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千葉大学ら、光で半導体を冷却する技術の実証に成功:注目ニュース✨

発表日:2024年9月2日

千葉大学大阪大学京都大学の研究チームが、次世代太陽電池や発光デバイス材料として注目されているハロゲン化金属ペロブスカイトを用いて、光で物質を冷やす「半導体光学冷却」の実証に成功しました。


研究の背景

ハロゲン化金属ペロブスカイトは、高い発光効率が特徴的な材料です。発光とは、物質が光のエネルギーを受け取って高エネルギー状態になった後、元の状態に戻る際に光を放出する現象です。

ペロブスカイトのもう一つの重要な特性は、電子-フォノン相互作用が強いことです。この特性により、ペロブスカイトはアンチストークス発光というユニークな性質を示します。

アンチストークス発光については、こちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇

理論上、発光効率100%のアンチストークス発光があれば、光を照射するほど物質は発光を通じてエネルギーを失い、結果として冷却されることになります。

これまで、希土類イオンを分散させた結晶で光学冷却が実現されていましたが、光の吸収率が小さく、冷却デバイスが大型化してしまう問題がありました。

半導体の光学冷却を目指した研究は数多く行われてきましたが、発光効率を100%に近づけることが困難でした。そこで研究チームは、丈夫で高い発光効率を維持するドットインクリスタルという形状のペロブスカイトに注目しました。

研究成果

研究チームは、CsPbBr3という組成のペロブスカイト量子ドットがCs4PbBr6結晶の中に埋め込まれた構造(CsPbBr3/Cs4PbBr6)を用いて実験を行いました。

(上)本研究で用いた試料(CsPbBr3/Cs4PbBr6)の 写真。光照射で緑色の明るい発光を示す。
(下)アンチスト ークス発光の原理。(引用元:https://www.chiba-u.ac.jp/news/files/pdf/240830_cooling_03_rev.pdf)

まず、時間分解発光分光を用いて、オージェ再結合と呼ばれる過程がどの程度起こりやすいかを調べました。その結果、比較的弱い光強度でも光加熱が生じてしまうことが分かりました。このため、光学冷却を観測するには弱い強度での実験が必要であることが判明しました。

オージェ再結合についてはこちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇

次に、光学冷却の実験に取り組みました。発光効率の高い部分だけを選択的に光照射するため、マイクロサイズの結晶を作成しました。試料の温度は、発光スペクトルの形状から推定する方法を確立しました。

実験の結果、複数の試料で冷却が観測され、励起光の強度を変えていくと、冷却から加熱へと移り変わる様子も観測されました。この研究は、信頼性の高い手法で光学冷却を実証しただけでなく、時間分解分光の結果から光学冷却の限界と可能性を明確に示した点で重要な成果となりました。

:(上)オージェ再結合の概念図。 (左下)光学冷却実証の典型的な実験結果。 (右下)光強度の増加による冷却から加熱への転 換を示した実験結果(光を 15 分照射したときの 温度変化)。(引用元:https://www.chiba-u.ac.jp/news/files/pdf/240830_cooling_03_rev.pdf)

今後の展開

本研究では、光学冷却にはオージェ再結合によって決まる限界があることを示し、励起光強度に依存して冷却から加熱へと移り変わることを予測・実証しました。より低温への光学冷却を実現するには、以下の課題に取り組む必要があります:

  1. 量子ドットの密度を上げること

  2. オージェ再結合を抑制すること

サイズの大きな量子ドットを使用することが一つの解決策ですが、発光効率を上げるのが難しくなる可能性があります。今後は、量子ドットの周囲の物質を工夫することでオージェ再結合の確率を減らす試みが必要となります。

まとめ

・ハロゲン化金属ペロブスカイトを用いた半導体光学冷却の実証に成功
・ドットインクリスタル構造のペロブスカイトを使用
・弱い光強度での実験が必要であることを発見
・複数の試料で冷却を観測し、光強度による冷却から加熱への移行を確認
・オージェ再結合による光学冷却の限界を明確化

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

専門用語

・ハロゲン化金属ペロブスカイト:次世代太陽電池や発光デバイス材料として注目されている物質
・半導体光学冷却:光を用いて物質を冷却する技術
・電子-フォノン相互作用:結晶を構成する格子の熱振動(フォノン)と電子の相互作用
・アンチストークス発光:入射した光よりも高いエネルギーの発光
・量子ドット:直径10nm以下の極めて小さい結晶
・オージェ再結合:2つの励起子が互いにぶつかってエネルギーの受け渡しが行われ、一方のエネルギーが熱として放出される再結合過程

#半導体光学冷却 #ペロブスカイト #量子ドット #発光効率 #オージェ再結合


参考文献

https://www.chiba-u.ac.jp/news/files/pdf/240830_cooling_03_rev.pdf


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