佐久間まゆという少女について ~永遠のキズナまで

1.はじめに
本文は佐久間まゆの初登場~永遠のキズナまでの変遷についての考察文になります。
彼女自身の性格や心情について掘り下げていくため、佐久間まゆをテンプレートなヤンデレキャラとお考えの方にはお勧めしない文章になります。
佐久間まゆはどういう考えを持ち、なにを大切にし、どういうことに幸せを感じるのか……
それらをゲーム内情報から想像していこうという文になります。


2.初登場時
佐久間まゆは愛が重いキャラクター、いわゆるヤンデレとしてゲーム内に登場しました。
「Pの為に読者モデルも事務所も辞めてきた」と非常に思い切りのよい発言や、「他の子との話、楽しいですかぁ?」等の台詞で独占欲強さをまざまざと見せつけてくるなどヤンデレであるだけでなくアイドルを育成するゲームの筈なのに恋愛に重点を置くという非常に尖ったキャラクター性が話題を呼んだものです。
そして特訓後は「まゆはPの大切なパートナーですよね?」や「貴方のモノはまゆのモノ」など、より一層Pを束縛しようとする台詞が目立つようになります。
このような強烈なインパクトをもって登場した佐久間まゆですが、初期の佐久間まゆを語る上で最も大事と考えていることは
「まゆはPが喜んでくれるならなんでもする」「まゆをあなた色に染めて」
といった自分をPの望むままに染めて欲しい、という受動的な行動が彼女の根幹を成していることです。
つまり成りたいアイドル像や、Pと結びたい関係の形、など自己をPに完全に依存しているということです。
この依存の形の変遷が「永遠のキズナ」に至るまでの彼女のストーリーの軸になっていると私は考えています。


3.ハロウィンパーティー、バレンタインパーティー、恋愛シンドロームまでの変遷
まず先にハロウィンパーティーとバレンタインパーティーについて触れていきます。
この二つはいわゆる月末ガチャと呼ばれる季節等のテーマに合わせてキャラクターがそれに扮して登場するタイプで、シンデレラガールズ劇場ではまゆが他のアイドルと一緒にいる姿を見ることができます。
それでまゆの台詞がどうかというと、自分だけをずっと見ていて欲しい、あなたは私のモノ、まゆがPさんの一番ですよね?、他の子、見てた…?まゆの人生はPさんのもの…などなど初登場から変わらず、むしろより一層深い愛情と独占欲を発揮し続けています。
しかし変わっていない、というのは佐久間まゆにとって問題のある状態であるとも言えるのではないでしょうか。
これらのPを独占したいという台詞の数々は逆に言えば「自分はPの愛情を独占できていない」と佐久間まゆが思っているからこそ発せられた台詞、と考えられはしないでしょうか。
また、この二つのお仕事は先に記述したようにどちらも他のアイドルと一緒の、Pと二人きりではない状態でのお仕事です。
本当は二人きりで自分だけを見ていて欲しい、けれどそれが状況的にも叶わない状態でのアイドルのお仕事…
まゆがPとの関係が進まないことに多少なりとも焦りを感じたとしても不思議ではないと思います。

そして恋愛シンドローム特訓前、ついに念願のPと二人きりの状況になることが叶った一枚が登場しました。
しかしその方法は社用車の後部座席に隠れて待つという非常に強引なものでした。
ヤンデレのイメージでこういうことを普通にしそうに思われるかもしれませんが、基本Pを困らせることはしない子です。
にもかかわらずこのような、むしろPを驚かせてしまうような手段をまゆがとったということは、なんらかの異常事態であるということです。
これは佐久間まゆの心から余裕が無くなり正常な状態ではなくなっていることによるものだと考えます。
これは推測ですが、恋愛シンドロームが登場するまでPとまゆが「ふたりきり」になる状況はほぼ無かったではないかと思われます。
オフの日に予定を合わせて出かけるなどふたりきりになる状況を作ろうとすればできるとは思いますが、この時点のまゆは2章で述べたように受動的で自分からPを誘うといったことはしないと思ってよいでしょう。
また、Pが自分からアイドルをオフに誘うケースはざっと見た限りですが極めて少なく、Pからまゆを誘うという線も無いと考えてよいと思われます。
以上の二点からまゆとPがふたりきりになる状況は今まで無いと見て言いでしょう。
そしてそれが「どうしてPはまゆだけを見てくれないの」という感情をまゆの中に生み続け、彼女の心から余裕を奪っていきついにはこのような強引な手段に出てしまった、という流れであったとしてもおかしな話ではないと思います。
ちなみにシンデレラガールズ劇場では車の走行距離をGPSで把握している、といわゆるヤンデレのイメージに出てきそうな少々危険な行動をとっており、こちらでも彼女の心から余裕が失われつつあることが想像できます。

そして恋愛シンドローム特訓後、佐久間まゆと言えばこのイラストを想像する人も多いのではないでしょうか。
それくらいに彼女の『愛の深さ』と『心の病み』が強く現れた一枚だと思います。
ゲーム内イベント「フェス」の上位報酬であり、佐久間まゆ初のSRでもあるこの一枚。
ゲーム内世界でどのような扱いなのか詳しくは分かりませんが、上位報酬枠は恐らくイベントの主役であり、佐久間まゆに訪れた初の大役でもあると考えています。
イラストがとてもLIVEステージに見えないので衣装がLIVE用なのかスチール撮影用なのか判然としませんが、佐久間まゆにとっても自分を表しているかのような衣装が貰えたことはPが自分を理解してくれているように感じられたでしょうし、大舞台の主役と合わせて彼女を大いに奮起させたと思います。
そんな恋愛シンドローム特訓後ですがこの一枚、あくまで『アイドルの仕事』としてPが用意したものであると私は考えています。
あのイラストに描かれた背景が佐久間まゆの私室、というには狭く縦長の形状をしており、恐らく撮影用のセットであると見てよいでしょう。
また、まゆを見ていると感覚が麻痺してしまいそうになるのですがこのゲームはアイドルをプロデュースするゲームであり、特訓後の多くはアイドルのお仕事現場になっていることから、恋愛シンドローム特訓後も仕事風景の一場面と考えるのが順当でしょう。

つまりなにが言いたいかといいますと、佐久間まゆはアイドルとしての大役に抜擢され見事その期待に応えたがPとの関係は

『なにも変化しなかった』

ということです。
彼女がどれだけ強く思いを向けたとしても、あのイラストの枠内である限り『アイドルのお仕事』の枠を出ることはできず、彼女がPに向けた思いが届くことは無い……
これが彼女の心に大きな歪みを作り、それが深紅の絆の暴発に繋がっていくのだと思っています。

これは余談ですが、この3枚の特訓前LIVEバトルの台詞はそれぞれ
ハロウィン「まゆだけを見て…」
バレンタイン「まゆだけを見て…?」
恋愛シンドローム「まゆだけを見ていて…」
となっています。
一見殆ど違いがないように見えますが、最初のハロウィンは語調に自分だけを見ろといった強気さが感じられるのに対し、次のバレンタインでは?が付き疑問系になり、恋愛シンドロームでは見ていて…と懇願になっています。こういった部分からも彼女から徐々に自信が失われていっていることが現れているのではないかと思います。


4.深紅の絆特訓前と特訓後
特訓前のみんな大好き温泉まゆ。
Pの泊まっている部屋の内風呂に侵入して待ちかまえるという、まさにヤンデレ全開な一枚です。
ヤンデレ風コメディとしては苦笑いで済むのですが、真面目に受け止めるとなればこれは冗談では済まされない行為といわざるをえません。
この行動に伴うリスクを考えれば、とても正常な判断力が佐久間まゆにあったとは到底思えません。
ここが仕事で訪れた温泉街で、仕事であればカメラマンやスタッフ、宣伝のための記者など外部の人間も当然いると見ていいでしょう。
そんな状況下でもしまゆの行動が外部に漏れた場合、まゆのアイドル生命もですが、なによりPの職と社会的生命が失われるであろうことは想像に難くありません。
佐久間まゆは基本利発な子です。この程度のリスクに気づかない、ということはないでしょう。また、エピソードコミュ後半で「Pを困らせてはいけない」と発言しており、少なくともまゆ本人はPを困らせまいと思って行動しています。
ですが彼女は文字通り体を差し出すという、自分にとってもPにとっても非常にハイリスクな行為に及んでしまいました。
彼女がそんな方法をとってしまったのは、本当にギリギリまで心が追いつめられてしまっており正常な判断力を失っていたのではないかと考えます。
3章で述べてきた通り、佐久間まゆはアイドルとしてPの期待に応え続けてきたがその愛情を独占することはできていない…とまゆはずっと感じ続けており、またバレンタインでは他のアイドルがいたとはいえプレゼントを送るアプローチもしています…けれどいずれも決定的な効果をあげることはできませんでした。
何故Pはまゆだけを見てくれないのか。
どうしたらPはまゆだけを見てくれるのか。
そうした思いが佐久間まゆの中に積もっていき、精神的に追いつめられた彼女が思いついたのが自分の体を差し出すこと、だったのだと思います。
エピソードの後半でこの日のために準備してきたと語っており、この行為は確信犯であると思ってよいでしょう。
仮にPがまゆに手を出し、肉体関係をもったとしてその後どうなるかまでまゆが考えていたかはわかりません。
もしかしたら、たとえほんの一時、体だけの繋がりであったとしても、Pの方から自分を求めて欲しかった…
ただそれだけの思いに突き動かされた彼女なりのSOSだったのではないかと私には思えてなりません。

結果として、まゆは内風呂でのぼせて倒れてしまい計画は失敗に終わります。
その後、特訓後までの間にPとまゆの間になにがあったかは描かれていないため想像することしかできませんが、特訓後のまゆを見るととても大きな変化が起きています。
特訓後の親愛度MAXの台詞に「Pさんが望むなら何だってしてあげるって。トッププロデューサーにだってしてあげる…♪」というものがあります。今まではまゆを貴方好みにしてくださいと受動的な姿勢だということは幾度か述べてきましたは、この台詞はまゆの方からPに対して『トッププロデューサーにしてあげる』という明確な目標を掲げた能動的な姿勢になっているのです。
尽くすという点では変わりませんが、初めてまゆの意志と呼べるものをPに向けた、大きな変換点であると見てよいのではないでしょうか。


5.永遠のキズナ
みんな大好きウェディングまゆ。
イラストの見た目からして今までのヤンデレ路線から大きく変化した一枚で、丸くなった、なんて言われたものです。
実際台詞構成も今までのPにまゆだけを見て欲しい、Pを自分だけのものにしたいという方向から大きく変わっています。
エピソードコミュの後編では「Pとアイドルだから決して結ばれないと知っている、けれど結ばれないからこそずっと寄り添える」と今までのまゆでは考えられなかった台詞がでてきます。
また、今までの台詞ではアイドルであることはPを振り向かせる為の手段としてスパイス程度に台詞に出てくる程度でしたが「あなたの為にもっと素敵なアイドルになります」「自分がトップアイドルになったらPさんは幸せですか?」と聞いてくるなど、アイドルに関する台詞が多くなっており、まゆのアイドルに対する意識が非常に大きなものに変化しています。
この変化をもたらしたものはなんなのか、エピソードコミュ後半でまゆが欲しかったモノはまゆとPさんとの確かな「キズナ」だという台詞があります。
今までのまゆは、Pは自分のものになってくれない、自分のことを見てくれないと感じていましたが、二人の間に確かなモノがあると信じられるようになったという変化をもたらしたもの、その二人の間に結ばれた『キズナ』は『Pとアイドル』という関係のことを指しているのではないかと考えました。
そしてその変化は深紅の絆の特訓前と特訓後の間にすでに起きたていたのではないかと考えられます。

深紅の絆特訓後のまゆの台詞からまゆの行動が受動から能動に変化したのは先に述べた通りですが、これも確かな「キズナ」があると信じられるようになったことで生まれた変化の一部だと思います。
そしてその変化はまゆに『アイドル』がまゆにとって重要なことであると考えを変えさせるという形で現れています。
このことから、佐久間まゆは『まゆ個人がアイドルとしてPに必要とされている』という認識を持つような出来事があったのだと考えられます。
Pにとって佐久間まゆはただ仕事上の一商材ではなく、佐久間まゆだからこそアイドルとしてプロデュースしたい、佐久間まゆでなくては駄目だということ、たくさんの星の中から佐久間まゆを選んだということ、きっとそうい思いを伝えるなにかが二人の間に起こったのだと思います。
どんな風に伝えたのか、危険なことをしたまゆを叱ったのか、悲しんだのか、それは描かれていない以上想像することしかできません。
けれど佐久間まゆにとってPが自分を見てくれている、自分を求めてくれている、そう信じられる…それだけで十分なのではないでしょうか。
佐久間まゆは愛する人に必要とされていることを感じられるようになった、それが深紅の絆特訓前後の間に起こったことの全てで、そこで得た確かなシルシが『永遠のキズナ』なのだと思います。


6.おわりに
佐久間まゆは普通の女の子である。私はそう思っています。
彼女は「ヤンデレ」のキャラクターとして登場しました。
ヤンデレと聞けば危険な行動をとったり、愛のためならあらゆる良識を気にしないようなイメージを持たれる方は多いと思います。
けれど彼女をそういうテンプレートにはめ込まずどんな子なのか見つめてみて欲しい、と思い自分なりに佐久間まゆに向ける思いを整理しようとこのような文を書いてみました。
佐久間まゆは時には危険な行動をしてしまうこともありますが、その裏には彼女なりの悩みや葛藤があり、真剣に自分の恋に向き合っている一途さ故に、という事も知って欲しいと思っています。
悩むこと、それは彼女の持っている人間くささであり、ただのキャラクターという記号ではなく心を持った一人の人間なのだと感じられる要素なのだと感じています。

今回は永遠のキズナまでを取り扱いましたが、彼女の物語は今もまだ紡がれている途中です。
きっと彼女はこれからもたくさん悩んで、迷って…けれど決して前に進むことを辞めることはないと、そしてその側にはプロデューサーがいて、彼女を時に支え、時に頼り、寄り添っていくのだと、そう信じています。
そんな二人の物語に幸あれと願いつつ、一人でも多くの方に佐久間まゆの女の子としての部分を見ていただけたら幸いです。

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