら、俺には何も出来なかったのが悔しい」
と言っていた。

ん、今の佐藤はって?イスラムの方に行って農業支援のNPOで活躍しているよ。
もうあんな悲惨な光景は二度と
見たくないそうだよ。

衣装箱はって?今も佐藤は持ってあるいてるよ。あの時の教訓としてね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?