見出し画像

木目の流儀

瑠璃は、高校2年生の普通の女子生徒。だが、彼女には一つだけ誰にも言えない秘密の趣味があった。それは、自宅の部屋の天井の木目の様相を実況することだった。

彼女の部屋は、日当たりがよく、明るい時間には天井の木目が美しく映し出される。その木目には、瑠璃にとって無限の物語が隠されているように思えた。日々のストレスや学校のプレッシャーから逃れるため、彼女はこの独自の実況を楽しんでいた。

「ここに見えるこの流れるような模様、これは大河の流れ。そのすぐ隣、この黒い部分は…」
毎回、彼女はその日の気分や感じたことに基づいて、異なるストーリーを紡ぎだしていた。

ある日、部屋での実況中、彼女は気が付いた。隣の部屋から微かに聞こえる笑い声。瑠璃の実況が、薄い壁を通じて隣の部屋の親友、千晴にも聞こえていたのだ。
瑠璃は恥ずかしさで顔を真っ赤にしてしまったが、千晴は扉をノックして入ってきた。「瑠璃、それめっちゃ面白いよ!」

瑠璃は驚きながらも、千晴の優しさと興味に感謝し、自分の趣味について詳しく話し始めた。千晴は興味津々で彼女の話を聞き、次第に二人で共有する秘密の時間が増えていった。

学校では、二人の仲の良さを羨む者も多かった。だが、この秘密の実況は二人だけのもの。千晴も次第に瑠璃の趣味にハマり、彼女の部屋で天井を見上げる時間が楽しみとなっていった。

二人は、天井の木目を通して、想像力を駆使してさまざまな物語を創り上げ、日々のストレスを発散することができた。それは、高校生活の中での小さな楽園のような時間となっていた。

やがて、卒業を迎える時期が近づくと、二人はこの秘密の実況をどうするかを話し合った。そして、決意を固めた。大学に進学する彼女たちは、それぞれの新しい部屋の天井を通じて、この実況を続けることにした。

「新しい天井、新しい物語。でも、私たちの友情は変わらないよね。」
千晴の言葉に、瑠璃は優しく微笑んだ。彼女たちの友情は、天井の木目を通してさらに深まり、未来に向けて新しい物語が始まったのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?