居合の早さについて
このまえ
「居合って、剣をもった相手よりも速いって、ほんと? 信じられなくて」
と訊かれました。
もっともな問いです。ぼくもそう思ってました。すでに剣を抜いている人と、剣が鞘に収まったままの人とでは、どう考えても、剣を抜いている人のほうが速そうです。だって、斬れる準備が整ってるってことですもの。
でも、居合を二年続けるうち、「あ、これ、鞘に入ってるほうが早いな」と気づきました。居合の早さについて、まとめます。
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論より証拠です。この動画を見てください。鞘から剣が抜ける瞬間を、見切れますか?
見切れますか……? 54秒からの抜刀です……見切れませんよね……(見切れないって言ってください、この話終わっちゃうので!)
ぼくも、見切れません!
刀が鞘に入った状態で、跪座をしています(片膝を立てる座り方)。その状態から少し立ちあがったと思ったら、いつのまにか、両手で刀をもって身体の正面に構えています。
なんど見ても同じです。鞘から抜き出される瞬間を見ることはできません。マジックを見ているようです。「いつのまにか」刀が抜き出されて、構えています。しかも、構えかたも異常じゃないすか? 鞘に入っていたときとは、真逆の方向を向いています。0コンマ何秒かのうちに、180度回転しているわけです。
達人は、この領域にいるのです。
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この早さは、分解すると、おおきく二つの方向があります。
①身体操作により、絶対的な速度を出す
②相手の反射を逆手にとる
①たとえば、ぼくたちは、身体の各部を順々に動かしています。足でボールを蹴るときも、片足をボール脇において、もう片方の足を後方に振り上げて、腰をひねって、ふとももを振って、膝から下を鞭のようにしならせます。
絶対的な速度とは、この種の予備動作を必要としない動きです。予備動作を必要としない=筋肉的な力の出しかたをしない代わりに、現在の位置エネルギーから力を引き出します。重力ですね。重力を味方につけて、瞬間的な速度を出します。予備動作が見えませんから、相手にとっては突然の動きです。
②ぼくたちは普通、予備動作を見て、相手のつぎの動きを把握します。でも①の動きができる人なら、相手に予備動作を見せないか、誤認させることができます。相手は普通の認識で予備動作を見ているのに、自分は瞬間的に動けるわけです。相手からすると予想外の動きに見えます。人間の反射(常時、相手の予備動作から予測している)をかいくぐっている動きです。なので、見ることはできません。
あの映像も、①と②の仕組みが手伝って、刀が抜き出される瞬間を見切れないのです。
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居合の達人は、もちろん、刀を抜いた状態でも同じ動きができます。なのになぜ、刀を鞘に入れておくのでしょうか。『ルパン三世』の石川五右衛門も、刀を常にしまったままです。
それは、刀の操作性が段違いだからです。
剥き身の日本刀を持てる部位は、柄の部分だけです。柄のなかで、両手を離して持ったとしても、一直線上の二点に触れているにすぎません。
それに対して、鞘を持つことは、刃の部分を持てる、ことを意味します。つまり、刀の反りを活かした三次元的な立体動作ができます。刀が鞘に入っている状態は、相手のどんな動きにも対応可能な構え、ということです。
まあ、そういうわけで、刀が鞘に入っているほうが早いし柔軟なのです。少なくとも、「刀が鞘に入ってるほうが遅いのでは?」と思っている人と、居合の達人が対峙した場合、確実に居合のほうが早いです。普通の人間の反射を、かいくぐる早さですからね。
サポート金額よりも、サポートメッセージがありがたいんだと気づきました。 読んでいただいて、ありがとうございました。