ピアSSTの活用の現状とその可能性

「ホームレス支援+当事者研究普及+ピアSST実現のためのガイドラインづくり」

事業期間 2018年度・2019年度・2020年度

NPO法人セルフヘルプサポートセンター浦河

1.はじめに

 こんにちは。NPO法人セルフサポートセンター浦河(以下、セルポ浦河)の伊藤知之です。私は統合失調症の当事者で、セルポ浦河の事務局長をしております。今回は当法人で「ピアSST」のガイドラインづくりをするにあたり、当法人のある北海道浦河町の当事者活動の歴史やピアサポートについてまずは紹介したいと思います。
当法人のある北海道浦河町は日高管内の東部にある、襟裳岬に近い人口12,000人ほどの小さな町です。そこで、1978年に統合失調症当事者の佐々木実さん(現、社会福祉法人浦河べてるの家‐以下べてる‐理事長)が、7年におよぶ長い入院の後に退院し、仲間と食事会をしたときに「自分たちはこの地域でどうやって生きていったらいいだろう」ということを話し合ったところから始まります。その時に話し合われたことは、「自分たちはこの地域で役割を持ち、働くこと」ということでした。この時に精神障害当事者の会の「回復者クラブ どんぐりの会」の活動がはじまりました。
回復者クラブどんぐりの会では、自助活動や(当時はまだ日本にピアサポートという言葉は入ってきていませんでした)や、私たち精神障がい者の権利を擁護する活動として、北海道回復者クラブ連合会や全国組織に所属し、北海道庁や厚生労働省に出向いて要請活動を行い、当事者の声を伝えることなどを主な活動内容としています。そうした中で、浦河で精神障がい者の全国大会をしてはという声が立ち上がり、2006年に「ぜんせいれん・浦河大会」(全国精神障害者団体連合会全国大会・浦河大会)が行われ、精神障がい当事者ばかりでなく、支援者や当事者家族の方も実行委員になり、全国から700名近くの仲間を浦河に集め、交流の時を持つことができました。
この会を盛会に導くことができたので、ここで集まった精神障がい者の仲間を中心にまだ何かできないかという声が起こりました。そうした中で、浦河の精神障がい者の当事者活動・ピアサポートの活動を法人化し、浦河の仲間のうちで自発的に行われてきたピアサポートを事業として行おうということで、2007年10月に「NPO法人セルフサポートセンター浦河(セルポ浦河)」が立ち上がりました。
この法人の活動内容は、精神科病院への仲間の訪問・外出の同行・グループホームの仲間同士での服薬支援などをこれからも推進し、この活動を全国に発信しようというものです。このための広報誌として機関紙「てとて新聞」を年数回発行しています。この法人の役員は全員精神障がいの当事者ですが、支援者などの応援ももらいながら活動をしています。
今回報告させていただく「ピアSST」は、精神障がい者が仲間同士のピアサポートのために行うSSTで、グループセッションとして行うもの、個人SSTとして1対1で行うものがあります。SSTとはSocial Skills Training(生活技能訓練)の略で、コミュニケーションの課題を抱えている仲間が具体的な日常生活におけるコミュニケーションの課題などを練習し、実際の場面に備えるもので、認知行動療法の1つです。浦河では1992年から浦河ベてるの家の事業(日高昆布の産直など)の中にSSTが導入され、当事者の暮らしの中に活用され、幻聴などの症状などへの対処など、「ピアSST」も含めて独自の発展をして、私たちの生活にも深く根付いており、何かというとすぐ「SSTしよう」という声が持ち上がります。
SSTは、精神科治療やリハビリテーションにおける治療のツールとして開発され、導入が図られてきましたが、エンパワメント・アプローチと言われるように、精神障がい当事者が自らの権利を守るため、さらには弱い立場にある自分たちがさまざまな場面で自分の考え、気持ちを伝えるために活用される必要があります。
浦河では、2014年に精神科病棟が休棟(2020年度廃止)になり、多くの仲間がグループホームなどの地域に出て生活しています。この中で地域生活を送る上で避けることのできない苦労をたくさん経験します。そこで、生活をスムースにしていくために、私たちは仲間が主体的に行う「ピアSST」を推奨したいと思います。
ここで、私自身が体験したピアSSTの事例を紹介したいと思います。私は、大学在学中に、通学の路上で大学の近くの高校の女子学生から悪口を言われている感覚になり(今にして思えば幻聴だったのでしょう)、統合失調症を発症しました。その後、大学在学中に精神科を受診し、服薬によって幻聴はある程度収まりました。大学卒業後は、べてるのある浦河町にある北海道庁の出先機関に就職し配属され、生活保護業務でべてるの仲間の生活保護の受付、訪問などを仕事として行うようになりましたが、人間関係で苦労し、仕事でもミスを多発していたため、次第に閑職に追いやられるようになりました。そうした中で、当時の上司に勧められて参加した浦河赤十字病院精神科で行われていたSSTに何度か参加するようになりました。当時の私は、厳しい父親に「自分は統合失調症だ」ということを何年も言えていなかったため、これではいけないと思い、SSTの場で練習を決意し、練習相手に仲間になってもらい練習をしました。しかし、頭の中では相手役は仲間だとはわかってはいましたが、いざ父親に伝えることを想定して練習する段階になると、硬直してしまい、思ったように言葉が出てきませんでした。その時に応援をしてくれたのが、一緒にSSTに参加していた何人の仲間でした。私のぎこちない練習の良かった点をいくつかあげてもらい、私も安心し、のちに無事父親にも病気のことを伝えることができました。今にして思うとこれも仲間の応援を受けながら行うピアSSTの1つだったのでしょう。
最後にこの度の研究を当法人で行うに至ったいきさつを紹介したいと思います。2010年に、浦河で「第18回日本精神障害者リハビリテーション学会」が行われたとき、帝京大学の池淵恵美先生から、「浦河のSSTは、従来の治療を目的としたSSTとは違った独自の当事者文化を取り入れ進化しているので、ピアSSTとして整理し、広めて欲しい」というご助言をいただいたことに端を発します。今回キリン福祉財団さんから3年間のご助成をいただき、ピアSSTの研究・交流・普及活動を行うことができて感謝しております。この研究を機に、全国にピアによるピアSSTが広がり、ピアが参加して行われ、当事者のニーズを汲んだピアSSTが今後一層普及することを願います。

セルポ浦河セルフサポートセンター浦河 事務局長 伊藤 知之


2.浦河におけるピアSSTの活用に関するアンケート調査の結果について

 1)アンケートの目的

浦河で発展してきたピアSSTの活用状況を調査することによって、ピアSSTの進め方やその効果や意義を明らかにし、多くの人たちに当事者活動への活用を促すことができる資料として提供することを目的として調査を行いました。

 2)調査対象

浦河の精神障害者回復者クラブ「どんぐりの会(1978年設立)」のメンバー(57名)に協力を頂きました。

 3)記入の方法

調査項目は、後ほど、記載内容に関する問い合わせやインタビューをお願いすることも想定し記名式としました。

 4)調査項目

調査項目は15項目(資料参照)としました。また、記入に要する時間は、20分ほどとし、当てはまらない項目については空欄でも構わないこととしました。

 5)プライバシーの保護

アンケート調査についてはプライバシーに留意し、調査終了後、調査用紙は裁断処分することとしました。

 6)調査結果の公表

調査結果については、報告書としてWEB上で公開すると同時に、回復者クラブ「どんぐりの会」の活動ミーティングの場で報告しました。

 7)アンケート調査の結果

〇アンケートの結果を調査内容の順に報告します。

図1

〇アンケート調査の結果

回答数は57名であり、有効回答数は53名、無効回答数は4名であった。障害の種別としては主たる病気が統合失調症29名、知的障害5名、双極性障害5名、発達障害8名、依存症3名、うつ2名、非定型精神病1名でした。
〈コメント〉
 統合失調症を持つ人の割合が約5割を占めており、これは浦河町の特徴であると考えられます。これは地域生活支援体制と当事者活動の充実によって入院患者数が減少し、2014年に浦河赤十字病院の精神科病棟(130床)が休棟となり、多くの入院患者の地域移行が進んだことが背景にあります。浦河赤十字病院の精神科においてもSSTは心理教育プログラムの一環として実施されていました。

調査項目1 

ピアSSTに参加したことがあるかの質問については以下の結果となりました。
①あるに回答したメンバー43名
②ないに回答したメンバー10名

図2

〈コメント〉
SSTに参加したことのある人の割合は8割を超えていて、当事者活動や生活のなかにSSTが根付いていることがわかります。


調査項目2

 ピアSSTに参加したことが「ある」を選んだメンバーは以下のようであった。
① できるだけ参加20名
② ときどき参加12名
③ たまに参加(月1回程度)7名
④ その他3名

図3


調査項目3

 ピアSSTに参加して果たした役割(複数回答可)について以下のような結果になりました。
④ リーダー9名
⑤ コ・リーダー8名
⑥ 板書9名
⑦ 練習相手15名
⑧ 良かった点、
更によくする点のフィードバック16名
⑨ 感想を言う32名
⑩ 困りごとを相談し練習した32名
⑪ その他3名

図4


調査項目4

 ピアSSTに参加した感想は以下の  
ようになりました。

① 参加してよかった27名
② まあまあよかった14名
③ 良くなかった2名

図5

〈コメント〉
SSTへの参加の頻度は約8割と大変高く、リーダー・コリーダーなどの役割にも積極的に参加し、満足度も高いことがわかりました。


調査項目5

 ピアSSTに参加して「良かった」「まあまあ良かった」に〇をつけたメンバーの回答を下に
分類しました。

1.仲間の話が聴ける 他の団体(仲間)と交流できて良い。
話が聞けた。仲間の話を聞けること。
みんなの悩みごとが聞けるから。
仲間の苦しみがわかる。
人の話を聞ける。
みんなの話を聞けて良かった。
仲間と出会える。


2.仲間に話せる 健常者より悩みを言いやすい。小規模でこじんまりして話しやすい。
弱さの情報公開ができるから。
困りごとを相談できた。自分のためになる。
自分のことを話せる。
苦労が話せた。  


3.自分が変われる 同じ病気の人の話を聞くと無人島(孤独)に行かなくても済む。
幻聴が楽になるので。
言葉が良くなる。言葉が出てくる。
自分が変われる。


4.気持ちが軽くなり前向きになれる。 作業をやろうと思う。
生活の困りごとをみんなに相談することで気持ちが軽くなる
重たいことが軽くなって捉え方が楽しくなる。
面白かった。勇気が出た。
本番前に練習できて、心の準備ができ、胸が軽くなった。
エネルギーのチャージができる。
気持ちが楽になった。
楽しい。
気分がスッとした。


5.情報量が増える 自分だけで考えずに人の意見を参考にできた。
仲間の経験が勉強になる。
情報がたくさん入る。
人の悩みを聞いて、自分にも生かせる。
勉強になる。
自分と同じ経験をしている人の練習場面を見ると参考になる。
仲間の苦労を聞いて、自分ごととして考える機会となった。


6.有用な経験が得られる
板書をすると、話す内容がイメージしやすくなってまとまりやすい。
仲間からアドバイスがもらえる。
自分の悩みを練習できるところ。
自分と同じように悩んでいる人の経験を生かせる。
練習して課題がうまくなった。
リーダー、コリーダーの練習ができた。
和やかな気持ちでリーダー経験ができた。
一人一人が落ち着いて話ができている。
みんなが応援してくれる中でリーダー、コリーダーができる。


7.肯定感が得られる

自分のよかったことを褒められる。始まりの挨拶ができて嬉しい。
正直に相手の気持ちがわかってよかった。
みんな仲良く仲間と協力ができて嬉しい。
失敗しても大丈夫だと思った。


8.雰囲気がよくてやりやすい。 みんなで輪になれたから。
気楽なこと。
やり易い。
みんなでつくっていく雰囲気が素敵。

図6

〈コメント〉
ピアSSTに参加してよかったことの内容は50個集まり、それを分類すると1「仲間の話が聴ける」、2「仲間に話せる」、3「自分が変われる」、4「気持ちが軽くなり前向きになる」、5「情報量が増える」、6「有用な経験が得られる」、7「肯定感が得られる」、8「雰囲気がよくてやりやすい」の8項目になった。このことから当事者のピアSSTの持つ可能性が示唆されます。


調査項目6 

ピアSSTに参加して「良くなかった」に〇をつけた方 
の回答は以下のようでした。

人を責め問いただす
怖い
面倒くさい
  

〈コメント〉
ピアSSTに参加して「良くなかった」と回答したのは4名でした。対人関係の緊張感や、たまたま参加した場の雰囲気の影響が考えらえます。


調査項目7

 「困りごとを相談し練習した」に〇をつけたメンバーの練習内容は以下のようにまとめられました。

1.仕事上のコミュニケーション

販売の練習。
お願いをする練習。
昆布を売る練習。
電話のかけかた。


2.家族などとのコミュニケーション

パートナーに気持ちを伝える練習。
お母さんとの付き合い方。
パートナーとの日常のコミュニケーション。
子供との関わり合い方の練習。
子育ての苦労の場面。
親に自分の病気のことを話す練習
息子への電話の仕方。
幻聴があるパートナーとの付き合い方。
パートナーとの付き合い方。
自分とパートナーとの苦労を引き離す練習。


3.健康管理のコミュニケーション 主治医のかかり方。
ギャンブル依存について相談できた。
主治医とのコミュニケーション。

4.仲間とのコミュニケーション
仲間との揉め事の練習。
グループホーム仲間との付き合い。
グループホームでの人間関係の苦労。
繋がり方の練習
(仲間に)帰省した時の報告。


5.日常生活のコミュニケーション 人に尋ねる練習。
自分にあったサイズの服を買う練習。
己紹介の練習。
自分の思いを伝える


6.症状への対処、自己管理 幻聴さんの対応の練習。
電波に声かけする練習。
みどりマンの研究。
幻聴さんとの付き合い方。
ギャンブル依存症とのつきあい
被害妄想について。
幻聴さんとの付き合い方。
マイナスのお客さんとの付き合い方。
幻聴さんを変化させて行って、メンバーの住居の人とコミュニケーションをとる練習。

図7

〈コメント〉
日常生活における家族や仲間、関係者などを対象とした練習課題以上に、一番多かったのは「6.症状への対処、自己管理」の領域で、「幻聴や妄想」に関連した出来事に関する練習が一番多かったのが特徴的でした。これは、浦河ならではの当事者文化の反映であると言えます。


調査項目8

 練習の結果は以下のようにまとめられました。

1.対人関係における変化や成果

うまくいった。
いろんな人にわかってもらえた。
改善された。
バッチリ。
自分の意見を言えた。
相手に対して攻撃的でなくなった。
マイナスのお客さんとの付き合いが実感できて、上手になった。
忙しそうなスタッフに、今よろしいですか、と尋ねられるようになった。
幻聴の中身が良い方向に変化している。
仲間に相談してから出かけるように変わった。
よりを戻すことができた。

2.安心や満足感

ブルちゃんの可愛さを表現できてよかった。自分のことを知ってもらえた。辛いと伝えたら、暖かいメッセージをいただいた。
心の重荷が楽になって、爽やかな感じがする。安心感がある。
100の重荷が30〜20ぐらいに下がる。
気持ちが楽になった。
話すことで楽になった。
穏やかになれた。
スッキリした。
自分のことをわかってもらえた感じがした。
練習できてよかった。


3.商売・仕事・生活における影響
商品が売れた。
仲間とのコミュニケーションは難しいことがあるが、スタッフとはできるようになった。
施設外就労で、仲間やスタッフに実践できた。
売れた。
仕事には生かせた。
仲間といい付き合いができている。
良いサイズの服を買えた。
実際の生活の場面で実践できた。
うまく電話をかけられた。
4.仲間からのアドバイスの効果 いいアドバイスをもらえたのでよかった。
仲間からのアドバイスが役立つ。
仲間の経験が役に立った。

図8

 <コメント>
ピアSSTの効果は、大きく分けて1.対人関係における変化や成果 2.安心や満足感 3.商売・仕事・生活における影響 4.仲間からのアドバイス、に分けられました。生活全般にわたって、効果が確認されました。


調査項目9

 これからもピアSSTを活用したいと思うかどうかついて質問しました。

図9

<コメント>
約8割のメンバーが、今後ともピアSSTを活用したいと回答し、自己効力感、満足度との関連性が伺うことが出来ます。

調査項目10

 これからもピアSSTを活用したいと「強く思う」「思う」に〇をつけた理由
を以下に分類しました。


1.症状や健康管理のため
1人でいると幻聴にやられるので、それと対応したい。
幻聴と付き合いたい。
幻聴の世界からの脱出。
夜中よく眠れず、もたないから。
コミュニケーション障害を隠すのではなく、オープンにして生かしたから。
何かあったらみんなの前で発表したい。
改善された困りごとを発表できた。
みんなに聞いてもらいたいことがある。
弱さの情報公開を身につけるため。
語る場が欲しいから。


2.つながり感の共有

何かをするとき緊張が強いので、SSTによって和らげたい。

生活上に困りごとがあるから。
私生活のことで活用したいから。
子供やパートナーとの関係を築いて幸せな家庭を作りたいから。
みんなの練習を見て、自分も他の練習をしたい気になった。
生活や仕事の困りごとを練習したい。
生活で困ったことを相談したい。
困りごとが助かる。
生活に役立つ。
みんなの前で話をして、アドバイスをもらい、活用できる。
SSTで練習すると実生活の課題がうまくできる。
自分を助ける上で必須。
ピアSSTで助けられたから。


3.生活上の練習課題がある

雰囲気が楽しい。
練習した経験や仲間の経験が参考になった。
挨拶をすると参加して嬉しい気持ちになる。
面白いから。
楽しい。
ガス抜きをしたい。
暇だから。


4.有意義で楽しい
いろんなSSTを見てみたい。
たまに1人で悩んでいる時があるから。
みんながああだこうだと知ってくれるから。
仲間の気持ちがわかる。
仲間の苦労を知れるから。
自分のことをわかってもらえた気がする。


5.興味・関心
病気の勉強をしたい。
ピアSSTのおかげで、言いたいことが言えるようになったから。
ためになったから。
たくさんやって頑張りたいから。


6.勉強意欲
学習のため。
自分では解決できないので、仲間からのアドバイスが欲しい。
自分の意見を言える。
相手の意見を聞ける。
リーダー、コリーダーが自分の経験になる。

図10

<コメント>
今後ともピアSSTを活用したいという希望は、非常に高く、どのような効果や意味があるかを自分なりに理解し、イメージが出来ていることがわかります。


調査項目11

 ピアSSTをこれからも活用したいと「あまり思わない」に○をつけた方の理由は以下のとおりです

みんなの前でする前に個人的に相談しているから
こまめに相談することで何とかなっている


<コメント>
当然ですが、困りごとや生活課題に対する対処は、一人一人が違っていていいと思います。


調査項目12

 今後ピアSSTのリーダーやコ・リーダーをやってみたいと思うかについての結果をグラフにまとめました

図11

<コメント>
リーダー、コリーダーをやってみたいと思う人の割合が想像以上に高いことがわかります。今後、研修も検討が必要です。


調査項目13

 今後ピアSSTのリーダー・コリーダーをやりたいと「強く思う」「思う」に○をつけた方
の理由を以下に分類しました。

1.自分のスキルアップやスキル獲得のため


やってみたい。
自分のスキルアップ。
板書をやりたい。
板書をしていて、技術が必要だから。
仲間の経験を聞くことができるから。
自分のためになるから。
2.仲間の力になりたい。助けになりたい。

仲間の力になってあげたい。
ピアサポートにSSTを活用したい。
みんなと助け合える。
優しい気持ちで仲間とやりたい。
自分助けや仲間の力になりたい。
3.楽しい、楽しそうだから。

字を書くのが好き。
自分がリードすると楽しそうだから。

図12


<コメント>
ピアSSTのリーダー・コリーダーを志すメンバーは、自助活動への関心も高いことがわかります。


調査項目14

 今後ピアSSTのリーダー・コリーダーをやってみたいと「あまり思わない」に○をつけた方の理由を以下にまとめました。
1.難しい、難しそうだから できないと思うから。
難しいだろうと思うから。
板書が難しいから。
人の名前を覚えられないから。


2.苦手意識がある 苦手。
自信がない。
自分にはできないと思う。
苦手意識がある。
苦手だから。


3.字が下手。話すのが下手。 字も下手だから。
人前に立つのが苦手。
字が汚いから。


4.疲れる。負担。大変。面倒くさい。恥ずかしい。 恥ずかしいから。
大変だから。
疲れるから。
負担だから。
話だけ聞いていたい。
面倒くさいから。
少し離れたところから参加するのが自分に合っている。
その他 しゃべることはできる。
司会はOK。

図13

<コメント>
リーダー、コリーダーは、負担感も大きいと感じ、練習相手やフィードバックの役割があっていると考えるメンバーも多いことがわかります。


調査項目15

 「〇〇さんからお金を貸して欲しいと頼まれて困っている」と仲間から相談された場合
にどのように対応するかについて結果をまとめました。

図14

<コメント>
4割弱のメンバーが、ピアSSTおよびSST活用をすると考え、1割はその場で即興のSSTをすると答えています。この事から、代理行為をせずに、本人の持っている力を大切にする発想が見についていることがわかります。


3.ピアSSTの事例紹介(浦河べてるの家、ひだクリニック、なかまの杜クリニック)

 このたびのアンケート調査と並行して、当事者を主体としたSSTの実践プログラムを取り入れている二つの事業所のメンバー、スタッフと交流をし、練習課題、練習内容、ピアSSTの効果と意義について報告し合い、それぞれの活動状況の把握をしました。その結果を報告します。

1)交流の実施日
医療法人社団宙麦会 ひだクリニック(千葉県流山市、実施日2021/ 3/22 )、医療法人楽優会札幌なかまの杜クリニック(札幌市、実施日2021/3/16)とのピアSSTについてオンラインで経験交流を実施しました。それぞれ時間は、およそ1時間程です。

2)結果
以下の通り各所での練習課題や参加者たちが感じているピアSSTの効果と意義を知ることができました。

図15

 それぞれの事業所のピアSSTに共通しているのが「リーダーが自分の弱さを開示していることが参加者に安心を与えている」というコメントに象徴されるように、それぞれが固有の練習課題をもっていることの安心感です。お互いに「仲間である」ことを前提としてピアSSTが成り立っていることを物語っています。もう一つは、「練習をする」ことの持つ意味です。「自分もSSTの時間を活用して練習させてもらえる」ということは、生活上の「問題」や「生きにくさ」が、自分に内在したものではなく、練習することによって変化するものであり、誰もが、その途上にあるのだということの了解が場の中に成立することを意味します。しかも、それが自分の努力によって実現するのではなく「仲間の力を積極的に借りる」「仲間から様々なアイデアがもらえる」ことで実現した手ごたえが、つながり感や孤立感の解消をもたらしていると思われます。

 もう一つは、自分の説明しにくく、分かりにくい経験の意味を「ぴあSSTの方が気楽にお題を出せて練習できる」ことによって、「自分一人ではできない試行錯誤ができる」ようになり、そのことによって、周りにわかりやすく、見えやすい苦労として説明できる可能性が高まることです。特に幻覚や妄想体験と言う従来は、薬物療法のみに依存していた課題が、特に浦河では「他の人はどんなコミュニケーションで苦労しているのかを知れる」「(他の人の練習を見ることで)独りでは気づくことのできなかった自分の困り感(苦労)が、他の人の悩みを通じて具体的な形になる」という効果をもたらしていることがわかります。それらにもっとも大切なのが「良かった点を言ってもらったりすることで自尊心や自己肯定感が増す」経験を積み重ねることだということも再確認が出来ました。


4.ピアSSTの特徴と可能性

1)「浦河べてるの家」の歩みとSST

これまで、アンケート調査の結果と事業所との交流を通じて、ピアSSTの持つ可能性をさまざまな角度から考察し、整理してきましたが、ここであらためて浦河における浦河べてるの家を生み出した当事者活動の歩みを振り返る中で、ピアSSTの意義と可能性を考えてみたいと思います。

図16

浦河ベてるの家は、1978年、北海道日高東部地域(えりも・様似・浦河・三石町)における精神保健福祉活動の一環として立ち上がった精神障害を持つ当事者の自助活動がベースになっています。活動のはじまりは1983年、早坂潔氏、宮島美智子氏(牧師夫人)等が中心となり、教会の牧師館を借りてメンバーの仕事づくりを目的に日高昆布の袋づめの下請け作業を開始したことに端を発しています。翌年には、古い教会堂(浦河教会)を拠点に、当事者の経験を活かした起業による地域貢献、「街づくり」の地域活動拠点として「浦河べてるの家」が発足しました。活動理念は、「地域のために」「社会復帰から社会進出へ」「三度の飯よりミーティング」など、精神障害を経験した当事者自身が、「地域のかかえる苦労への参加」の手段としてビジネスー起業に挑戦し、過疎化が進み事業所の撤退や閉店する店が相次ぐ中で、日高昆布の産直・出版事業、会社を設立して介護保険事業に進出しました。
 以上のように、原材料の発注やお客さんとの対応、販売などべてるには、さまざまなコミュニケーションスキルを要する場面が多くあり、それに対してSSTは有効なツールとなったのです。そこから2001年には、「当事者研究」が生まれ、自助活動に取り入れられるようになりました。

2)SST導入の歩みと展開。

SSTは、周知のように認知行動療法をベースにリバーマン(R. P. Liberman)らによって開発され、精神保健福祉領域においては1988年に東大病院デイホスピタルでUCLAのP・リバーマンによって我が国に紹介されたことを契機に関心を呼び、普及が図られてきたものです。SSTは、1994年4月からは「入院生活技能訓練療法」として精神科の診療報酬にも組み込まれ普及が図られてきました。
そのSSTが、浦河にもたらされたのは1991年です。札幌市で開催された前田ケイ氏(ルーテル学院大学名誉教授)が、保健師向けに精神障害リハビリテーションの動向について講演する機会があり、それを当時、浦河赤十字病院でソーシャルワーカーをしていた向谷地生良氏が聴いたのが最初でした。そこで知ったSSTの持つ基本理念である「エンパワメント・アプローチ」が、べてるの家が大事にしてきた「自分の苦労を取り戻す」という理念と共通していると感じ、それが世界の精神障害者リハビリテーションの新たな潮流となっていることで自信を得たのでした。それがきっかけとなり1992年7月には前田ケイ氏を浦河に招きSSTの講演会を催し、北海道のソーシャルワーカー協会でも毎年1回、前田ケイ氏を招いて、研修会を開くようになりました。特筆すべきことは、1994年に「入院生活技能訓練療法」としてSSTが診療報酬として算定できるようになったとき、浦河ではすでにメンバーたちが中心となってSSTを始めていました。そこで、浦河赤十字病院精神科病棟でSSTを導入するときには、べてるの家の早坂潔氏らが講師になって精神科スタッフへのSSTの紹介と導入のサポートを行いました。

3)PST(プロフェッショナル・スキルス・トレーニング)のはじまり

SSTは、従来のスタッフ主導の治療やリハビリテーションのあり方に、根本的な変更をもたらすものでした。少なくとも、浦河ではそのような理解の基にSSTを理解し、受け入れました。しかし、名前が「生活技能訓練」だったことから、従来の精神科の閉鎖的で管理的なアプローチに対して批判的だった人たちの中から「新たな支配と管理のツール」という批判も上がりました。もちろん、ツールですから、「金づち」も、モノを作るだけではなく、使い方によっては凶器となるように、SSTも、それを用いる人によって同様のリスクをかかえることになります。そのような課題を覚えながらも、前述したように私たちはSSTを知ったときに、「これは使える」と感じたのです。当事者活動・自助グループ活動を大事にしてきたこともあり、当事者が自分の意見を言ったり、主張したり、関係作りをすること、そして昆布の販売にも使えると考えたのです。
しかし、SSTの導入がはじまった時には、「あの人、挨拶してないね」「この人、態度悪いね」と“問題探し”をはじめて、相手の悪いところを出し合い「この人はSSTだね」という流れで活用した事例も少なくありませんでした。その意味では、SSTは、その場の現状をあぶり出すプロセスでもあります。そのような現場にこそSSTの導入を促し、改善していくツールとしての意義もありました。そこで、気づかされたのが、誰よりもスタッフ自身がSSTを活用する必要性でした。そこで、はじまったのがPST(professional skills training)でした。そして、浦河では、当事者もスタッフも、一緒にSSTを学びあう文化が生まれ、育ったのです。

4)SSTと当事者研究

SSTは、誰もが持つ「受信・処理・発信」のプロセスを重視しますが、SSTをやりはじめてわかったのは、「何を練習するか」という課題は、そう簡単には見つからないこと、そして、その人自身の「生活感」の有無が大切になってくるということです。しかも「電波をかけられて困っている」という困り感を、どのように受け止め、SSTの練習課題として扱うかは難しいテーマでした。そこで、練習とは別に徹底して本人の訴えを聴いて、みんなでいっしょに考えるプロセス(何が起きているのか・どう理解し、対処すべきか・出来事の意味を考える・対処した結果を踏まえた次の対処を考える)を大事すると、みんなの中から、練習課題がどんどん出てくるようになったのです。そうすることによって、SSTは、活発化し、メンバーやスタッフにとって無くてはならない日常のツールになったのです。そして、SSTを活性化するために「共に考えるプロセス」が、「当事者研究」という新たな活動を生み出す契機となっていきました。そのようにして、当事者研究とSSTは車の両輪として発展してきました。

5)SSTと自助活動

精神科の治療プログラムは、専門家がリードして、専門家がさまざまな療法やツールを駆使して使うというのが従来のスタイルでしたが、エンパワメント・アプローチであるSSTは、当事者が主体的に協同するという可能性の道を開いたような気がします。少なくとも、浦河ではそうでした。そのような中で、この地域でも、2000年頃までは、地域で暮らすというよりは、入院中心、医療中心の時代でした。しかし、1970年代の半ばに、浦河で自助活動がはじまり、それが浦河べてるの家(1984)を生み、地域に少しずつ住む場所と活動拠点が出来上がると、地域の中でリアルに生きる苦労を実感するようになりました。起きた変化は、今までだと、専門家への“苦労の丸投げ状態”に陥りやすかったのが、仲間に相談し、「練習すればいい」という発想が生まれ、必要以上に専門家に頼らず、仲間や身近な人たちと協力しながら、自ら経験を積み重ねていくということにつながりました。そこで生まれたのが、SSTを狭い意味での治療手段として使うのではなく、自助の手立てとして用いるという当事者文化が浦河ではじまったのです。
浦河では、通常のSSTの基本モデルにおいても、自然に当事者がリーダーをすることも多く、それ以外でも、日常生活を送る中で何かあったときには、その場に居る人同士が即興で練習をする、研究するという文化が根付いています。そのような場の文化を育むことにおいて自助グループの果たす役割は大きいものがあります。自助活動が育っていないと、日常生活のなかでのピアSSTは難しいと言えます。

6)アンケートから見えてきたピアSSTを育む場(土壌)の条件と大切にしていること

ピアSSTは、先にも述べたように、北海道浦河における精神障害を経験した当事者の起業を目指した地域活動で共有された次の理念と活動の中から生まれたものですが、このたびのアンケート調査を経て、私たちはあらためて「ピアSST」をすすめる上で大切にすべきことを以下のように整理しました。

<基本理念>
まずは、基本理念として以下のことを整理しました。
①人に管理、保護された「安全」ではなく、苦労を重ねながらみんなで一緒に創り出していく「安心」を重視する
②「病気や障害」の体験には、生き方や暮らし方に関する大切な経験が含まれている
③安心して働ける職場づくりをめざすための、「弱さの情報公開」が出来る環境
④事業の運営に積極的に参加し、責任と役割を持つこと
⑤地域社会のかかえる課題の担い手になる

<場の特徴と工夫>
以上の理念に基づき、活動をすすめる上で、次のようなことを大切にしています。
①SSTの持つ人間の成長観を活かす
SSTは、問題志向ではなく「希望志向」のプログラムであるところに特徴があります。具体的には、「何が問題か」ではなく、「何を実現したいのか」からはじまるということです。それを促すための工夫としてSSTは、「良かったところ」「更に良くする点」の発想に貫かれています。その発想を、プログラムの中だけではなく、場の文化として活かすために、浦河では、あらゆるミーティング、打ち合わせが「苦労していること」「良かったところ」「更に良くする点」の三点を基調として進められています。

②カンファレンスの主催者はメンバー
浦河では、いろいろと悩み事、困りごとがあると、メンバーの方から「カンファレンスをお願いします」という声が上がります。そして開かれるカンファレンスの主催者は、メンバー自身であり、主催者としてのメンバーの挨拶からはじまり、感想(今日の発見)によって終わります。

④経営の担い手になる
起業をめざしてはじまったべてるですが、売り上げや販売計画の立案、実際の事業運営へのメンバー自身の参加を大切にしています。

⑤フラットで多様性を大切にした運営
べてるが大切にしてきた組織運営のイメージは「黒土のような場」をつくることです。多様な微生物、土壌細菌によって生まれる黒土から生まれる美味しい作物のイメージを大事にしてきました。
「問題だらけ」の私たちの日常ですが、それは、それだけさまざまな人が生きて、働いている証左でもあります。そのような場の土壌(苦労の多様性)が、ピアSSTを育むのです。

⑥言葉の文化
「いい苦労をしている」「それで順調」といった独特の言葉の文化を生み出すつながり(ナラティブ・コミュニティー)を大切にしています。

⑦さまざまな失敗や行き詰まりを許容し、そこから謙虚に学ぼうとする文化
 さまざまな問題や行き詰まりを、大切な経験の一部として、常に学ぼうとする「ジャスト・カルチャー」の組織文化が、場を活性化させます。

⑧地域のネットワークとの連携
 一人一人の生きにくさや困りごとは、常に環境やその人自身が生きる場とのつながりにおいて理解する必要があります。

<ピアSSTの特徴と工夫>
ピアSSTにおいて大切にしている点は、以下の通りです。
①対等性
 ピアSSTでは、いつも、誰もが対等であることを大切にしています。

②時間と場所を選ばない
 ピアSSTの持ち味は、いつでも、どこでも、必要な時に、一人でも(一人ピアSST)できることです。

 ③「いま、ここで」の即興文化
計画され、用意されたものではなく、即興的に生まれるハプニングを重視します。

④言葉を生み出す
 専門家が用いる専門用語ではなく、自分のことを、自分の言葉で説明することを大切にしています。

⑤当事者研究との連携
 当事者研究がピアSSTをよりリアルで、豊かなものにします。

⑥自助活動との連携
 回復者クラブ活動など精神障害者の権利や社会的な環境の改善に向けた取り組みへの参加と連帯が、ピアSSTの活動の幅を広げることにつながります。

5.まとめ―リカバリーとピアSSTの可能性

ピアSSTの活動が大切にしてきたことは、世界の精神障害者リハビリテーションの基本理念として受け入れられている「リカバリー」の考え方とも重なるものです。共同創造(Co-production)という言葉があるように、様々な関係者が共同する時代になっています。お互いが張り合うのではなく、共同する時代の到来は、このピアサポートやピアSSTを市民活動として展開し、広げるという可能性を示唆しています。そして、このことは専門家が独占していたケアを,当事者自身が「自分の苦労の主人公」になり,自助を行う根拠となりました。

図17


 以上のピアSSTの課題としては、ピアリーダー、ピアコリーダーなどの養成も含めた学びの機会が必要と言う声が上がりました。今後、ひだクリニックや札幌なかまの杜クリニックのメンバーと相談しながら、そのような機会を持てたらいいと思います。 そして、もっと大切なのは、このような当事者の自助の文化を理解し、受け入れ、共同しようとする専門家や関係者の意識変革もより重要になってくることです。その意味でも、交流を重ねながら、ピアSSTの可能性を探っていきたいと思います。

図18


 最後に、私たちにこのような活動の整理と気づきの機会を与えてくださったキリン財団に、こころから感謝申し上げます。