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トンボを食べる

「今週の土日、14:00からセミをとったりザリガニ食べたりする予定なんですがよかったら一緒にいかがですか?」

今週の火曜日、ツイッターを何気なくスクロールしていたら、思いもしないDMが来た。「映画でも一緒に見に行きませんか?」と同じくらいの気軽さで、「よかったらセミでも食べませんか?」と誘われた。

ごく平凡な文面とセミを食べるという光景の異様さ……そのギャップに思わず笑ってしまって、ぼくは「行きます!」と二つ返事をしていた。あとで後悔するとは知らずに。

誘ってくれた人は秋野さんという。ごく普通に虫を食べる人で、あるとき「ゴキブリは勝手に湧いてくるから手軽だ」と思いついて、家に出てきたゴキブリをふとらせて食べようとしたこともある。

この文章を読んで、面白さに打たれた。虫を食べるというだけで、こんなに心が動かされるのかとわくわくした。

なので、ぼくも試そうとした。

ーーセミやバッタを公園でつかまえて、その場で調理して食べる。

公園に一人で立っていた。陽射しが照りつける公園で、夏休みの子どもたちが走り回っている。その横で、短パンと虫取り網を携えていた。買ったばかりの網でセミを獲った。ジージー鳴いた。用意していた虫かごに入れ……ようとして、無理だと気づいた。ジージー鳴くセミは、手で掴めばジタバタ震える。何やら固いし、腹の部分は柔らかそう。食べる気など、全くしなかった。

一人では虫を食べられないと気づいた私は、敗北感を抱えながら秋野さんに「こんど虫を食べるときは呼んでください!」と声をかけた。それで今回、虫を食べる会に呼ばれたのだ。

駅に集まったのは5人だった。秋野さんとその友人を除いて、3人は虫を食べたことのない新人だった。

虫かごを携え、虫取り網を肩にかつぎ、半そで短パン姿の大人たちが公園まで歩いた。異様の光景だったろうが、幸いにも人がいなかった。

公園に着くなり、我々は虫取り網をもって走り回った。木の幹にとまっているセミを捕まえてはかごに入れ、地面を跳ねまわるバッタを追いかけて息を切らした。華麗な網さばきで飛行中のトンボを捕まえたりした。

1時間たっぷり、公園の虫を捕まえ続けた。

<セミ×5、トンボ×3、バッタは10匹以上の図。下にはウンチも>

「これ全部食べるの?」

虫かごを埋め尽くす量のセミ・トンボ・バッタを見て、新人3人は少し怯え、経験者は「たっぷり食べられるね」と表情を変えなかった。

虫を食べるのは思うより難しくない。虫を茹でて、食感の悪い脚や羽をむしって、油で揚げるだけだ。お好みで、醤油や塩で味を整えればいい。

食べたいと思う人もいるだろうから、詳細にたどっていく。

①熱湯で茹でる

箸で虫をつまんで熱湯につける。虫が苦しまないように一気にお湯につけることが大事。虫には痛覚がないから「苦しむ」ことはないけど、羽をバタつかせてお湯が飛び散るので、さっと殺してあげたい。

殺菌の意味もある。我々は1分を目安に茹でた。

虫エキスがしみてもいい鍋を使うことが大事だ。20匹もの虫を茹でると、何とも言えない匂いと色になる。

②羽や脚をむしる

次は、食感の悪いところを取ってあげる。美味しく食べるために必要な工程だ。

虫を素手で触る必要がある。要領は魚を解体するときと同じだ。魚の鱗をこそげ落とす感覚で、バッタの後ろ足や頭、セミの羽やセミの頭、セミのオスなら声帯を取ってあげる。

素手で触ってみれば、拍子抜けすると思う。ただの解体作業にすぎない。パッパと済ませて、早く食べてみたいという気持ちが醸成されてくる。

手に虫の匂いがつくのはご愛嬌。

③油で揚げる

虫をカリッと揚げる。お湯の水分をしっかりふきとることも大事だが、虫の身に水分があるため、油が飛び散ってしまうことに注意したい。油の温度は低めがオススメだ。高い油だと写真のように焦げてしまう。虫本来の味を楽しめない。

楽しみたい人がどれだけいるかは疑問だが。

④食べる

最初のひと口、それがすべてだ。

初めて昆虫を食べようとすると、背中をゾワゾワした何かが流れる。跳ね回っていた虫を捕まえて、お湯で殺して、油で揚げて、箸でつまんで、口もとに運ぶ。

「ありえない」と保守的なぼくが叫ぶ。「食べてみたい」と進歩的なぼくが叫ぶ。怖がりながらもワクワクしている。そして周りの人が食べるのを見回す。唾を呑む。えいやっと口にいれる。咀嚼する。舌で舐めてみる……

ーーあれ、サクサクしたお菓子じゃん。

最初の一口を乗り越えてしまえば、もう何でも食べられる。カラッと揚げたトンボかバッタがいい。ごく普通のスナック菓子だ。サクッとした食感、油の香り、少し中身を感じるお腹。初心者向けの味だった。

セミは勇気がいる。何だか固そうに感じるし、お腹には何か詰まっている。外見からして食べにくい。えいやっ!と食べてみると、カラッと揚がっているからかトンボと同じような食感だった。しかし腹の部分に中身を感じる。苦かったのでビールで流しこんだ。「樹液とか吸ってるからかな。おいしいね」などという人もいた。

<結論>

虫を食べるというと、肌がゾワッとする人もあるだろう。そこらの木で鳴いてるセミ、公園で跳ねまわってるバッタ、飛んでいるトンボを捕まえて食べる。何の罰ゲームかと思う。絶対に食べられないと思う。

でも食べてみると意外にも、普通なことに気づく。「あれ、スナック菓子じゃん」と気づく。なんで怖がっていたのだろう。虫を食べることを恐れていたのではなくて、虫を食べるというイメージを恐れていたことに思い至る。

虫って普通に食べられるんだ。

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