自己啓発のキモは200年前から変わらない『自分を鍛える!』【読書ログ#107】
『自分を鍛える!: 「知的トレーニング」生活の方法』(ジョン・トッド)
「読み終わったからあげる」と言われ手渡されたシリーズ。
先日のサイモン・シンの科学的なアプローチとは180度違うが、それもしかたなし、1834年のアメリカで書かれた本だ。ということで、その点に惹かれて読み始めました。
1834年のアメリカというと、まだメキシコとの戦争をする前で、「涙の道」として知られるインディアンの強制移住が行われたあたりの時代。イケイケドンドンで拡大を続けていた時代。
著者のジョン・トッドは、30冊以上の著作を残した牧師さん。いわゆる道徳を伝える本が多かったようだが、本書は「SELF-IMPROVEMENT MANUAL」と原題が示すとおり、自己改善の指南書。
本書の翻訳は渡部昇一で、いまだ人気のある渡部の著書『知的生活の方法』とノリは似ているというか、一部では強い影響を受けて書いていたことがわかる。
内容は多岐にわたるが、わりと基本的なことをしっかりやろうという内容になっている。現代風に翻訳されているので非常に読みやすく、10代、20代の読書になれていない若者に良い。ざっと内容を紹介する。
目次
訳者序文 ――今、読んでおくと必ず「得をする」本
プロローグ ものを「考える頭」には限界がない!
第1章 “いい習慣”をつくれば疲れないで生きられる!
第2章 集中力・記憶力が格段にアップする「短期決戦」法!
第3章 緻密な頭をつくるための読書法!
第4章 こうすれば自分の「持ち時間」が最大限に生きてくる!
第5章 一目置かれる人の「話し方・交際術」
第6章 頭・体・気力を鍛える一番の方法
エピローグ あなたも“自分の壁”を破れる!
訳者解説 ――私の一生を決定づけたすばらしい出会い
自分はナニモノなのか、いったいなにが秀でていて、どんな事で、ひとよりも抜きんでた仕事をすることができるのか。
そんなことは知ったこっちゃない。
誰にもわからない。
だが、
ひたすら努力することをせずして、けっして人より抜きん出ることはできないのだ。
なんにせよ卓抜した何かを手に入れる為には独力は不可欠だし、
人間の偉大な業績というのは、ささやかな、しかし継続した努力の賜物
なのである。
そのためには学ばなければならない、学び続けなければならない。
大変だな! ということで、本書に書かれているような事柄を守り、毎日少しずつ、コツコツと成長を続ける生き方を身に着ける。
そのために、本書では「習慣化」「集中力」「読書術」「時間術」「話術」「身体管理」が整理されている。
このあたりは、現代人においても悩ましい人が多い分野であり、人間という生き物の限界を感じる次第だが、ともかく、書いてあることはまっとうで面白い。
ただ、冒頭にも書いた通り1834年に書かれた本である。常識ががらりと変わってしまった分野がある。
一つはインターネットの普及により発生した情報爆発による情報接触態度の変化だ。情報爆発以前であれば、特定分野の知識は一個または特定グループの頭脳に収まっただろう。だが、今はそうではない。インプットとアウトプットのルールが変わってしまったことを頭に入れ、必要に応じて読み替えるなどをすべきだ。
もう一つは、SNSによるコミュニケーションの変化だ。これは、ルールチェンジではなく、先鋭化している。本書で気を付けるようにと言い含められた事柄は、現代ではさらに注意しなくてはならない事が多い。
そして最後の一つ、本書では好きな事にかまけて勉学をさぼるなと強く言ってくるが、それは、当時の事情である。現代は、権力や権威におもねる努力が成功の唯一の道筋だった時代ではない。好きなことを徹底的に突き詰め、それを仕事にしていくという人が猛烈に増えているし、もっとも身近な成功する方法でもある。
この手の本、内容はごもっともだし、参考になることも、勉強になることも多い。特に習慣化や自己統制の下りなどは、その通りできたらさぞ今頃自分は大人物だったろうにと思う。
しかし、残念ながら、その通りには行かない。
なぜならば、9割り近くの人は、その通りに出来るわけがないから。
恐らく、この問題をクリアする為に必要なのは、読書と気合ではない。テクノロジーだ。三体でVRゲームで異星人の文明世界を紹介する下りがあるが、ああいった風に、人間の生理に直接はたらきかける新しいテクノロジーによる自己実現ってのがいずれ現れるのだろうと思う。
そういう時代がきたら、私は、ビールと焼き肉を我慢し、スリムな体を手に入れるためにメーテルと旅をする。
ネジでもいい。
「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。