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ニセ医療に騙されるな 健康に対する意思決定を正しく行う『代替医療解剖』【読書ログ#106】

『代替医療解剖』(サイモン・シン、エツァート・エルンスト)

この人が書いたら絶対買う! という著者が何名かいて、東の横綱に居るのが、今日紹介する本の著書である「サイモン・シン」です。もうね、大好きなの。

サイモン・シンを有名にしたのはなんつったって『フェルマーの最終定理』で、私みたいな数学音痴でも楽しめたし感動したし公文式で算数はじめようかな? と思わせる位、数学者達への憧れと尊敬が掻き立てられた。さすがテレビでコンテンツを作っていただけはある構成力で、物語として、とても良くできている。本書は、360年ものあいだ、幾人もの数学者を悩ませてきたフェルマーが残した世紀の超難問を、1995年にワイルズが証明するまでの物語だ。この難問をめぐる3世紀にもわたる波乱万丈の超面白い物語から始まり、数学史をエキサイティングになぞり、最終的には谷山–志村予想を証明すれば、フェルマーの最終定理も証明できる! そこへ行きつくまでの流れが素晴らしくファンタスティック。名著だ。しびれる。私は三角関数が何かもわかっていないような知能レベルだが、それでも十分に楽しめる。数学書というジャンルがあるが(あるよね?)、そのなかでも白眉の出来。人類なら読んでおくべき。さらに、日本人であれば、自国の数学者が超重要なポジションを担うこの物語を知っておくべきだろう。盛り上がるよ。

そんなサイモン・シンが、代替医療をずっと見てきたエツァート・エルンストと一緒に書いたのが本書だ。

本書は『代替医療のトリック』として刊行されていたものを文庫化したもの。なんで題名変えたのだろう。トリックだと有効な代替治療も扱っている関係で問題があったのかな。

本書では、様々な代替医療の中から、とくに世界中で広がっているものをピックアップして紹介し、あらかたのものについてはエビデンスを示しながら完全否定してけちょんけちょんにしている。

だけど、例えば鍼治療などは痛みを取る、という点においては効果が証明されており、その点においては有効だとしているし、実際に私も鍼治療のお世話になっている。ハーブなども一部は効果が認められている。

何故効くのか? がわかっていないものでも、ランダム化比較試験で効果ありとはっきり優位が出れば、それは信じても良いという態度で、非常にフェアだ。

なので、テーマとしてあげているものについて全てを否定するものではない。もちろんホメオパシーなんかは全否定だけどね、それはしょうがない。

本書は、世の中の代替医療のトリックを暴いて晒すことが目的の本ではない。本書のテーマというか通奏低音は【健康に対する意思決定を正しく行う】という点にある。そして、それを助ける考え方が身に付くという点において、この本は非常に重要だ。

代替医療の誘い文句は巧妙だ、標準治療をやんわりと否定し、確実性の無い、エビデンスも不十分な運任せの治療に誘いこむ。だが、本書を読むことで、そういった誘いが「宝くじは買わなければ当たらない」と言っているようにしか聞こえないようになる。

本書が大事にしているのは、科学的に真実と嘘を切り分けるアプローチだ。その医療行為、根拠はランダム化比較試験(WEB屋さんならABテストがおなじみ)など正しい科学的アプローチを経ているのか。サイモン・シンと共著のエツァート・エルンストは、カイロプラクティック、鍼灸、ホメオパシー、ハーブ療法などを取り上げ、丹念にエビデンスを調べていく。そして、その多くがプラシーボ効果以上のものではないということを明らかにする。

世の中には代替医療が多く存在する。しかし、素人は、どのようにそれらの真贋を見極めたら良いのか? 熱心な人から「この窓口から宝くじ当選者がでたのよ!」と勧められたとき、心が傾かないようにするにはどうしたらよいのか? エビデンスとして出されたものが、本当にエビデンスとして成り立っているのかを知るにはどうしたらよいのか。

そのためには、本書で繰り返し語られる化学的アプローチを知る事、そして化学への信頼を持つ事だろう。

また、本書でも紹介されているような情報提供を行っているサービスを頼ることも有効だ。コクラン共同研究などは、日本語でも調べる事が出来る。

藁にもすがる、という心情は理解するが、だからといってそういった人から金をむしり取る悪意にさらすわけにはいかない。この本は沢山の人に読んでもらいたい。


「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。