FEMAとDAO――ネット時代の組織について:自律分散組織
21世紀の初頭、9.11のテロ事件が起きたアメリカでは、緊急事態への対応を根本的に組み替えた。
そのひとつが、これまで独立組織だったFEMAを、国土安全保障省に統合することだった。FEMAは連邦緊急事態管理庁と呼ばれ、ハリケーンや洪水、原子力災害など危機的な事態を管轄する組織である。国土安全保障省に統合することで、緊急事態に対して、より一元的にスムースな対応ができると目されていた。
しかし2005年、その構想はあっけなく崩れた。
ハリケーン・カトリーナに対してうまく対応ができず、被害を拡大させてしまったのである。初動対応が遅れ、対応が後手後手になって適切な動きを取れず、災害の規模を大きくさせてしまった。死者行方不明者をあわせて2500人あまり。災害の情報が入ってくるにつれ、政府の対応の悪さが際立った。
このことは、アメリカ国内で大きな議論を読んだ。
――危機管理を充実させるために、組織改革をやったんじゃなかったのか。
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「当時の対応の何が悪かったか」「どうやったら危機管理がうまくいくのか」
これらの問いに答えた教科書がある。Donald F. KettlのSystem Under Stressだ。そのなかに印象的な一節がある。
「連邦組織の危機管理で大事なのは、命令による統合でなく、各部署の努力を統合させることに焦点を当てることである」
当時のFEMAと国土安全保障省は、何をするかを決めるとき、手順や命令を待った。
たとえば、被災地からの救援要請を待っていた。救援要請がなければ、動けない。平時ならば当然である。でもハリケーンに襲われている最中の被災地は、要請できる状況ではなかった。風雨で電話線が切れ、浸水により電源を喪失していたのだ。
ほかにも、水道復旧の応援チーム受け入れのための許可が降りなかったり、医療チームが足止めされたりしている。
手順や命令を第一にすると、「命令がないから、する必要はない」「指示がないから、許可できない」という判断になる。とくに災害時は、さまざまな部署が一斉に動く。それぞれの箇所で摩擦が生まれやすい。
じゃあ、命令がうまく行き亘るようにすればいいのか?
Kettlは、その発想が失敗なのだという。重要なのは、各部署が動くときの目標を統一することである。目標に対して、各部署のなすべきことを明確化することである。そして、それらが自発的に行われるよう動機づけすることである。
端的に言うと、努力の方向性を統一することである。
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暗号通貨界では、そのものズバリな言葉がある。
DAOという概念である。Decentralized Autonomous Organization(自律分散組織)の頭文字をとったDAOは、中央管理者をもたず、参加者が自律的に行動することで、組織自体がほぼ永続的に動き続けるものである。BitcoinはまさにDAOである。反抗する参加者が過半を超えないかぎり、システムの堅牢性は保たれる。命令するものはいない。参加者がそれぞれの利益に従っていることで、全体として系が保たれる。
この種のDAOは、いまネットの世界にたくさん生まれている。Ethereumの開発者コミュニティもDAO化しているし、佐渡島さんが関わっている漫画プロジェクトも完全にDAOを目指している。
誰も命令しない。誰も損しない。「これをするんだ」と何かひとつを共有して、自律的に自分のやりたいことをやる。それが系自体を強くする。アウトプットもたくさん出てくる。自然と系は正のネットワーク外部性を持つようになる。転がりだしたら、止まらない。どんどんやりたい人が現れる。系に貢献すれば、対価がある。抜けたい人は抜ける。最後のひとりがいなくなるまで、なくならない。
現代の組織はDAOを目指すべきだし、そもそも過去偉業を成し遂げてきた組織体はDAOだった。
すべて本質に帰っていく。本質とは何かを考えている人は、強い。
サポート金額よりも、サポートメッセージがありがたいんだと気づきました。 読んでいただいて、ありがとうございました。