【追悼】自分だって足を踏み入れるかもしれない 『失踪日記』【読書ログ#101】
吾妻ひでおさんが亡くなった。享年69歳。正直、そんなに長生きされていたのかと驚いた。昔読んだ本作「失踪日記」と「アル中病棟」の印象が強いから。
本書は、1回目の失踪、2回目の失踪、アル中入院(前編)のエピソードが、かかれている。
わりにポップで懐かしい絵、昭和のコロコロコミックのような絵柄で、壮絶な失踪生活とアル中生活が描かれる。
ホームレスとしてどのように生きていったのかが書かれていて、なかなかに壮絶な内容なのだが、工夫しながら酒と食料、それに煙草を集めるノウハウをためていくところが面白い。そんなに真面目でマメなら普通に生活すれば良いのに、とはならないのだね。
二回目の失踪は。最初は勝手知ったるホームレス生活を送るが、すぐに拾われて配管工の仕事をしながら失踪生活をしていた。
恐らく本名を微妙にごまかしての職人生活だったのだと思うけど、訳アリな人が受け入れられる環境で、自分の部屋を持ち、それなりに家具や家電をそろえ、それなりに生活をしていく姿が描かれている。
この職人生活は、奥様のもとに戻ってからもしばらく続けているが、ふとしたきっかけで、今度はこの仕事をバックレてしまう。失踪からの失踪。
3つ目のアル中の話は、仕事で追いつめられ、酒に逃げ、やがて溺れていく過程と、家族による強制入院と回復に至るまでの話だ。
表題にもなった二回の失踪話は、どこかしら健康的というか、健全性のある話だったのだが、アル中の話は暗くて重い。シリアス。コミカルな絵柄なのがかえってリアル。
アルコールというのは、最も身近な依存対象で、ストレスから逃げるために手を出せば、自覚があろうがなかろうが逃げる事もできずにはまっていってしまうのだろう。
自分にも起こりうる話として読んでいると背筋が寒くなってくる。
そう、失踪もアル中も、自分にも起こりうる。だから何度も読んでしまったのかな。
本作と『アル中病棟』は何度も読んだ覚えがある。これらと一緒に『刑務所の中』もよく読んだので、どこか現実から逃げ出したいという願望があったのだろうか。仕事辛かったものなぁ。
いつか自分が逃げ出したくなったときのことを考え、自分だったらこうするなんて思いながら読んでしまう。
で、気が付く。そうか、逃げても良いのか(良くはないけど)と。社会的に死んでも、自分は死ななくても良いのかと。
ごみを漁り凍死しかけたりと壮絶に辛そうだけど、それでも生きていれば色々なことがあるし、前向きなら、どんなことでも楽しみを見いだせるし。
本作を読んでいると、吾妻ひでおさんは、とことん真面目な方だったのだなぁということがわかるよ。
最終的には酒はすっぱり辞め、本作を書いて賞をいくつか取り、ご家族とも仲良く過ごされていたよう。よかった。よかった。
R.I.P.
「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。