推しについて語る怪文書 -アニソンシンガー YURiKA-

 素直に嬉しい、なんていう軽い言葉では表現できない。様々な感情が複雑に混ざり合って、逆に何も反応が出来なくなる。そういう気持ちになったのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。

出会い

 推し始めた切っ掛けは、彼女のデビューから1年が経った頃。2018年2月10日に開催された『ANIMAX MUSIX 2018 NEXTAGE』というイベントだった。当時は(今も、だが)亜咲花のファンであった私は、そのイベントに亜咲花目当てで参加し、初めて彼女に出会った。

 アニソンオタクであった為、リトルウィッチアカデミアと宝石の国の人か~という感じで名前は当然知っていたが、ライブパフォーマンスを観る機会はそれまで全く無く、前提知識は殆ど無いようなものだった。
1~2曲目を聴いた時の最初の印象は『歌かなり上手いな。あと、客の煽り方がすっげーLiSAっぽい。好きかも』という感じだった。このライブは各アーティストがカバー曲を1曲披露することになっているため、『LiSAの何かの曲とかやってくれないかな~』と思いながら楽しんでいた。そしたら、彼女の口から『Key作品が好き』という言葉という共に、『Crow Song』のカバーが披露された。
  本当に何も事前知識が無い状態で、彼女が鍵っ子という事も知らず、目標としているアーティストにLiSAさんを挙げていたという話も知らず、突然自分の想像した理想と現実が完璧にマッチした。あの時の衝撃は、4年以上経った今でもハッキリ覚えているし、『あ、この子推してしまうわ』と確信した瞬間だった。
 なお、その直後に開催されたデビュー1周年ワンマンライブはチケットを取ったにも関わらず仕事で行けなかった。クソ

順風満帆

 幸いなこととして、私の惚れこんだ彼女はその年絶好調だった。
 6月にリリースされた、Keyの新作ゲーム『Summer Pockets』の挿入歌の担当が発表され、4月からはラジオ『A&G ARTIST ZONE YURiKAのTHE CATCH』が始まった。アニメタイアップとしては7月クールにはねバドOPの『ふたりの羽根』のリリースが決まり、ライブ関係では夢だったAnimelo Summer Liveを含め、夏には複数のアニソンフェスイベントへの出演が決まった。正直に言って、これ以上無いくらい順風満帆な半年間だったと思う。

 この半年間を経て、正直自分が想像していた以上に彼女にハマっていた。自分が長年の鍵っ子でありLiSAのファンであった為趣味の一致は元々理解していたのだが、更に佐咲紗花のファンでもあるという共通点も知った。タイミング良くリリースイベントなどを通じて会話が出来る機会が増え、接近イベではオタク仲間として雑談も出来るような楽しさも追加された結果だったと思う。
 ただ、それ以上に彼女の魅力は、高い歌唱力とライブパフォーマンス。そして曲がらない信念、自身が好きであるが故のアニソンシンガーへの拘り。自分の中で『アニソンシンガーに持っていて欲しい物』を全て備えており、加えて明るく軽快なトークなども合わさって、本当に『アニソンシンガーとして推せる。間違いなく次世代を担う存在だ』と確信していた。

 しかし、これまでの彼女のピークは恐らくここだったと思う。

低空飛行

 誤解の無いよう言っておくと、別にこれ以降ずっと下降曲線を辿っている訳では無い。2018秋以降も、2020年冬まで開催されたライブにおいて、会場は確実に大きくなっているし、ファン層も増えていたと思う。

 ただ、何もかものタイミングが悪かった。
 大きく露出を増やした直後に、気軽に参加しやすいワンマンイベントが無かった。
 カバー楽曲のリリースやアニメ挿入歌でのタイアップはあったが、オリジナル曲でのアニタイが2019年秋の『BEASTARS』まで飛んでしまった。
 そして何より、ここから大きく売り出そうとしているタイミングだったであろう2020年初頭に、新型コロナウイルスの蔓延が起きてしまったこと。
 何とか駆け込みで3周年ライブは開催できた点だけは奇跡的にタイミングが良かったと言えるが、それ以降はもう音楽業界が全体が暗黒時代に入ってしまった。。。

 これはあくまで憶測なのだが、2020年春~夏には東名阪ツアーが組まれていたのだと思う。(2020年3月にライブ後の通話イベントがあり、その際にそれっぽい事を聴いた)
 その機会が全て中止になり、更に2年間続いたラジオも終了。思えば新規ファンを獲得する要素が全て失われたような状態で、音楽業界全体が苦しい思いをするコロナ禍を迎えたのだと思う。

 一度コロナ禍が落ち着き、9ヶ月ぶりに彼女の生歌を聴いたのが2020年11月のことだった。彼女は、更に努力を重ねて進化を遂げていた。
 ステイホーム期間、彼女は漫然と過ごすことなく、腹筋を中心としたトレーニングを欠かしていなかった。目に見えるレベルで引き締まった腹筋は分かりやすい努力の結晶であり、それは明確な成果として歌唱力の更なる向上に繋がっていた。以前から改善の兆しが見えていた高音は、綺麗な歌声はそのまま力強さが追加されたし、以前は少し弱さのあった低音も深みを増した

 苦しい時に弱音を見せず、ストイックに努力を重ねられる人間というのは、本当に心から尊敬できる。まさしく『自慢の推し』という言葉がぴったりだと思った。

停滞

 そんな自慢の推しは、残念ながらそこからも試練の日々は続いた。むしろ逆風は増す一方だった。
 2020年には以前より決まっていたゲームタイアップの楽曲の配信があったり、セルフカバーアルバムがあったり。業界全体が苦しんでいる中だし、多少の新規リリースもあったし、という状態だった。
 そこから迎えた2021年。ライブは何度か開催されたが、遂に一曲の新規リリースも無いまま一年を終わることとなった。この記事を書くために改めて公式サイトを見返したのだが、『NEWS & INFORMATION』の欄が2021年1~11月でたった2つしか無い。笑うしかない(まぁ流石に4~5個ほどイベントはあった筈なのでこれはちょっとおかしいのだが)
 今だから言えるがコロナ禍から業界が回復の道を進み始めている中でのこの一年は、推している側としてもとにかく辛かった。推している側が辛いのだから、本人の辛さはこんなものではないだろう。なのに彼女はそういう言葉を一切ファンに言う事なく、明るくやれる事を愚直に続けていた。

一筋の光

 変化があったのが、2021年10月29日。彼女の誕生日に併せて開催されたワンマンライブだった。
 正直、このライブにはかなりの覚悟を持ちながら参加した。もしかしたら、もうこの先二度とワンマンライブは開催されないかもしれない、とすら考えていたからだ。
 実際、このライブのサポートメンバーはギター・ドラム・ベースの3名。コロナ前はここにキーボードorバイオリンが入っていた。観客数も目視で概算人数を数えられる程度しかおらず、大きく目減りしているのが分かる。こんな状況で、採算が取れているのかも分からない。そんな嫌な想像が膨らむ程度には、状況が悪かった。
 その日は本当にライブが開催される事のありがたみを噛み締めていたし、1曲1曲をしっかり耳と脳に刻み付けようと真剣に聴いていた。
 だからこそ、ライブの最後にFC開設の報告を聴いた時は、心の底から安堵の声が漏れ、力が抜けたのを覚えている。新曲リリースなどの分かりやすい結果ではないが、これは少なくとも『次がある』という確約であり、5周年になる2022年を無事に迎えられるという事実が本当に嬉しかった。

 この発表の後、彼女自身から『なかなか前に進めないもどかしさがあった』という旨の言葉を聴いた。良い報告が出来るまで決してその言葉を可能な限り口にせず、愚直に自分の出来る事だけを頑張っていた彼女に、改めて感服した。

 年末には、2022年1月放送アニメ『怪人開発部の黒井津さん』の挿入歌歌唱が決定した。挿入歌とは言え、2年ぶりのアニメタイアップ・1年ぶりの新曲というのは心に沁みたし、タイアップに対してのありがたみを再認識することが出来た。

出口

 2月に入り、5周年イヤーが始まった。レコーディングの報告があったり、自らが主催となってアニソンシンガーの合同フェスを開催したり、謎に北海道に行っていたりと、何かが動き出す気配を感じながらも、具体的な報告は特に無く、約半年が過ぎた。

 今回のFCイベントは、そんな5周年イヤーのちょうど中間地点辺り。長く苦しいトンネルを抜ける、待望の報告が最後に待っていた。

 1stアルバムのリリース。そして、ツアーの発表。
 恐らく、このニュースを何となく見た人達にとっては『あ、そうなんだ。おめでとう』程度だと思う。多分その反応で正しい。私の反応がおかしいと思う。
 こんな発表、ずっと順風満帆なアーティストならサラッと発表され、皆が軽いおめでとうを言い、それでおしまい。私だって今まで様々な現場でその瞬間に立ち会い、おめでとうと軽い気持ちで言ってきた。
 そんな、今まで『当たり前』だと思うような発表を聴いて、私は今この記事を書いている。

 別にその場で涙したわけでもない。かつて私はアニサマ2018で彼女が初めてそのステージに立った時、感動でボロ泣きした。スタッフには体調不良者と勘違いされ、後ろのオタクには『お父さんかな?』と笑われた。冷静に思い返してクソほど恥ずかしいが、今となっては懐かしい思い出だし、思えばあの頃は本当に恵まれていた。
 そこから3年の時が経ち、ようやく初アルバムとツアーだ。本人も呟いたし、私も同じことを呟いた。『長かった』

 この発表は、間違いなく幸せなのだ。おめでとうと声を張り上げたくなる気持ちをコロナ禍という理由でグッと堪えて、思わずガッツポーズが出る。そんな嬉しい報告。だがそれ以上に、この3年間の苦しい期間を走馬灯のように思い出し、噛み締め、溜息が零れそうになった。
 そんな悲喜こもごもな気持ちを全てひっくるめて、その場で笑顔で拍手だけを行った。

 この日、発表を聴いて感じた気持ちは、恐らく一生忘れない。
 初めてその重さをファンの視点で実感できた。今まで軽く祝ってきたそれが、どれだけ恵まれていて、どれだけ喜ばしいことなのか。
 決して努力を怠らず、歌手として必要な素養を文句なく備えている。そんな彼女がその発表をしたのは、たった50人ほどが収容されたFCイベントだった。

余談

 よく、友人と酒を飲みながら『何が悪かったのか?』という話をすることがある。答えの無い不毛な議論だ。それ考えながら、自分の推しがやっぱり最高だな、と認識することも目的の一つとなっている。

 レーベルが悪いか?そんなことは無い。TOHO animation RECORDSは確かに大手レーベルに比べれば小さいし力が弱いかもしれないが、主催ライブの開催内容を観れば、その誠実さはよく分かる。
 バンドメンバーに至っては、いつ見ても最高だと思える。ギターの吉田穣さん。ベースの蛇石徹さん。ドラムの横瀬卓哉さん。キーボードのあいあいさん。ヴァイオリンの多ヶ谷樹さん。コーラスの逆井寛子さん。どの方もいつも素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれるので毎回のライブが楽しくて仕方ない。と言うか、そもそもヴァイオリンがカスタムメンバーに居るレーベルがどれだけ存在するだろうか?この辺りにもTOHO animation RECORDSの音楽への真摯さが伺える。
 この6人全員揃ったの、Keyカバーライブ以来あったかな?覚えてないけど。またこの編成で聴きたい。。。

 カラオケで開催することすらほぼ無い。今度のツアーもいつものメンバーと言っていたので、息の合った素晴らしいパフォーマンスのライブであることは自信を持ってアピール出来る。
 断言できる。そこらの売れてるアーティストより遥かに素晴らしい音楽が堪能できる。それがYURiKAの現場であり、TOHO animation RECORDSというレーベルのイベントだ。

 アニソンシンガーは今、間違いなく冬の時代だと言える。声優が何でもこなす時代であることに加え、人気作品のタイアップにはJ-POPアーティストが連なる。アニソンシンガーに与えられる枠は、かなり少ない。2023年にReoNaの武道館が決定したが、その前のアニソンシンガーは誰だ?今後それを達成できる人間は存在するのか?という状態。
 この冬の時代を生き抜くためには、『協力』と『開拓』が必須だろう。協力は、上にも書いたが今年の4月9日に開催されたアニソンシンガーのフェスイベント『ユリパ』のようなものだ。弱者が群れをなし、『現場に赴くアニソンシンガーオタク』という数少ないリソースを共有する。そういった協力プレイも必要だ。

 今回決定したライブツアーにもその工夫が表れている。ツアー初日は10月29日(土)の横浜公演なのだが、ゆりパでも共演した同じくアニソンシンガーのnonocのワンマンと日程が重なっている。
 それを公式で協議し、どちらにも余裕をもって参加できるよう工夫されている。マジで偉すぎる。こういう所が大事だと分かっていて、キチンと行動できる大人達が居ることが素晴らしい。

 もう一つの開拓は、このツアー自体がそうなる。新しい土地で普段は来ない新規のファンを獲得するチャンスだ。
 そして、今私が書いているこの怪文書ももしかしたらその一つになるかもしれない。気持ち悪いオタクが思いを綴った怪文書なんて、何人に読まれてもクソの役にも立たないと思うが、もしかしたら1人くらい、この記事を読んで興味を持ち、YURiKAのライブに足を運んでくれるかもしれない。

 ライブツアーは10月29日(土)に横浜、11月12日(土)に大阪、12月11日(日)に埼玉で開催され、アコースティックライブが12月24日(土)に札幌で開催されます。興味がある人は是非

おわりに

 年を重ねる度に、『推しは推せるときに推せ』という言葉の重みがどんどん身に染みてきます。突然の別れは本当に沢山あって。次のツアーも多分、私は同じような気持ちで参加しているんだと思います。
 私の好きな言葉には、『成功する人間はそれがチャンスだと分かる人間だ。またいつか同じようなチャンスがあると思っていたら、いくら待ってもチャンスは来ない』というものがあります。コナンの千間降代さんの言葉です。有名ですね(?)

 ようやく出口の見えた推しは、まだ全然安心できる位置に立ってなんていません。むしろ崖っぷちであることに変わりはない。今回がその『チャンス』なんです。
 このツアーには『and more』があります。それが何なのかまだ何も分かりませんが、追加で公演があるとしたら、そのとき沢山人が入る方が良いに決まってる。
 なので私は、このツアーに1人でも多くの新規ファンが来てくれるように、『and more』が発表されたときに少しでも多くのファンが応募するように。個人として細々と、ではありますが発信は続けていこうかなと思っています。とりあえず今いるフォロワーの誰か1人でも来てくれたらいいなぁ、と。
 五月蠅い時期も多いと思いますが、ご理解頂ければ幸いです。

 まぁ他にもナナニジとか筆頭に色んなコンテンツのオタクしてるのでそっちの方も色々と五月蠅く発信するんですが( ˘ω˘ )

 あと、この怪文書はあくまで自分の思い出と感想を綴った記事なので主観100%で書いてます。事実と異なる部分もあると思いますのでご理解くださいネ

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