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今読むと新たな味わいがあるSFおとぎ話『たったひとつの冴えたやり方』【読書ログ#97】

『たったひとつの冴えたやり方』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)

この本は3つの物語で構成されているのだけど、なんといっても、表題にもなっている『たったひとつの冴えたやり方』が素敵。

本作はSFにカテゴリーされているけど、現代のSFファンがSFを読みたくて手に取るとちょっと違うのかもしれない。

個人が宇宙船を手に入れカジュアルに使える設定の世界で、情報のストレージがカセットテープだったり。しかも、それを物理的に宇宙空間に放り投げたりとか。これもはもう、古いSF作品の宿命なんだけれども。

でも、本作については、かえってそれが良いというか。作品の雰囲気作りに良い作用をもたらしている。主人公の雰囲気だとか、話の内容だとか、その辺があいまって、まるで、おとぎ話のようになっている。独特の雰囲気を(いまになって)作っている。

ゆえに、SFを読み慣れていなくても楽しめるので、普段SFを読まない方にもぜひ試してもらいたい。

主人公は16歳の少女コーティー。物語は、このコーティーが銀河に飛び出す冒険譚として始まる。

機転が利いて天真爛漫、軽やかで行動的なコーティーは、誕生日のプレゼントに両親から買ってもらった宇宙船、小型のスペースクーペを得意に乗りこなし、意気揚々と銀河の冒険に出かける。

が、旅の途中、未知の領域で、未知のエイリアンであるイーアに脳を寄生されてしまう。

互いの無理解から始まる物語は、ユーモアも交えた異種間の友情物語となり、相手への理解、生への理解、そして友情を超えた愛情となり…… やがて物語は、物悲しく、美しく幕を閉じる。

「それから、これも忘れないで。もしあんたがこれからあたしになにかひどいことをしても、あたしはそれがほんとのあんたじゃないってことを知っている。」

どんな違いがあっても(ヒューマンとエイリアンだろうと)、理解しあえるし、ゆるしあえる。ともに困難を乗り越える事ができる。「そう、それがたったひとつの冴えたやり方」。美しい話でございます。浄化されました。

残りの二作は、同じ宇宙の別のお話。あわせてどうぞ。

「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。