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ヒロシマから10年、40年、60年後の物語 『夕凪の街 桜の国』【読書ログ#74】

『夕凪の街 桜の国』(こうの史代)

以前にご紹介した『自虐の詩』と同様、この本も、開くと自動的に泣いてしまう。自動的に泣いてしまう漫画の二大巨頭。

自虐の詩はこちら

『夕凪の街』は原爆投下から10年後の話。

皆実(みなみ)は、母と二人で「夕凪の街」と呼ばれた原爆スラムで暮らしている。

原爆が落ちた翌日に父は無くなった。12歳の妹は見つけることができなかった。姉とは再開出来たがすぐに亡くなってしまった。当時疎開していた弟は疎開先から戻らないと言った。

それから10年経つ。苦しくも、ほのぼのとした日常が続くが、皆実も、街の人も、なぜこんな状況に置かれているのか、わからないでいる。

いまだにわけがわからない。

だれかに「死ねばいい」と思われたことだけがわかる。

そんななかでも、皆実は日々の生活の中で小さな幸せを見つけていく、しかし、そのことに後ろめたさを感じている。

幸せだと思うたびに、死体を踏んで歩いた8月6日に引き戻される。私の住む世界はここではない、と。

やっとみつけた幸せも、原爆が持って行ってしまう。

原爆を落としたアメリカに、原爆投下前に降伏のチャンスがあったにも関わらず戦争を長引かせた日本に、皆実は問う「嬉しい?」と。


続く「桜の国」は皆実の面影をどこか残した七波の物語だ。二部にわかれており、それぞれ原爆投下から40年後と60年後の物語。

これはもう、あんまり説明したくないというか。手に取って読んでもらえたら良いなと思う。

とんでもない暴力にさらされながら、懸命に生きてきた人が大勢いる。生きたくても、それがかなわなかった人も大勢いる。

そんな事実から目をそらさず、正面から受け止めたとき、七波は自分がこの生を選んできたのだと気が付く。

94、95ページのエピローグは本当に美しい。

「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。