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竜虎激突

小学校一年生の思い出。

地元の小川公園にて、僕とK君とN君の三人はベイブレードで遊んでいた。僕はK君のを借りて、N君は自分のものを使って、公園の至る所で、3,2,1,ゴーシュート(ベイブレードのバトルを開始する掛け声)ベンチの座る部分でもゴーシュート。

水飲み場の石の上でもゴーシュート。

滑り台でもゴーシュート。

もはやベイブレードを回してどっちが弾いただの、どっちが長く回ったかを競うための物なのかもわからなくなってきていた。

そんな時、僕は公園の入り口付近に目が行った。そこには長いアスファルトのスロープが続き、滑り台よりも広く、傾斜も緩やか。

ここ以上に最適なベイスタジアム(ベイブレードで互いを競い、高め合う場所)はないと、確信した。

僕は早速、K君とN君にスロープでのベイブレード遊戯を申し出た。三人はスロープの頂上から、高まる気持ちを解き放つようにゴーシュート。

スロープに降り立った三つのベイブレード、もとい三頭の竜は坂を高速で下りながら、鍔迫り合いを繰り広げては熾烈を極めていた。

K君もN君も、その竜の戦を見て、盛り上がってくれていた。僕もこの最高のベイスタジアムにエスコート出来たことを誇りに思って、深く胸に刻んだ。

ただ、一回戦った時点で、僕は水を差しざるを得ない状況にあった。スロープの戦いは他のベイスタジアムに比べてベイブレードへの負担が重いため、最悪の場合、竜が召される事態が想定出来たのだった。

僕は意を決してK君に申し出た。(K君は最終的にもガキ大将だっため)

しかし、このベストロケーションの魔力は、絶大なるものだった。取り憑かれたK君は聞く耳を全く持ってくれなかった。

K君が「次、やるぞ」と言えば、やるのが僕とN君の立場だった。

それから、何度かあとのゴーシュートで、その事態は招かれてしまった。

K君の竜が少しケガをした。僕は内心ホッとした。僕がK君に借りた竜にケガを負わせていたら僕は怒られていたし、これはこれで、K君も僕の忠告を分かってくれるだろう。

そう思っていたが、傷ついた竜を見た彼の次の一言で、これが僕の誤認に過ぎなかったのは明らかだった。

「この場所の遊び、考えたの誰だ」

K君の傷も思ったより深かったらしい。なぜなら、僕の借りた竜はK君にとって所詮は二番手。最も大切な事実は、K君の一番のお気に入りはK君自らが使い、そのお気に入りの竜が負傷した。

僕の勧めたベイスタジアムで。

「でもさっき、ベイブレードが傷つくからやめた方がいいかもって言ったよ」

K君の前で、心なしか僕の声はか細くなった。K君は僕の話をどこまで聞いているか分からないが、憎い目をちらとこちらに向けて、その日のベイブレード遊びは終わった。

K君はその後も何度か傷ついた竜の翼膜を切なそうに確かめていた。

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