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なぜ僕(ら)は Ars Electronica に行くのか

Ars Electronica Festival 2018 に行くことになりました。
(最後の方に書きますが、展示とかではなく会社の視察業務として行きます)

https://ars.electronica.art/news/en/ars-electronica-festival-2018/

実際に行く前に、リンツまで何を見に行くのか、なぜ行くのかを整理するためにこの文章を書いています。
表現者であったり広告屋であったりプログラマであったり、アートファンである、ごちゃまぜの個人的な話や、その話を一般化して話す自分語りも多くなりますが、フィードバックをもらえたり、同じく今年行かれる方の参考になればと思い、オープンソースカルチャーに倣ってWebに放つことにしました。

僕と Ars Electronica
僕が初めて Ars Electronica を知ったのは約十年前、学部生の時でした。当時、建築学科で建築CADの研究というとてもニッチな分野の勉強をしていたときに、研究室でプログラミング勉強会があり、その成果発表のネタを探していたところ 「zach lieberman らが openFrameworks というフレームワークを利用してArs Electronicaセンターのライトアップをした事例」 を見つけ、いわゆるオーディオ・ビジュアル・プログラミングを行い、発表したのが Ars Electronicaというか、メディアアートというかopenFrameworks とのはじめての出会いでした(当時はいま出た横文字の単語すべて知らなかった)。当時の結構固い研究室の中での発表の際には、キョトンとされ、また、周囲にも同じような興味を持つ友人もいなく、自分自身にアーティストマインドもあまりなかったため、「何か変なことやっちゃったな」とだけ思い、その後普通の研究に戻り、普通のサラリーマンプログラマになりました。

https://vimeo.com/4706049

話はそれますが、最近、とある大御所の人にその話をしたら「本当にもったいないことをしましたね。才能とか置いておいて、それだけ早い時代からoF使ってたら今ではそれなりのポジションだったんじゃないかな」と言われ、自分の先見性の無さ、当時あまりに何も考えていなかったかを痛感するという体験がありました。

そんなこんな、紆余曲折をへて、右も左もわからずに初めて Ars Electronica に行ったのが IAMAS在学時の2014年で、その年のテーマは「C… what it takes to change」でした。
その年は、現在のメイン会場であるPOST CITYもまだ整備されておらず、今よりもコンパクトなフェスティバルのイメージでしたが、博報堂が大々的にタイアップしたり、日本人勢の受賞/発表が多く、日本って実はメディアアートが盛んな国なんだなという灯台下暗しな気づきがありました。
現地で会ったリンツ工科芸術大学のInterface Culturesコース(当時、IAMASと提携していたメディアアート系の学科)のヤツらとの交流も現在まで続いていたり、非常に刺激的な日々でした。

2回目の Ars Electronica は社会人になってからの2017年(昨年、今年と同じく会社の視察枠)で、リンツに着いてまず思ったのが、フェスティバルのスケールがデカくなっているということでした。POST CITY が整備されたことは知っていましたが、あまりに巨大なメイン会場と、展示の多さにはとりあえず物理的に圧倒されました。
「会社の視察業務として行く」と行くことで少し気構えていたところもありましたが、「好きなように見て、報告会で好きなように話してくれればいい」という上長の言葉のおかげで、学生時代とほぼ同じマインドで、学生時代より多少は知識があり、知り合いもいる状態で参加することが出来たので、かなり得るものの多い日々でした。
今思うと一つ残念だったのが、帰国してから、社内/グループ会社内の報告会はあったのですが、もっと大々的に広く開かれた報告会/打ち上げがあっても良かったのかなと言う点です。現地では、数日間でかなりの展示を見て回らなければならないので、一つの展示について深くディスカッションすることはあまり出来ません。そのため、帰国してからでもいいので、一方通行な報告会ではなく、参加者同士で(もちろん、実際に行ってはいなけど興味のある人も参加してもらって)会社とか立場とか関係なく自由に話せる場があっても良かったのではと思ってたので、今年は企画したいです。(企画します詐欺にならないようにします)

そもそも Ars Electronica とは
日本で「アルス・エレクトロニカ」と言うとき、一般的には アルス・エレクトロニカ・フェスティバルを指すことが多いですが、正確な表記は Ars Electronica Linz GmbH & Co KG で、無理やり日本語にすると「有限合資会社 リンツ市公営 アルスエレクトロニカ」という感じになり、

アルスエレクトロニカ・センター
アルスエレクトロニカ・フューチャーラボ
アルスエレクトロニカ・フェスティバル (フェスティバル全体)
プリ・アルスエレクトロニカ (コンペティション)

などの運営を行う公営企業となり、公営企業と言いつつも財源に占める税金の割合は3割程度で、残りは一般的な企業活動による収入で活動している第3セクターです。

https://ars.electronica.art/about/en/

なぜ、このような豆知識を出して来たかというと、アルス・エレクトロニカが単なるメディアアートの見本市ではなく、リンツ市が戦後の鉄鋼業の衰退等による斜陽化から、文化都市として再発展しようと言う試みの結果である、という事実を確認したかったからです。
アルスエレクトロニカ・フェスティバル = 世界一のメディアアートファスティバルすごい
という見え方は当たり前なのですが、
もう一つの側面、メディアアート(以前は電子音楽)という新しい文化/ムーブメントに対する恒久的な受け皿としてしっかり機能して、かつ、それを地元市民に開かれた形で、市民の理解とともに運営されている組織としてのアルス・エレクトロニカの方も、もう少しクローズアップしてもよいのではという提案がしたかったからです。
日本国内でも、YCAMのような事例があったり、ICCや科学未来館が、たまに来場者参加型のプログラムをやっていたりはしますが、メディアアートというか、現代美術をただ崇高なもの、限られた人たちだけのもので終わらせるのではなく、一般の人々がその世界に気軽に入っていける仕組みがもっとあれば、業界の活性化につながり、マーケットも広がり、社会還元も出来ていいこといっぱいじゃないかと無邪気に思うわけです。

参考書籍として、日本語で読める、アルス・エレクトロニカに関するまとまった文章としては、博報堂の鷲尾 和彦さんの本が、現在のところ唯一の書籍かつ、網羅的な内容になっているので、アルス・エレクトロニカとは何なのかを知りたい方は一読しても良いかもしれません。
こちらの本は「メディアアートの歴史の中でアルス・エレクトロニカがどのような役割を果たしてきたか」というよりも、「アートによるまちづくりの成功事例としてのアルス・エレクトロニカ」についての本なので、前者の文脈を期待して読むと、少し肩透かしを食らうかもしれませんが、後者の文脈として、クリエイティブを中心としたコミュニティー活性化の事例紹介として読むと非常に示唆深い本だと思います。

アルスエレクトロニカの挑戦 / 鷲尾 和彦(2017) 学芸出版社
http://book.gakugei-pub.co.jp/mokuroku/book/ISBN978-
4-7615-2641-2.htm

今年のテーマ "ERROR – the Art of Imperfection" について
実際に行かれたことのある方や、毎年作品カタログを見ている方は気づいているかもしれませんが、毎年のテーマは出展作品/受賞作品にはそこまで強く影響はしませんが、時代を象徴する言葉が選ばれ、そのテーマを切り口に作品を見ると、ある程度トレンドが見え、なんとなく一貫性が感じられます。それっぽく言うと通奏低音的に流れているという感じでしょうか。
近年は「AI Artificial Intelligence - Das andere Ich」(2017), 「POST CITY – Lebensräume für das 21. Jahrhundert」(2015) など結構具体的な言葉が選ばれていましたが、
今年のテーマのは「ERROR」と、 HUMAN NATURE(2009), REPAIR(2010) 以来、ある程度抽象的な言葉が選ばれました。また、今年のテーマについてのステートメントを読むと、

 "科学技術の発達した21世紀においてはERRORは効率性を妨げるものであり、排除されるべきものであると思われていたが、実際には人間は、遺伝子レベルから、社会実装レベルまで、様々な場面でERRORが起こることで前進してきた。ERRORは単なる間違いではなく、新たな可能性の源泉である。"
 とあります。(長い文章を超ざっくり意訳してます、僕の勘違いもあると思うので興味ある方はちゃんと読んだほうがいいです)
https://ars.electronica.art/error/en/theme/

この文章を読んではじめに思ったことは、ここ数年じわりと流行っている思想、「サピエンス全史」(ユヴァル・ノア・ハラリ)や、「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド)に代表される、現在の世界の形成を、ヒトの遺伝子レベルから社会システムまで様々なレイヤで通史的に俯瞰し、歴史の前進のための変化に必然性はなく、たまたまうまくいった集団/システムが次の社会システムの主流になることの繰り返しで歴史が前進してきた。その「たまたまうまくいった」の背後には無数の「たまたまうまく行かなかった」があり、今現在、たまたまそうなっている、西洋優位や、その元で成立する経済や美に対する価値観を絶対視することの危険性に、警鐘を鳴らすという思想に通じるところがあり、社会批評としてのアートの役割を再認識する年なのかな。と、勝手に思っています。

サピエンス全史 / ユヴァル・ノア・ハラリ (2016)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309226712/

何を見に行くか
基本的に展示される作品は全て見てくるつもりです(上映作品など、物理的に見ることが出来ないことがない限り)。以下に、前情報として読めるものは紹介しますが、多くの作品が写真とテキストだけじゃよく分からないものなので、個人的にグッときた個別の作品紹介については帰国後に書きます。

作品展示 / 関連イベントについて何を見ればいいかの選択は、オフィシャルが出しているハイライトと、当日朝に印刷され各会場で配布される「今日の見どころ」的なチラシが役立ちます。
https://ars.electronica.art/error/en/highlights/

僕の言葉よりも上記の情報が中立的で間違いないのですが、それらの作品も踏まえた上で、自分なりのハイライトをポツポツと書いてみます。

また、作品展示/受賞作品一覧はpdfで無料公開もされています(本で買うと€30ぐらいする)

展示を含むフェスティバル全体について
https://ars.electronica.art/error/files/2018/08/Festival2018.pdf
受賞作品について
https://ars.electronica.art/error/files/2018/08/CyberArts2018.pdf

受賞作品については
2017年のメディア芸術祭の優秀賞
Alter / Kohei Ogawa, Itsuki Doi, Takashi Ikegami, and Hiroshi Ishiguro
Digital Shaman Project / Etsuko Ichihara
今年の審査委員会推薦作品
AI DJ / Nao Tokuiさん,Shoya Dozonoさん(Qosmo)
ELECTRONICOS FANTASTICOS! / Ei Wada + Nicos Orchest-Lab
等、日本勢の活躍が目立つ年でもあります。

セッションについて
AI in Art & Science, Strategy for responsible Innovation
FRI September 7, 2018, 3:30 PM
こちらは、去年のテーマでもあった、AIと芸術を軸に、実際にAIが社会の中に浸透した時のその倫理的な責任のあり方等、近未来の社会のあり方について言及されるようです。
みんな大好き Sputniko! さんも登壇されます

Academy of ERROR
SUN Sept. 9, 2018: 10:30 AM – 12:30
MITの石井先生らが、学術研究におけるERRORというネガティブな要素を、どのようにポジティブに捉えるかについて話すようです。

Space Art – Trial and Error in Art & Science
SUN September 9, 2018, 1 PM
同じく石井先生らが、このセッションでは芸術、それも宇宙芸術というErrorが許さいない状況でのErrorとの付き合い方について話すようです
Academy of ERRORからの流れで聞こうかと思います。

セッションの概略はペライチのページにまとめられています。
https://ars.electronica.art/error/en/conference/


関連イベントについて
こちらも網羅的には書きませんが、僕が参加しようと思っているイベントをリストアップします

Ars Electronica Opening (Thu Sep 6, 2018)@POSTCITY, Train Hall
文字通りのオープニングイベントです
今年はCod.Actの作品立ち上げが見れたり、Martin Messierのライブがあったりするので朝から昼間まで、全部張り付いていようと思います。
https://ars.electronica.art/error/en/opening/

Prix Forum II – Interactive Art +
Sat Sep 8, 2018, 11:30 am - 1:00 pm @OK Center of Contemporary Art, Ursulinensaal
受賞作品、特にインタラクティブアート系の作品について、審査員とアーティストがディスカッションする場です。池上隆さんや小川さんなど、登壇者に日本人が多いのも今年っぽい感じがします。
https://ars.electronica.art/error/en/prixforum2/

Sparkasse OÖ Visualisierte Klangwolke (Sat Sep 8, 2018)@DONAUPARK
アルス名物ドナウ川沿いの花火大会。過去にインテルのドローン花火がお披露目されたり毎年話題になる風物詩です。
昨年は、ブルックナー管弦楽団の演奏に合わせて、川の上に展開されたタグボートと地上のクレーン上で、白鯨をモチーフにした(?全編ドイツ語だったのでほとんど意味が分かりませんでした)謎のスペクタルが展開され、途中ドナウ川上空にヘリコプターが現れて旋回して去ってい行き花火が打ち上げられるという、謎に、とにかくスケールのでかい演出でした。
https://ars.electronica.art/error/en/klangwolke/

OK Night (SAT, 8. SEP, 2018) @OKミュージアム
CyberArtsの展示が行われているOK Offenes Kulturhausで開催されるイベントです。聞いた話では20年近くの歴史のあるイベントで、毎年関連アーティストの社交場となっています。
去年、実際に行ったのですが、雰囲気としては普通の町中のクラブですが、確かに何人か著名人を見ました。
Interface Cultures のヤツらのたまり場になったり、全体的にアートについて話せる雰囲気なので、リンツにいる間はどっぷりアートに浸かっていたい方にとっては面白い場となると思います。
ちなみに、早めに行かないと平気で入場1時間待ちとかになるので行かれる方は時間に気をつけたほうがいいです。
また、参考までに、日本人はほとんどいません。
https://www.ok-centrum.at/en/program/event/cyberarts-2018-ars-electronica-exhibition-1

The Big Concert Night (Sun Sep 9, 2018)@POSTCITY地下の旧操車場広場
僕は行ったことが無いのですが、POSTCITY会場が出来てからの名物で、フルオーケストラと現代音楽の交差するなんでもありのコンサートです。行けた人に感想を聞くと「とにかくすごい」そうで、記録を見てもとにかくすごそうです。
去年はチケットが手に入らなかったのと、豪雨のために断念しましたが、今年はリベンジしたいです。
注意事項としてフェスティバルパスと別にチケットが必要ですが、9月1日現在のステータスだと完売しています。
https://ars.electronica.art/error/en/bigconcertnight/
https://ars.electronica.art/error/files/2018/08/bigconcertnight.pdf

Deep Space での展示 @Ars Electronica センター Deep Space
Ars Electronica センター内の8Kシアター Deep Spaceで、高解像度を活かしたコンテンツが大体1時間ごとの入れ替わりで上映されます。
とにかく膨大なプログラムがあるのと、会期中に同じコンテンツがの上映が2回あるとも限らず、夏フェス的なノリで絶対見たいやつだけ決めて、あとは時間を見つけてちょいちょい見る感じになると思います。
僕は、Memo Aktenさんの作品は見に行くと決めていますが、それ以外の作品は当日のスケジュール次第で決めていこうと思いっています。
https://ars.electronica.art/aeblog/en/2018/08/21/deep-space-program-2018/

勝手に会社の宣伝(会社に何か言われたら消すかも)
冒頭で、今年も会社の視察業務として Ars Electronica に行くと書きました。この文章はあくまで個人の自由意志で書いていますが、2年連続でアルス行きを認めてくれた会社に感謝を込めて会社の事を少し書きます。
僕の所属する会社は大手広告代理店系の映像制作会社で、to C 企業ではないので、全然関係のないコミュニティーの人と話していると、内情がわかりづらいためか、ざっくりと「ギョーカイの人でしょ」と思われがちなところがあります。それはそれで、完全な間違いではないのですが、そもそも「ギョーカイ」自体が既存のビジネスモデルだけではなく、新たなビジネスモデルを確立しようとしている時期で、その一環として Ars Electronica しかり、SXSW しかり、新たな表現や社会実装の可能性を提示する場に積極的に関わることで刺激を受け、実際に変わっていこうとしています。(変わらないほうが良いところもあり、そこは変わらないと思いますが)
そのような社会環境の中で Ars Electronica へ社員を派遣する、もっと一般的な言い方をすれば、すぐにはカネにならないはずのアートに投資することは、ビジネスとしても、新しいもの/表現/考え方が求められている事への対応でもあります。
既存のビジネスを持ちながらも、そのような対応が可能な程度に、変化に対する柔軟性を持っている組織にいれて良いなと思う今日この頃です。

一応求人のリンクなど張っておきます。こんな感じでそこそこ楽しくやっております。
https://www.wantedly.com/projects/174777
宣伝終わり


色々と回りくどく書きましたが、とにかく色々見て、楽しんできます。

報告編へつづく(かも)



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