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『風の万里 黎明の空 (上) 十二国記 4』(小野不由美)【読書ログ#168】

先日、かかりつけの病院で採血をするとき、傍らに読みかけの十二国記を置いたら、それをみた看護師さんが「十二国記は特に好き!」と血を抜きながら言ってくるので、腕に針を刺したままちょっと話し込んだりした。

そう、読んでわかる、あらゆるところに居る十二国記ファン!

まとめ買いをした書店で「いい買い物をしましたね」と会計時に言われ、電車で知らない方にサムアップされ、友人知人の多くからも「ようこそこちらの世界へ」と歓迎され。看護師さんとも褒めたたえあう。

読んでて良かった十二国記。

さて、やっとシリーズ4本目! 上下巻のうち上を読みました。読みましたよ。相変わらず素晴らしいです。素晴らしいのは誰しもが知っていると思うので、今さら私がここで何を言ったところで何もありませんが、まぁとにかく面白いです。よくぞ、このような緻密な世界観を作り上げ、その中で目もくらむような冒険譚を紡げるなと感心しきり。

『風の万里 黎明の空 (上) 十二国記 4』(小野不由美)

今作では、第一作で登場した陽子が再び登場。まってました、元気にやっているのか気になっていたよ。でも、陽子は苦悩していた。統治を始めた陽子は、十二国の世界から孤立し苦しんでいた。そうか、そうなのか。

これまでのシリーズを読むに、十二国記シリーズは、王と麒麟の物語だ。いまのところ。

麒麟とは何者か。この物語の世界には、人も居れば獣も居る。そして、人と獣の間に位置する妖獣も居る。妖獣にも様々いるが、その頂点に居るのが麒麟だ。

麒麟は国ごとに1匹しか生まれない。十二国記は、その名が示す通り十二の国がある。よって麒麟は12居る。そういうルールだ。すべて天が決めている。

そして、十二国は全て王政国家なので、王も国ごとに一人いる。その王は、麒麟が天啓を受け選び出す。どんなに優れた人物でも、麒麟が王と認めなければ王にはなれない。王は何故ゆえに王なのか、それは選ぶ麒麟にもわからない。それもまた天が決めている。

王が斃れると、麒麟が王を選ぶ。そして統治が始まる。王と麒麟は寿命の無い不老の存在だ。また、王に使える官職につくものも不老となる。そういうルールだ。生身にはかわりないので、討たれる事もあるが、寿命では死なない。

地球と十二国の世界は、つながっている。この二つの世界は、超自然的な現象で行き来が出来るのだが、基本的には地球世界から十二国世界への一方通行として書かれる。陽子は、近代の日本で女子高生として過ごしていた。しかし、麒麟に王として選ばれ、なかば強引に十二国に連れてこられたのだが、その顛末と冒険と王に即位するまでの物語が第一話だった。

読んでいて思うのは、なぜ王は道を外し破滅に向かうのか。人間的な弱さや精神の変調を原因とした王の話はあるが、とりたてて変な事をしなければ問題なんておこりそうもないし、何百年も王で居続ける事も出来そうなのに。実際、延王は五百年も統治している。

だが、今回の陽子の物語は、それがいかに難しい事なのかを示している。どんなに良い事をしようと心がけても、何が良い事なのか、判断をすることが出来ない。王は、正しい判断をすれば当たり前と思われるし、失敗すれば、それが偶然による結果だとしても、王が悪いと言われてしまう。

政治はありとあらゆることが複雑に絡み合い、相互に影響をしあう。税を軽くすれば内政に金が使えない、軍備もできない。何事も、あちらをたてればこちらが立たない。シムシティをしたことがあるならわかるが、商業を優先させれば公害が目立つ、人を増やせば犯罪や渋滞が増える、それらを解決しようとすれば税金を多く使う、税金をふやせば市民は怒る。ゴジラも来るし、竜巻も来る。たとえ良い事をしても、誰かが不満を持つ。

現代日本から異界へと流された陽子は、突然十二国につれてこられ王となった。そして、とつぜん国を治めよと官からつめよられる。しかし、いったい、何が正解なのかわからない。そこで苦悩をするのだ。

陽子に付く麒麟は仁道に従えというが、陽子にはその仁道がわからない。仁道とは人として守るべき道を指すが、陽子には、そもそも、十二国の仁道がわからない。

苦悩の末、陽子はある行動に出る、その時のセリフがまたいいのだけど、十二国で生きてきた麒麟に云う、

授業は週六日、必須クラブがあって塾に行って、さらにはピアノを習ったりお稽古ごと。定期テストは最低でも一学期に二回、そのほかにも模試があって偏差値で将来が……(略)
——そういう子供の幸せがなんだか分かるか?

日本で過ごした学生時代のあたりまえを麒麟にぶつけ、そういう社会での仁道とは何かと問う。麒麟は当然答える事が出来ない。そして、陽子は、こちらの世界での仁道を知る為にと、思い切った行動に出る。

このあたりで上巻の半分。陽子の苦悩以外に、様々な国での出来事が紹介されるのだが、残り半分で一気にそれらの物語が合流してブイブイ進む。面白いよ。面白いなぁ。面白いよ。下巻が楽しみ。

人間なんて生き難くて当たり前、それをどのように受け止め、幸せを感じるのか。本作で通奏低音のように響く「生きるとは何か」という問い。

「生きるということは、嬉しいこと半分、辛いこと半分のものなのですよ」

「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。