鞘を引く。

居合を始めると、最初のうち、繰り返し言われることがある。

「刀を右手で抜いちゃいけない。左手で鞘を引くの。そうすれば自然と刀が抜けるでしょ」

初心者のうちは、ふむふむと頷く。鞘をビュっと引いて刀を出す。鞘を引いた分だけ、刀を抜いたことになる。刀は左手で抜くんだ!  おお! できた!  そうか左手で抜けばいいんだ。

そう思って、意識的に左手を使う練習をする。そのうち無意識に左手を使えるようになる。これでもう刀を抜く動作はマスターした、なんて、鼻を高くする。

しかし、そう単純ではないことに気づいた。

単に、左手を使って抜くわけではないからである。初心のうちは、どうしても左手で抜くことを考えるあまり、体さばきや足さばきとの連動を忘れる。

体さばきで抜く、と言われても、その意味にはふたつある。腰や膝、足を開いていくことで、刀を抜いていく方向性。半身になることで、抜いていくのだ。

もうひとつは、左手と右手を連動させて刀を抜いていく方向性。両腕を繋ぐのは体幹だから、体幹とともに両腕を運用していく。

これらふたつの方向性を、最近、体現できるようになってきた。動きは、溜めを作ってうねってはいけない。身体各部が等速で一斉に動く必要がある。

刀を抜いてみると、刀を短く感じるのだ。もちろん長さは変わっていない。けれど、身体が大きく効率的に動くようになったから、相対的に小さくなった。刀の重みも、感じなくなってきた。手も、非常にやわらかい。手がやわらかいと、刀もやわらかくなる。ぜんぶ、変わり始めた。

面白い。



サポート金額よりも、サポートメッセージがありがたいんだと気づきました。 読んでいただいて、ありがとうございました。