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ハードボイルド空巣男の男くさい物語『影踏み』【読書ログ#139】

『影踏み』(横山秀夫)

映画化されるそうで、あまりにもひどい表紙で平積みになっていて目を奪われた。いやぁ、これ逆効果じゃないのかしらと思って手に取ったら、たまたまサイン本で、しかも残り1冊。これも何かの縁だよねと、つい購入。

あまり警察ものは特別好んで読まないのだけど、横山秀夫はロクヨンが出た時期に「こりゃ面白い!」と、まとめて著作をKindleで買って読んでいた時期がある。本作はひさしぶりの横山作品。

それにしても、なんでこの表紙にGOが出たのかしら。

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家に帰って表紙を外したら、下から本当の表紙が出てきた。

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いい、渋くていい。文字のレイアウトとかも完璧にイイ。調べてみたら、表紙の上にかぶされる表紙に見えるこれは、帯が巨大化したものなんだそうな。その名も全帯。

なるほど目を引くには良い作戦。そのうち、エコバックで出来た帯とか、本になっていてもう1作品読めちゃう帯とか出てくるのでしょう。楽しみです。ちなみに、私は帯はわりとあっさり捨ててしまう派だ。

ということで、全帯は捨てて、読み始めましたが、面白くて一気読みですよ。まぁ、だいたい全部一気読みなんだけど、短編連作のような構成になっていて、とてもテンポよく話も進むので、グイグイと引き寄せられ、一気に読んでしまった。

主人公の真壁修一が刑務所を出所するところから物語は始まる。出迎えは無い、だが、修一の耳には晴れ晴れとした声が響く。

「修兄ィ、おめでとさん!」

死んだ弟の声が、修一だけに聞こえている。

「双子というものは、互いの影を踏み合うようにして生きている」

真壁修一の中には、死に別れた双子の弟「啓二」が住む。

15年前、双子の兄弟が19歳の頃、修一が旅行で不在にしていた家に母親が火を放ち、弟をまきこむ無理心中を行った。助けに戻った父親も火に巻かれ、修一は孤独の身となり、やがて泥棒稼業に足を踏み入れる。

修一は、人が寝ている家に忍び込み盗みを働く「ノビ師」と呼ばれる種類の泥棒で、驚異的な記憶力と注意力を持つ啓二と、頭脳明晰で鉄の意志をもつ修一のコンビで犯行を重ね、いつしか「ノビカベ」と呼ばれる、名の通った泥棒になっていた。

服役のきっかけとなった二年前の盗み。忍び込んだ家の女は夫を焼き殺そうとしていた。刑務所にいるあいだ、その事が頭から離れない修一は、その真相を調べるため、街にもどり、再び泥棒稼業に手を染める。そして、持ち前のスキル(忍び込み)を駆使し、事件の真相にせまっていく。

頭のなかに弟が住むという、多重人格っぽい設定だが、これが違和感ゼロでものすごくなじんでいて、これを自然に書いて納得させる力量が凄いよ。

それにしても、警官たちとのやりとりは、さすが横山作品、かなりリアリティたっぷりにかかれている。警察に厄介になったことがないので、何がリアルなのかわからないのだが、実際にもこんな感じなんだろうな、ということは伝わってくる。

社会でもっとも疎まれる存在である犯罪者と、その犯罪者を狩る警察官が同じような生き物として書かれていてリアルだ。いや、警察に厄介になったことは無いので、何がありあるなのかわからないのだが。

警察ものの小説を読んでいると、警官とヤクザの区別がつかなくなるが、本作もしかり。

双子の兄弟のかけあいを通して読者に知らされる二人の過去、久子との関係、そして、修一もしらない無理心中の真相。相手の事がわかりすぎるがゆえに見えていなかった事。その真相が明かされるとき、二人の関係に決着が訪れる。切ない。でも、未来がある。

読み終わってみて思うのは、また表紙というか帯へのケチでもうしわけないが、真壁修一役に山崎まさよしって、超おっさんやんってこと。

ノビカベが三十代の設定だからこそ、まだ消えていない堅気として生きる将来の灯みたいなものが読者にも届いて、いつでも足を洗えるのにそれが出来ない修一に肩入れが出来る。のに。

と思ったけど、調べてみたら山崎まさよしって47歳で私と3つしか違わない。おっさんとか言ってすみませんでした。そうそう、この歳だからこそ出せるものってあるよね。

そういえば、最近エレベーターでおっさんに譲られたり、おっさんに先に通されたりするんだけど、それっておっさんから年長と思われているってことだよね。

そっか。

「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。