誘導警備バイトの話

ダースシディアスは生きていた!


前にみた研修ビデオでは、やたらと将棋倒しが起きたりテロが起こったりデススターが破壊されたりしていたので「ほんまに自分にできるんやろか...」と不安でしかたなかったが、赤く光るかっこいい棒を唯一の心の支えに出勤してみると、そこにいたのはおじいちゃん二人組。

パルパティーンから全ての憎しみを奪ったような温和なKさんと、ちょっとアス比を間違えて横に伸びたC-3PO似のSさんは永らくのベテランらしい。どうやらこの2人組+新人の組合わせが多いようだ。3POさんは面倒見よく色々なことを先回りして教えてくれる。

「とにかくトラックに轢かれんように注意しろよ!」

さすが全ての事故を徹底的になくす努力をしてる業界。スムーズに見えて随所で確認作業があり、また立ち回りも命最優先が突き詰められていた。パルパティーンさんと3POさんも一見頼りなさげに見えるがそのタスクを綺麗にこなしている。内側から見てみるまでわからなかったプロの技だった。


 ところでパルパティーンさんは少々おしゃべりが過ぎる時がある。しかも微妙に声が小さいからよく聞き取れない。「前来とった学生は好かん」とか「ライトセーバーは浄化すると色が変わる」みたいなことを言っていた気がする。あまり定かではないが。

特に「3POさんと二人で自転車で舞洲の現場までいったら5時間かかってガチギレされたんや」という話に至ってはお気に入りのエピソードなのか200回くらいしていた。あんまりにもパルパティーンさんの話と俺の相槌が続くもんだから、こんがらがって最後の方に至っては俺が「自転車で舞洲の現場にいったら5時間かかったんすよ〜」ぐらい言ってた。パルパティーンさんも「へぇ」と相槌。へぇじゃないだろ。


 作業服の着こなしがオシャレすぎるパーツ管理担当の女性から、かなりの強豪チームでサッカーをやっている息子をもつ運搬担当父、見た目はめちゃイカついのに「たっかいな〜!」と言いながらキラキラした目でタワマンの階数を数えている施工担当など、現場自体も想像以上に人種が豊かだった。ハードな現場ではなかったからこそのんびりしていたのかもしれない。


 通りゆく園児たちを見ながら「交通誘導警備はサービス業だよ」と言われたことが頭でリフレインする。曰く有象無象の第三者に対して、モノを提供するわけではなくひたすら不快さを取り除く仕事であると。警察と違って停止や誘導に強制力がない我々は、頭を下げたり、道に迷ってる人の世話をしたりしながら、瞬間的に懐にとび入ることで彼らに指示を聞いてもらっている。その繰り返しが第三者たる通行人や現場作業員の安全を守っているのだ。「だから一回ずつ地球にいる全ての人に向けて誘導警備を行ってください」と。

恥ずかしながら俺の曲も街頭でBGMとして使ってもらったことがある。今までそのことについてあまり深く考えたことはなかったが、これは明らかにSpotifyで聴いてもらうことや、限られたクラブの中で響かせることとは性質が異なる。俺の曲は俺の知らないところで俺の知らない世界を見ていたのだとこの時初めて知った。


血に染まったはずの真っ赤な誘導灯は気づけば一点の曇りもない純白に変わっていた。パルパティーンは最後まで舞洲にいったら5時間かかった話をしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?