黒埼ちとせが白雪千夜に望むもの

1.千夜ちゃんらしくあること、ちとせの僕でなくなること
Fascinateイベントコミュ4でちとせがプロデューサーに対して下記の台詞を向けるシーンがあります。
「千夜ちゃんを私の僕じゃなくしてあげて、あの子を、あの子らしくしてあげてほしいの。」
この願い、一見千夜がちとせに尽くす以外の楽しいを見つけることで僕であること以外の生きる理由を持つ、という一つの願いに見えますが、千夜がちとせの僕でなくなることと、千夜が自分の楽しいを持つことは別のことではないか?そう気になってしまいました。
実際、Fascinateエンディングの時点でも千夜はアイドルを楽しいと感じ始めながら、ちとせの僕として変わらず仕えています。
ちとせの観点では自分が老い先長くないという前提があるからこその言葉、ともとれますがそうすると一つ疑問が残ります。
千夜が千夜らしくなったとちとせが思えた後、黒埼ちとせは白雪千夜とどうありたいのか。千夜ちゃんが千夜ちゃんらしくなるイコールちとせの死期、というわけでもないでしょうから変化した千夜とちとせが向き合う時間は当然生まれるでしょう。
この文はその点について思っていることを書き連ねたものになります。


2.5年前、ちとせに起きたこと
ちとせの願いを語る前段として、5年前に白雪家に起きたことが大きく絡んでいると考えているので、まずはこちらについて触れておきます。
5年前、白雪千夜が12の頃に色々あってひとりになってしまったとされる時。
ちとせのイベントSR特訓コミュの台詞で「とても賢くて、可愛い子だったの、そう、過去形」と語られるように、白雪千夜は過去は現在のような自分に価値なしと考えるような気質ではなく、過去と今で大きく変わってしまったことが語られています。
ちとせが千夜を僕にしたのもおそらくこの頃だろうと考えています。
ちとせは過去の千夜のことを太陽に例え、天使のような笑顔と絶賛しています。
けれど彼女は千夜を自分の僕に変えてしまった…これは何故だろうか。
それについて、ちとせは本当は千夜に千夜のまま立ち直って欲しかった、けれどもちとせには千夜を立ち直らせることができなかったから、ではないかと考えました。
5年前にどのような事が起きたのかは不明ですが、千夜の心に大きな傷を負わせ、価値観を大きく変えてしまったことは疑いはないでしょう。恐らくその時の千夜は放心状態に近かったのではないかと思っています。そんな千夜に立ち直って欲しいとちとせが思うのも当然ではないかと。けれどちとせは千夜を立ち直らせることが出来なかった。その代わりに千夜を自分の僕として、全てを失い未来を見失った千夜に対し従者という役割を与えることで、千夜を立ち直らせたのではないでしょうか。
大好きな友達を立ち直らせるために、彼女から自分らしさを奪ってしまった。
それはまるで吸血鬼が愛した人間がこのままでは死に行くしかないところを眷属にすることで救う御伽噺のよう。
そんな彼女の胸中には千夜を救うためとはいえ千夜から自分らしさを奪ってしまった罪悪感があったりするのかもしれないし、千夜らしさを取り戻そうとするのはちとせなりの贖罪だったりするのかもしれません。

もしこの推測が正しいとするなら、ちとせの行為はかつての千夜の面影を追い続けるもの…ちとせもまた千夜と同じく過去に囚われたままなのかもしれないですね。


3.黒埼ちとせの願うこととこれから
ちとせの思う千夜ちゃんらしく、が過去の千夜を取り戻すことだとした場合、千夜と昔のように友達の関係に戻りたい、それがちとせの願いではないでしょうか。
しかしこの願いは千夜が自分の好き、を手に入れるだけでは叶わないものだとも思います。
千夜にとってちとせは主人である以上に、自分に生きる価値を与えてくれた恩人です。
そんな千夜にとって従者であることを辞める、というのはちとせお嬢様からいただいた恩を忘れることと同義でしょうから、彼女がそれを選択することはまず無いでしょう。
吸血鬼が眷属にした者を人間に戻せないように、ちとせが千夜を僕にしたという過去を消すこともまた不可能。彼女たちが過去と全く同じ関係に戻ることもまた、不可能なのかもしれません。
けれど千夜だけでなく、ちとせもまたアイドルになることで変わり始めようとしています。
過去には戻れなくとも、今の二人で新しいこれからの関係を築いていくのだろうと、今後の二人に期待しています。


余談
これもちとせの千夜ちゃんに対する献身かな、と思ったことを一つ。
千夜の語りでお嬢様はなにかを戯れのように始め、千夜を巻き込み、飽きては次の戯れへ、を繰り返している、という語りがあります。
この飽きたときというのはもしかしたら、これ以上続けても千夜が興味を持つことがない、が判定基準なのではないでしょうか。
ちとせの自分の老い先が長くないという諦観からくる享楽的で刹那的な部分によるところも多分にあるでしょうが、それだけではないと思います。
Fascinateのコミュ4でちとせが千夜ちゃんを自分の僕でなくして欲しいという願いを魔法使いに話した後、魔法使いはちとせにも魔法をかけた、のくだりでちとせが驚いたようなリアクションを返しています。
この反応を見るにこの時点では、ちとせは自分がアイドルになることにそこまで興味が無かったように思えます。
これを見るに、今まで様々な戯れを繰り返してきたことも自分のためより大好きな千夜ちゃんのため、であってもおかしくはないと思います。
千夜を変えてくれるかもしれない存在に大きな期待を寄せる傍ら、自分も変わるかもしれないということを不思議がる。
千夜とは違った意味で、ちとせの生き方は大きく千夜に縛られているのかもしれないですね。

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