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『しょぼい喫茶店の本 (池田達也)』【読書ログ#13】

この本の筆者は、旧来のマッチョでマッドなビジネスの世界に長く生きてきた私のような人間からしたら、かなり「しょぼい」。(申し訳ございません)

でも、今は、インターネットが魔法のように世界を変えてしまった後だ。

世間が望む「普通」の物差しで生きる事が出来ない「しょぼい」人でも。ことさらギラギラ出来ない人でも。ちょっとだけ勇気をだせば、なんとなく自分の世界を切り開くことができるようになった。生きていくだけならなんとかなるようになった。

この本は、そんな、ギラつけない、普通に就職出来ない(したくない)、でもドロップアウトはしたくない(出来ない)、昔なら落ちこぼれと言われてしまっていただろう人の、ゆるい成功譚だ。

旧来とは違うベクトルの努力が報われる世界がちゃんとある。そんな事例が世の中に沢山生まれている事はなんとなく感づいているのだけど、その中身を包み隠さず知ることが出来る機会はそうそうないので、そういう意味でこの本はとてもおもしろい。

の、だが。この本の見所は、そんな成功に至る物語も終わった後の、あとがきのように用意された最後章にある。

「しょぼい喫茶店」の開店準備のあたりから「おりんさん」という女性が頻繁に登場する。このおりんさん、東京で就職をするも激務に疲れ、病み、生きる気力を失い、九州の実家に戻り静養中だったのだが、筆者の計画をTwitterで知り、そのショボさに得難い魅力を感る。勢いと情熱だけを持って東京にやってきて、筆者の店を手伝う事になる。

そして、この「おりんさん」は「しょぼい喫茶店」で働くことで生きる意味と気力を得て、しまいには著者と結婚することになる。(この二人が結婚したことは知られた話らしいので書いちゃう)

出会いから結婚までの経緯の報告から、おりんさんのあとがきまでがかかれた最終章こそがこの本の見所であり一番価値のある部分だ。この本を頭から読んだ人へのプレゼントだ。

書店に平積みされてそうな「いまどき」な起業本なのだろうし、実際に「いまどき」しか楽しめないかもしれない。でも、この本がただの起業本ではなく、ピュアな恋愛物語だと思うと、全然違った魅力がみえてくる。起業本としては足の早い普通の本かもしれない。でも、いいじゃない、この二人が幸せなら。店も、二人の幸せも、長く続くと良いなと思う。


「それって有意義だねぇ」と言われるような事につかいます。