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一億総FIREは可能だろうか

あらすじ
海外投資の上がりで国民全員が豊かに暮らすのは可能だろうか…? イギリスと日本を例に考察してみる 


①この話のはじまり

3月30日の野本響子さんのnote

https://note.com/kyoukn/n/n461bf4dd7d22?magazine_key=mfb7ba3470b4a


以下の構造で対外資産を増やせるのではとコメントしました

円安←資産の更なる海外逃避

↓            ↑
海外資産の相対的な価値上昇

そんでもって、海外資産の収益で食い繋ぎながら、ユルユルと衰退していけばいいじゃないかと・・・

一億総FIREだ!! 目指せニート国家!!

そうな旨い話があるのか? 
あるかもしれない
20世紀初頭のイギリスがそんな感じでした。 
海外資産が生み出す収益がGDPの8%程度もあって、その金で経済を廻していたのです。 
写真の下のグラフの白線がイギリスの投資収益の名目GDP比です↓↓↓

日本経済新聞 2001年連載 変調貿易黒字大国より抜粋 

そんな芸当が日本でも可能なのか? 
見出し画像のグラフをみてください
日本の1985年以降の国際収支推移です。
ちょうど円高が始まった頃からコロナ前までです。
昔と違い貿易黒字はほとんどありません。 
輸出と輸入が大体トントン
サービス収支の赤字も、インバウンドブームでやっと黒字になりましたが、そもそも絶対額がそんなに多くない。

圧倒的なのが黒い網掛け部分の第一次所得収支です。
20兆円を超えてGDPの4%くらいある
20世紀初頭のイギリスの8%には及びませんが、80年代の貿易黒字より割合が大きい。
「日本企業は世界に製品を輸出して外貨を稼いでいる」そのように言われましたが、現在は違います。
「海外投資の上がり食い繋いでいる」のです。


②イギリスが海外資産で食い繋いだ経緯
いち早く産業革命を成し遂げたイギリスは、19世紀に「世界の工場」として君臨します。しかし19世紀終わり頃からアメリカやドイツの追い上げを受けて、徐々に守勢に立たされます。
この時に必要だったのが、自動車や石油産業などの「第二次産業革命」と呼ばれる業種でした
でもそれらの産業が花開いたの20世紀のアメリカでした。
イギリスでは馬車業界を保護するための赤旗法が1896年まで温存され、自動車産業の発達を妨げます。

↑赤旗法概要 Wikipediaより

そんなワケで、イギリスはこれまでに積み上げた海外資産からの上がりで100年くらい食い繋いでいくことなりました



ーめでたしめでたしー

③日本の場合に当てはめると
これって90年代以降の日本にそっくりじゃないですか?
円高で製造業の産業空洞化が進行して、生産拠点は人件費の安い国に移転する…
経済構造がソフト中心になったのに対応できず、パソコンはウィンテル連合(ウィンドウズ+インテル)に覇権を握られる・・・
液晶も中韓に猛追される・・・
ソフトを握るアメリカと後発の中国・韓国に挟撃されて、日本企業は存在感を失っていきます。
少子化も進行して国内に有効な投資先が見つからず、金融機関は国債を買いまくる。
ついで長期のデフレ(1873年~1896年)までそっくり。

でもダメダメだった国内に投資しない分、海外資産投資は積極的に行いました。
そして2000年代の後半から、第一次所得収支の黒字が貿易黒字を上回るようになります。
そして現在の日本経済は、海外から毎年20兆円近い投資収益が入ってくる、おいしい構造になっています。

④1億総FIREをいつまで続けられるの?
20世紀初頭に国ごとFIREしたイギリス
しかし二度の世界大戦で海外資産の大部分を失ってしまいます。
それでも第二次世界大戦後に頑張って「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれた高福祉社会を建設しました。
貧富の差がひどいと社会不安や戦争を誘発しますからね。

1960年代に入るといよいよ経済状況が苦しくなって、「欧州の病人」とよばれるようになります。
1970年代には過去の繁栄で蓄えた資産を使い果たし、恒常的なインフレとスに悩まされ、電気はしょっちゅう止まり、墓掘り人やゴミ取集業者もストレスを行い、社会機能がマヒする事態と相成りました。         
何とかしたくても先立つものが無いんかだからしょうがない・・・

繁栄のピークから百年かかって没落したのであります。

⑤資産を食いつぶしてから復活するまで
1979年にマーガレット・サッチャーが首相に就任して、血も涙も無い改革を断行します。                            むごい改革の成果により、90年代に入ったあたりからイギリス経済は復活します。
しかし改革が遺した傷痕は大変に深く、社会は完全に分断されてしまいました。

サッチャーは2013年に亡くなります。
衰退したイギリスを立て直した「中興の祖」に違いありません。
ところが彼女の死去の報を受けて英国各地で祝賀パーティーが開かれました。
改革の断行時からおよそ30年、イギリス経済が復活した20年以上後のことです。
一世代経過しても怨嗟は消えない・・・
戦争の傷痕よりひどいかも?
余談ですが、サッチャーは死後に地獄も民営化したらしい・・・顧客?満足度も低そうだし、赤字だったのかもね。

⑥日本国のFIRE状態を長続きさせるには
・大規模な全面戦争を避ける
前述のとおり二回の世界大戦で、イギリスは対外資産の大部分を喪ってしまった。
貧富の差があり過ぎると、全面戦争でグレートリセットを起こす誘因が高くなる。                               その反省からかイギリスの有権者は、戦勝が確定してすぐにチャーチルを首にします。
そして労働党のアトリーが福祉国家を建設しますが、時既に遅し。海外資産の大部分を吹き飛ばしてしまったあとでした。
どうせなら戦争になる前にやっておけばよかったのに
日本が第二次世界大戦に突っ込んでいったのも「下方への平等化」を目指したからだとの説もあり・・・

・資本VS労働を先鋭化させない
資本の分布は所得以上に不公平です。
誰もが海外投資の収益を手にできるワケではありません。
でも資本家が国内で消費をすれば、その分け前には皆が預かれます。
20世紀初頭のイギリスは、今の日本以上に不平等な社会でしたが、庶民階級の生活は当時の平均的な日本人より遥かに豊かでした。


※用語解説 テキトーです正確な知識が欲しい人はググりなされ

貿易収支  財の輸出ー輸入 (備考)80年代は巨額の貿易黒字だ叩かれたが、さいきんの収支はトントンくらい

サービス収支 輸送・旅行・証券売買にかかわる金融手数料・知財関係の受取及び支払いの総計 (備考)2019年にインバウンドブームにより初の黒字化

第一次所得収支  海外資産からの投資収益(株の配当や国債の利子の受取及び支払い) 非居住者に支払われる雇用者報酬 (備考)大体20兆円くらいの黒字

第二次所得収支 ODAとか  (備考)2兆円くらいの赤字

経常収支 貿易収支+サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支 (備考)巨額の第一次所得収支に支えられて黒字です

※口絵の写真 内閣府の統計より抜粋 

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