[後書き] 彼岸より彼方
何人かの方から後書きを読んでみたいと言っていただけたのですが、自分でもまだうまく消化できない部分があり、後書きのような…ほとんど蛇足のような…。製作時に思ってたこととか、元ネタとか資料とかの覚書です。
読後感のノイズになるかもしんないので何でも大丈夫な人向け。
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▼そういえば奥付から始まったんだったの話
2019年の蜜月で出した本、心象sketchの奥付を『令和元年』にしようと思っていたのに、締め切り前に思い出す余裕もないまま2019年と表記して入稿してしまい、今年中にもう一冊出すか…と思ったのが始まりでした。どうせリベンジするなら令和元年っぽい話が書きたいと思ったものの、令和元年っぽい話とは…!?ちょうどあの頃、元号改元とともに出典の万葉集が脚光を浴びていた頃で、私は学生時代このへんを専攻していたので、ニュースなどで上代文学が次々と取り上げられるのがすごく嬉しくて、自分もそのお祭りムードを形で残してみたくなり、せっかくなので前々から描いてみたかった「古事記」とか「神話」とか「民話」とか何かそういう話を…と思っていて、ポンッと出てきたのが下のツイートでした。(今思うとここから随分迷走したな…)
海洋学専攻の光忠が大学の時にお世話になった教授が亡くなったと聞いて、故郷の離島にお線香をあげに行ったら孫のお〜くりから君(14)が1人で暮らしてて「爺さんの船を継いだ」と言うので同じ屋根の下住み込みで義務教育を教えるかたわら研究を続けるうち島に伝わる龍神伝説の禁忌を知ってしま文字数
— アユム (@ayum_tk) August 2, 2019
このときは自然の中でおしょた(概念)と睡眠姦エッチ本になる予定だった
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▼日本の神話の好きだな~と思う所と、大倶利伽羅くんの話
南北に長く伸びる日本列島ではもともと、地域ごとに異なる文化圏が形成されていて、それぞれの集団がそれぞれの生活に密着した自然物や自然現象に「神」を見出していました。
それらがなぜ「日本神話」としてひとつの体系にまとまったかというと、近代化にともない国家という意識が生まれ、国の公的な歴史の編纂が必要になり(ざっくり)各地域の信仰する神を、実際の歴史や力関係になぞらえながら登場させ、協定を結ばせたり屈服させたり立ち退かせたり…と、一つのストーリーに編集して、政治的主張に使えるように整えたかったからです(超絶ざっくり)(所説あり)(怒られませんように…)(怒られたら直します)(ていうかこれを消します)
そうすると、本来なんの因果関係もなかったはずの神様同士が、歴史とのつじつま合わせのため「勝者」「負者」に分けられたりします。多面性がある本来の性質をひそめ、自分の運命や役割を人間がそう語り伝えるならと受け入れて、今なお「そういうもの」として語られている。
でも、その神様の地元に行くと案外つよつよのままだったり、全然違う逸話を持ってたりして、神様はちゃっかり強かだなとも思う。たとえ正史とは異なろうと「語り継ぐ人」がいればどんな姿だって残せる。
歴史的な記録と口伝の差異、私はもうとにかくこれが大好き。
そういう、まぁまぁ受け入れてくれる日本の神様っぽい大倶利伽羅くんが、それでも虎視眈々と自分の勝ちを狙ったり、人を出し抜いてちゃっかりせしめたりするのが描きたいな~と思って、「悪にも善にも転べる神様の大倶利伽羅くん」に方向性が決まりました。
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▼バッドエンドの話
最初はハッピーエンドにもっていくつもりで描いていて、「正しい歴史上は敗者と定義づけられても、周りに本質を見て支えてくれる人がいれば逆転ハッピーエンドじゃ~ん光忠が観光課とかに就職して尽力して大倶利伽羅くんが赤ちゃんに戻る寸前くらいで信仰が蘇って~」みたいなルートを予定してたんですが(「こんなにいい島なのにどうして人がいないんだろう?」のセリフに名残がある)その少し後に連隊戦夏の陣が始まって、洞窟の背景を見て「冥界下り&見るなの禁」を思いついてから、バッドエンドの方に振り切っていった感じです。
見るなの禁とは話型(物語の類型)の一種で、【地上に戻るまで決して後ろを振り向いてはいけない】という世界中でよく見る展開です。有名なのはギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケですが、日本神話にも「黄泉比良坂」という話があります。
黄泉比良坂はザックリいうと、死んでしまったイザナミ(妻)をイザナギ(夫)が黄泉の国まで迎えにいく → その際イザナミから「自分を絶対に見ないように」と釘を刺されていたが、イザナギが好奇心で顔を覗き込んでしまう → するとイザナミは雷を纏い死者の姿に変わり果ていて、イザナギは驚いて逃げ出してしまうという話。これもう話型上お約束の展開だから仕方ないんですが、イザナギ…そこはさぁ…そこは変わり果てていてもさぁ…!お前の愛した女だろ…!?と思うところなどもあり…(何様?)
なので、終盤の洞窟のシーンでは、光忠が振り返る、影の方にいるからちゃんに光忠から歩み寄ったうえで、見捨てない。みたいな立ち位置を意識しています。
▼この本の光忠像の話
私は燭台切光忠という刀は変化の刀で、いつの時代のエピソードを切り取るかによって色々な捉え方が出来ると常思っていて、意識して本ごとに性格をちょっとずつ変えてきました。今回の本は「理想主義を体現するだけの器用さがあり、完璧な人間を上手にこなしているが、名前が手討ち由来なので本性が凶器」という感じ。
そんな「真っ当に刀」だった光忠からしたら、現代社会で人間として体を持っている状況こそが「変わり果てた姿」で、すごく生きづらいんじゃないかと思って。「世の中の大多数と自分だけが違う、自分だけ周りの人が普通にできることができない、人として間違っているかもしれない、マイノリティの焦燥感、孤独感、解放されたい、楽になりたい、誰かに理解してほしい、自分は生きていていいんだろうか…」というような葛藤を多分、光忠は周りに言わない。自分が化けたい「理想の人間」からかけ離れるから。
でも大倶利伽羅くんならきっと、光忠が「刀の光忠にとっての普通」でいられた世界へ一緒に戻ってくれる。持っているものを全部捨てても、それが光の差さない海の底でも。ここが地獄か天国か決めるのはそう自分が選んだ道次第…という感じで、光忠像が定まると同時にオチも決まったのでした。
009の「ジョー、君はどこに落ちたい?」から変わらないんですよね性癖が…。も~~めっちゃ語るじゃん…無限に長くなってしまう…すみません…
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▼100%余談の話
描いてたころたまたま周りに「転職しよか~」と悩んでる人が多くて、私も勤め先のパワハ……倫理感に頭が狂いそうになってたので、そういう時に無理して変わらなくてもいいよ、逃げてちゃってもいいよ、一緒にいるよ、と言ってくれる人が居たらそれはめっちゃ心強いでしょうね…と思いながら描いてました(読後感台無しパート)でもありがたいことに、読んだ後背中を押されたとか、勇気をもらったとか、そういう声も頂けたので、描いてよかったなと思います。
お手に取って頂いた方、読んで感想を送って下さった方や、お気に入りのシーンやBGMへの共感を寄せて下さった方もありがとうございました!BGMのわかりみはいつでも募集しています。
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▼舞台の話
まとめたけど海の話してなかった。
連隊戦全く関係ない時に、八丈島のロケかなにかをテレビでみたあとにちょうど「海獣の子ども」のCMを見て深海が描きたくなり、海辺のイベントが来たので海辺でループみたいなものを思いつきました。お前はループが本当に好きだな。はい、私はループが好きです。
モデルを探すときは、「珊瑚はどの辺の海域からあるの?神話と絡めるなら宮崎あたり?(高千穂的に)亀ってどの海域にいる?ダイビングできる環境?海流?黒潮の流れている所ってどこ?沖縄?島?波照間…」と徐々に決めてった感じです。波照間はロケーションもよければ残っている伝説もロマンがあっていいなと思いました。
波照間島のさらに南に「南波照間島」(パイパティローマ)があるという伝説がある。重税から逃れるため、1648年に島人が南波照間島に渡ったという伝聞が、琉球王府の記録である『八重山島年来記』に記されている。
島名の由来は古くから「ハティローマ」と呼ばれていたと考えられており~中略~このような名称は「果てのうるま」(「うるま」は、琉球または珊瑚礁の意味)に由来するという説が一般的であり、波照間という表記は当て字である。 wikipedia [波照間島]より引用
あと作業アカでぽろっと呟いたときに西表島推しのフォロワーさんからいただいたマシュマロが大変面白く勉強になりましたので貼らせていただきます!!(どこにでも本職がいる同人界の奥行きの深さよ…)(駄目だったら言って下さい~!)
実は描き始めたころは珊瑚じゃなくて死滅海流の話をしようと思ったんですけど(呪術で取り上げられてうひょ~~~!てなった)うなぎの話をいきなり語る光忠が食欲旺盛でちょっとおもろかったので最終的に珊瑚になりました。
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蛇足も蛇足、誰が読むねんこんな長文って感じでの裏話でした。どこから話したらいいのか迷って2年近く寝かせた結果がこれ…!!文才っ…!!無っ…!!
ていうか最初のツイートから2年近く経ってるんですね。自分でもなんだか思い出深い話になりました。ここまで読んで頂けた方はありがとうございました。
ほんと余談ですが、わたしの推し研究者の論文Amazonで買えるのでよろしくお願いします。比較神話学というジャンルです。
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