あとがき(keep walking)

あけましておめでとうございます。
早いものであっという間に新年を迎えてしまいましたね…。今年もどうぞよろしくお願いします。

さて。
新年一本目の記事は、去年初めて作った本「keep walking」のあとがきです。一応ね、本の方にはさら〜っと書いてはいるのですが。
折角こうして好き勝手(ではない、多分)、文字数気にせずガシガシ書ける場があるのなら、書いてみるのもいいのかな、と。
あまり深刻なネタバレにはならない程度に、あとがきという名の裏話を書いていこうと思います。
既にお話を読んでくださった方はもちろん、まだ読んでないけど実は気になってた、なんて方もぜひ、お付き合いくださると嬉しいです。もっといえば、本を手にとってくれたらとっても嬉しい。なんせ、六万字あるお話なので…。圧倒的に紙の本の方が読みやすいと思います。在庫はまだ全然余裕があるので、ご検討していただければ幸いです。
https://sen-mojikaki.booth.pm/items/5265611



どうしてこの話を書こうと思ったのか


きっかけは、Kalafinaの「未来」という曲に触れたから。
https://open.spotify.com/track/7qnW1xK7zC4pEWhm45grKn?si=5yqxdKXzQa-bWGK0wpB2Tw
前々から梶浦さんの曲が大好きで、曲はもちろん聴いていましたし、曲詞集も購入して何度も読み返しているのですが。
「そんな寂しい心では、大事なものも失くしてしまう」「少し優しい未来を信じてもいいんだよ」というフレーズが、大好きで。改めて歌詞を読んでみると、すごくmygに送りたい曲だなと思ったのです。(ちなみに、その他のmygに思いを馳せる曲たちについて語っているのはこちら。お時間と興味がありましたら、どうぞ。https://note.com/sen_mojikaki/n/nc6c67c4192b3?sub_rt=share_h )
誰かを頼るとか、弱音を吐くとか。soちゃんを亡くしてから、そういうことを誰にもできないまま、一人で何もかもを抱えて歩いてきたのだろうmygに、そんな言葉を投げてくれる人がいたらいい。やさしい言葉をくれて、寄り添ってくれて。暖かな未来を信じさせてくれる。信じてもいいと思える。ほんの少しだけ、頼ってみてもいいのかもしれない。そう思わせてくれる人が、大人が、彼の近くにしてくれたなら。
そんな思いが始まりでした。

イメソンについて


曲の話が出たので、ついでに。
最初はそれこそ「未来」がイメソンでしたが、時間が経つにつれて別の曲の方がより似合うと思い、変更しました。
それが、スパイラル・ラダー「陸劫輪廻 (feat. Yuriko Kaida)」。
https://open.spotify.com/track/23dtN8nrfTME8esaA20DAr?si=6WhNyk-_RfuqEoztN3HinA
Fate / Grand Orderの期間限定イベント「ぶっちぎり茶の湯バトル ぐだぐだ新邪馬台国 地獄から帰ってきた男」のCM曲。「…なんて?」と思わずツッコみたくなってしまうイベントタイトルですが、どうかそこはスルーしていただきたく。いや、目茶苦茶面白くてよきシナリオでした。ホントに。マジで。タイトルはふざけてるのに、毎回シナリオ最高なんですよね…。korさんを担当している方がCVのキャラクターが実装されたイベントでもありました。ちょっとご縁を感じちゃいますネ…(私が選んだだけ)。
まあ、ここまでは余談で。
「泣けないまま大人になる」「ただ生まれて、ただ失って、それでもまだ続いている」。これもまたmygに重なるフレーズだと、私は思えてしまったのです。
soちゃんのことがあっても多分彼は泣けなくて、沖縄に一人帰郷したあの日、やっと泣くことができたのかな、とか。バスケだけが生きる支えだった彼にとって、あの試合までの半生は正しく「生まれて失うだけ」のものだったのかなとか。
それでもどうか生きてほしい。生きることを、自分の人生を歩いていくことを、諦めないでほしい。歩いたその先に未来は続いていると信じてほしい。
あまりにも辛いことが、長い時間をかけて、それこそ降り積もる雪のように重なった故にあの事故のシーンに繋がったことが、私にはとても印象的で痛々しくて、悲しかったからこそ。
そんな願いを、ナマエちゃんに託すことにしたのです。
サビの「星の光さえ届かないとしても、君の手をとる」。このフレーズだけはmygのモノローグに使ったのは、ナマエちゃんの願いを受け取ってくれた証でもありました。

タイトルについて


これがもう、本当に決まらなかった。着々とストーリーは終わりへと向かって書き進んでいるのに、一向にしっくりくるタイトルだけが浮かばない。タイトルが決まらないというだけで、お蔵入りになるのではと割と本気で危惧していました。執筆中のテキストファイル名は「draft」。マジで何もなかった。仮タイトルさえつけられない。
まあ、今でも短編のテキストファイル名は「tmp_x(xは数字)」ですが。短いお話はガンガン数を書くし、書きかけもたくさん、なので正直これでも問題ないです。短編が完成して、タイトルも決まったら新しいテキストファイルを作成して、そのタイトルでファイル保存すればいいので。
話が逸れました。
これだというタイトル名が決まらないまま、書くだけ話は書いていこうと。黙々と書いて物語のエピローグの全容が見えた頃。ようやくタイトルが決まりました。
ナマエちゃんと出会ったからこそ、長い時間をかけて彼が辿り着いた答え。この先の人生を、未来をどう生きたいのか。どうありたいのか。彼が出した答えは、いつかナマエちゃんが願ったことそのものでした。
ナマエちゃんの願いは願いのまま、届かなかった可能性もあったと思います。口にした以上、届かなくてもいいとは思っていないでしょう。けれど、当時の彼に届いたかは分からない。届いた確信はおそらくなかった。それでも、何度でも。願いを言葉にして紡いできた結果、mygにちゃんと届いた。ナマエちゃんの願いは確かに、彼へと繋がった。彼自身の願いに変わりました。
「歩いていく」「進んでいく」「歩いていくことを諦めない」。言い方が異なるだけで、ニュアンスはどれも同じ。
それらはタイトルとして掲げるのに相応しいと。そう私がやっと納得できたのです。

ナマエちゃんについて


本編では明示されていませんでしたが、初対面時で彼女の年齢はざっくり二十三、四歳くらいのイメージでした。四年制大学を卒業して、二年目か三年目で担任を持った感じ。なので、mygとは八か九歳差。ちょっと離れてますね。でも一回りは離れてないし、まあ憧れなり淡い恋なりを抱く可能性は全然あるかなと思ってます。女の子は特に、若い新任の先生に恋しちゃうとかよく聞く話ですし。mygは男の子ですが。

担当教科が物理なのは、一つは私自身の過去が物理選択をしたから。普通科高校で理系選択、大学も理工学部卒業という経歴だったりします。高校のとき、理系進学者の理科については化学は強制、もう一つ生物と物理のどちらかを選択するというルールだったので、私は物理を選びました。成績は決してよくはなかったです(笑)。好きだったんですけどねー、いかんせん、ホントに難しい。基本となる原理原則は理解していて当然、その上での応用問題いっぱい、数学もある程度できないとお話にならない、という科目でした。計算をするというよりは、大量の記号、アルファベットをいっぱい並べてこねくりまわすイメージ。理解して覚えなきゃいけない公式もたくさん。なんなら、その公式の導出方法も理解しなきゃいけない。高校物理はまだなんとかついていけましたが、大学物理は全くの別次元でした。高校物理が更に数学的になったというか。あくまで個人的感想ですが。
それでも、ありとあらゆる自然現象の理由が一つ一つ明かされるのは、本当に楽しかったです。子どもの頃から何かにつけて「なんで?」が多くて、それで親を困らせるようなタイプだったので(笑)

もう一つの理由は、長いお話を書くにあたってのエピソードを用意できそうだと考えたから。
基本的に私はプロットを書きません。が。長いお話を書く場合は、ざっくりとしたプロットは用意します。
スタートがどこで、ゴールがどこなのか。ゴールまではどのような経緯、エピソードがあって、関係がどれくらいのペースで変化していくのか。
それらを用意するにあたって、身近な物理現象を雑学的にエピソードとして使いながら、mygとの会話を描いてみたらどうだろう、と。会話の全てを、知識を、理屈を、mygが覚えていなくても、理解できなくても。ナマエちゃんと話をしたこと、教わったことは思い出として残るのでは。日常生活に溶け込んでいるいくつもの、物理にまつわるエトセトラ。それらとナマエちゃんの存在が、担任と生徒として過ごした三年間の中で知らず結びついていたら。それは恋に変わるのでは。いくつのも物理エピソードを散りばめることで、一本のお話としての一貫性も生まれるのでは。
そういった仮定から選んだ、という理由もあります。
結果的に、このお話がとっつきにくい、難しそうと思われてしまったかな、という反省点はあったりします。
もしそういった理由で、今回のお話を読むことを躊躇している方がいらっしゃいましたら、ここで断言します。
大丈夫。難しくないです。怖くもないです。記号も数字も出てきません。本当に雑学レベルまで落として噛み砕いて、できる限り専門的な単語も出てこないようにしてあります。なんなら、物理のお話は理解できなくても問題ありません。夢小説として、普通にいつも通り読んでください。

とはいうものの。
作中に出てきた物理エピソードについて解説するイラストおまけ本を、購入してくださった方々には一緒に送付しています。本だけだと思っていた方々には驚かせてしまったようで、どうもすみませんでした。本編とあわせて楽しんでいただければ幸いです。
もう少しだけ踏み込んだ詳細な解説については、おまけ本の紹介と一緒に後日できたらと考えています。その際には、どうかまた目を通していただけたら嬉しいです。

彼と彼女の三年間


このお話をざっくり分割するのなら、高校でのエピソードと、卒業して数年後のエピソードになります。
割合的には、高校三年間のお話の方が多いですね。描いている時間が長いので、当然といえば当然ですが。ナマエちゃんとの出会いから、卒業するまで。彼女がどんな女の子かを描きつつ、少しずつ少しずつ距離が近付いているような、心を許していくような。劇的な変化はなくとも、ただただ穏やかに緩やかに。淡々と過ぎていく日常を切り取るように綴ることを意識していました。
それでも変化しない、というわけではなく。じわりじわりと、本人でさえ気付かないほどゆっくりと、けれど確実に感情が変化していきます。その感情の名前が未だ「恋」ではなくとも、信頼は確かに生まれていく。憧れのような、独占欲によく似ている気がする感情も生まれていく。その変化していく様子を、エピソードとして必要十分になるように、時間軸をどれくらいのペース配分で動かしていくのかは最後まで悩んだ部分でもありました。もう少し、それぞれの話の時期が具体的にいつなのか分かるような描写を増やせばよかったなー、とは今になって思う反省点の一つです。
私が話を書くときの癖として、会話のテンポを特に意識しているのですが。その分、モノローグが偏りやすいというか、欠けやすいというか。もっと周囲の情景を書いて、何が見えているのか、どんな匂いでどんな温度なのか、五感から得られる情報、それらについての心情を書けるようになりたいものです。まだまだ修行が必要ですね。
話を戻しましょう。
二人が高校という場所で過ごした時間の中で、mygはayちゃんへの恋心を抱いたままです。ナマエちゃんはどうなのか。彼女はただ笑っただけ。それが本当に恋なのか、そうでないのか、彼には判断ができません。ナマエちゃんも判断させるつもりがありません。生徒と教師。その立場を、絶対に崩すつもりもありません。いわゆる禁断の恋をする気はないのですから。
学校で見せる先生としての彼女。休日にだけ見られる、自然なままの彼女。ナマエちゃんからすればどちらも本当。社会人として、大人として、「顔」を使い分けているだけ。でもmygから見たら、「正体」を隠されているように感じる。何が本当なのか分からない。分からないまま、時間だけが過ぎて大人になってしまうのでした。

卒業後の二人


実は比較的早い段階でできていたエピソード。なんなら、ここを書くために前述の三年間があってもいいと言ってもいいほど。ナマエちゃんの「本当」が分からないまま、苛立ちや瞬間的な強い感情に突き動かされるように触れてしまった。だから、見えない。届かない。焦燥や不安に焦れる、飢えとも少し違う、空虚感に押し潰されそうなモノローグがあってこその、年齢制限シーンでした。
からの、ナマエちゃんの本心が語られるお話。この会話も、mygの焦れたモノローグとセットで初期からありました。いわば答え合わせですね。この会話で、初めてmygは彼女の本心に触れられます。
ただ、触れられたその後の展開は宙ぶらりんでした。まあそのうち思いつくじゃろ、と私お得意の放置をかましていたとある日の朝。天啓が降ります。
「あのままもう一回えっ…なことしちゃえばよくね?」
私はあのシーンをボーナスステージと呼んでいます(笑)。その所以、どうぞ未読の方はその目でお確かめください。
エピローグについては、本当に一番最後にできたエピソードでした。こういう会話をしようと、前々から考えて用意してはいたけれど、間を埋めるモノローグがない。どうしたものかな、と思ってはいましたが、終わりへと向けて書き進めていくうちにちゃんと浮かんできました。よかった。
長い長い時間をかけてmygが見つけた答え。それはこのお話で出会ったナマエちゃんがいたからこそ、見つけられた答えだと思います。きっと違うお話だったなら。ナマエちゃんがもっと違うキャラクターだったなら。その答えも違っていたものになっていたんじゃないかな。
記憶に関する問答も、結構気に入っています。ナマエちゃんらしい、さっぱりと割り切った考え。理解しているつもりでも、寂しさを拭いきれないmyg。彼の気持ちを汲み取った上で、「大丈夫」とフォローしてくれる優しさ。彼氏と彼女という関係に変化はしても、mygより少しだけ早く生まれて長い時間を過ごしてきた、多くのものを見てきたナマエちゃんだから伝えられる言葉が、見解がある。それを惜しみなく伝えてくれる。決して馬鹿にすることなく、受け止めてくれる。そういうやさしい女の子を目一杯描けて、書いている私が幸せでした。

──とまぁ、こんなものでしょうか。めちゃめちゃ大ボリュームになってしまいましたね…。こんなに書くつもりなかったんだけどなぁ。なんでこうなった…?
まだまだ書けそうなことはあるような気もするし、もう無いような気もするし。まだあったら書き足せばいいか。
あまり深刻なネタバレにはならないよう、つらつらと思いつくままに書いてみました。お話を書いたのはもう数ヶ月前なので、忘れていることも多かったですね。改めて本を手元で読み返しながら、ああ、こんなお話だったなぁ、と少しだけ懐かしくなりました。本だと読み返すのも楽〜。柔らかめの紙を選んだのも正解でした。曲がりやすい欠点はありますが、やっぱり読みやすい。できれば、一人でも多くの方に、本を手にとってほしいなぁ。
夜の九時頃から書き始めて、現在午前二時。眠い。あとがきだけで何時間書いてるんだ?
まあ、およそ一ヶ月近く向き合ってきたお話ですし。思い入れは当然あるわけで。読み返しつつ、書き出してみれば色々と記憶は戻ってくるわけで。
こんな風に、自分が書いた作品についてたくさん語る機会はなかなかないので、個人的にはとても楽しかったです。また機会があれば、他の話についても書いてみたい所存。需要があるかは知らん。全ては自己満足です。
というわけで、そろそろ寝ます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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