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現実と地続きな民主主義の改善




直接民主主義を国政でしましょう。


「ブロックチェーンで可能な腐敗しない直接民主主義」について書きます。

まずは既存の直接民主主義のベストプラクティスたるスイスの直接民主制の問題点について書きます。

次に、新規な直接民主主義システムのわかりやすい仕様について書きます。

最後に、今の日本における導入までの道筋を書きます。

一区切りにつき1分ほどで読めますが、ところどころ法律とソフトウェア工学の言葉がどうしても少しだけ使われているので、じっくり読むのがおすすめです。


スイスの国民発議

人口854万人(2018年)のスイス連邦は、直接民主主義を採用しています。その方法はというと、10万人(全人口の1.17%)の署名を18ヶ月以内に集めると、国民発議という立法プロセスを開始できる、というものです。

日本においては憲法改正において国民投票法が用意されていますが、立法に国民が直接関与するための法律ではないので、新しい法案が必要になります。

スイスの国民発議の利点と欠点

■ 利点
・政治家が不要であること
・立法プロセスや行政の腐敗への異議申し立てプロセスが明確であること

■ 欠点
・署名の偽造の可能性がある
・投票を安全で効率的に行う難易度が高く、広場に集まって色付きのカードで意思表示することになっている。電子投票システムは脆弱性が見つかった。
・国民全員が法案を熟読しなければならない
・直接民主主義で捌ける法案数には限界がある
・じっくりと議論するということに向いていなくて、大衆扇動が行われやすい


ここまではみなさん想定内ですよね


解決策: 審議による意見投票

審議による意見投票(Deliberative Opinion Poll)とはスタンフォード大学の政治学者であるJames Fiskin氏が提唱する、「いつでも自分の凝り固まった意見をしがらみなく変更できる心理的安全性に配慮された議論方式(個人的解釈)」です。

この方式はモンゴル、アイスランド、アイルランドの憲法改正に役立てられており、大衆扇動への耐性が評価されています。(link)

国民からランダムに審議員を抽選し、ファシリテーターと専門家を議会に呼び、数日間議論を行い、最後に投票するというのが、具体的なプロセスです。

明石家さんまさんが場を切り盛りしつつ、例えば偉大な専門家の例としてiPS細胞の山中先生などの専門家のご意見を聞きながら、みんなで考えるイメージです。「あっ、私まちがってた!」となっても、さんまさんと山中先生のご助言なら素直になれると思いませんか?



審議による意見投票の利点と欠点

■ 利点
・150人程度の審議員だけで全体の意見を代表するような工夫ができる
・専門家やファシリテーターとの対話を確保でき、意見を変えられる心理的安全性がある
・審議に関わる人員が国民全員ではないので、1審議あたりの負担が単純な直接民主主義よりも少なくて済む
・より多くの法案審議を並列に行えるキャパシティがある


■ 欠点
・政府が御用学者を審議に登用できる
・専門家や審議員をランダムに選ぶに際して、乱数を運営(政府)が恣意的に決定できてはいけない
・2021年現在、制度として継続運用するためのノウハウや予算感が整理・公開されていない


    つまり「システムとして安全で、予算や方法論が明確なら、すぐにでも『審議による意見投票』を実現できる」ということです!

さて、どのように民主主義システムを安全にしましょう?


解決策: 政府にも改ざんできない乱数

まずは、全体を代表する審議員の選択や、ファシリテーターおよび専門家の選択を公平なものにしましょう。ブロックチェーンと乱数の出番です。

ここで提案する乱数は、Ethereum2.0において標準装備されています。つまり、ブロックチェーンにアクセスすれば誰でも数分おきに新鮮で安全な乱数を取得できます。

法令で「審議による意見投票の開催が決定した日の最後のブロックから得られる乱数によって審議員を選出する」という風に決めておくことで、法律の世界に安全な乱数を持ち込むことが可能なのです。

乱数の安全性について: 開発者のためのVDF乱数の説明 


少し意識が遠のいてしまいましたか?気をしっかり!でも大丈夫、もう説明の67%は終わりましたよ!

最後に攻撃シナリオを潰しておいて、まとめに入りましょう!


抽選制の課題: 脅迫

上記の抽選による民主的手続きは、マイナンバー(実名と紐付いた国民ID)を索引として乱数で国民を選出することを想定しており、乱数はブロックチェーン上に公開されるので「マイナンバーDBを持つ人にとっては審議員が誰なのかわかる」と言えます。

よって政府のような強力な主体に対して脅迫耐性がないと言え、これは2021年の香港やベラルーシやミャンマーのような環境において民主主義を維持できない制度設計であることを意味します。


そんな仕様日本には必要ないって?あなたマーフィーの法則を知らないんですか?

攻撃のコストを上げて、期待利益を下げることは、セキュリティの基本です。おぼえておいてくださいね!


いかに脅迫耐性を得るか

前提として、Starlinkのような衛星インターネットとAndroidのような安価なスマートフォンが国民すべてに行き渡っており、義務教育や生涯学習を通じてそれらを扱えるだけのリテラシーがあることとします。

なんせ、インターネットを作った偉大なるティム・バーナーズ・リー卿によれば、インターネットアクセスは人権ですからね。これは止められない世界のコンセンサスです。

さて、どうやって脅迫耐性を得るか、みんな大好き匿名化技術です。田舎のおばあちゃんも生涯教育センターでアプリの使い方を学んで、匿名になってもらいます。素敵ですね!

まず、ユーザーはアプリを起動します。するとEthereumアドレスが裏側で自動的に作成されます。このアカウントで「本人確認」をします。予め役場で登録したマイナンバーや声紋などを用いるのが今風でしょう。確認後のアカウントとアイデンティティの紐づけは、民主的に市民に信任された団体が行うようにしましょう。彼らは、機動隊が押し寄せてきてもいいように、リモートワークを可能にして身元を隠しましょう

その処理が終わるとすかさず、アプリは「匿名化」を開始します。別のEthereumアカウントが生成され、スマートフォンが数十秒計算処理をしたあと、アプリ内にワンタイムパスワード(zk-SNARKsのproof)が保存されます。もちろん、ユーザーはこれを目にすることはないため、ただ待っているだけです。そして最後にボタンを押すと、「アイデンティティと紐付いてはいないけど、国民であることはわかっているアカウント」が完成します。すごいですね!

以上、実際のところアプリを開いて本人確認をするだけで、政府が攻撃的な状況で国民発議に参加したい人々のやらねばならないことは完了です。簡単ですね!

このEthereumアカウントは、Webサービスやアプリの側で対応をするとログイン認証に使えるため、「審議員、ファシリテーター、専門家しか参加できないZoom会議」なども実現可能です。

そして匿名なので、自らの社会的アイデンティティに紐づくような今更変えられない主張とは関係なく、素直に過ちを認めて熟議内投票を行い、その投票の内容や熟議への参加を一切明かさず普段の社会的アイデンティティに戻ることができます。これってすごいことですよね!「故意の無知」への処方箋です!

また、匿名化セッションの参加者が全国民の30~50%を超えていないとその法案審議の投票結果は無効であるような "法的な" ルールを提案作成に付与しておくとよりよいです。

なぜなら、全体の0.0001%の国民しか匿名化セッションを済ませていない状態で「この法案は匿名審議でなくてはならない」と法案提出フォームなどでフラグを立てると、ルール上は一部の国民だけで法案成立を狙える余地があります。それを防ぐためです。

【参考】匿名化の安全性について: masquerade(熟議と投票のための匿名化セッション) 


まとめ

・憲法レベルではなく立法府レベルの国民発議制度の導入

・ブロックチェーンで生成された乱数を参照した審議による意見投票

・選択的匿名化セッションによる脅迫耐性


の三要素が揃うと、ほとんどの状況で腐敗せず、各人が自分の興味に没頭していても全体としてはうまくいく「アプリによる直接民主主義」が可能になります。

日本においては「国民発議」を成立させる政治的プロセスが課題となります。N国党のようなワンイシュー政党と相性が良いでしょうね。


さて、これがどのくらい簡単なことなのかというのをもう一度おさらいして、いかに我々が "怠惰で牙を抜かれた小猫ちゃん(あるいは他責にして現実逃避する豚)" なのかを再確認しましょう!


必要なソフトウェア

すべて無料であり、UI側は無料、バックエンド側はブロックチェーンなので2021年においては技術革新の結果、無料みたいなものです。

Ethereum2.0

・匿名化セッション masquerade

・本人確認アプリと法案リスト polipoli-web.com

・リモートワーク可能な熟議の場 Twitter Spaces と Postalk

・Ethereumベースの投票システム vocdoni.io


ね?あるものを組み合わせるだけです。

私は2年前からこのプロジェクトにとりくんでいて、ようやく現実的な道筋が立ちました。

あと必要なのは組みあわせ形にすること、広めること、変えること、です。

手を動かして汗をかきたい人は @shogochiai までDMください。

政治に文句だけ言って3分後には全部忘れてツイッター回遊したい人も、お願いですから、リツイートだけはお願いします。

希望は公共財であり、それを後世に残さないと、恨みを買っちゃいますからね。成仏するためにリツイートをぽちっとお願いします。


余談と予言

脅迫耐性があるなら監視行政も罷免できます。

この性質は、これから「これ以上規制が高度化できない問題」が顕在化したときの処方箋となります。

規制が賢くなるまでできないことって山ほどあってはがゆいですよね?まずは、ここからです。


告知

TEDxにてこの内容を英語で発信しています。米国の弁護士から文献を引用した長文の論考が寄せられて困ってます。誰か海外とのコミュニケーションを助けてください。


Youtubeやってます。

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