漱石の俳句(3)累々と徳孤ならずの蜜柑かな
明治二九年の作品にも理想を詠んだ句があります。
累々と徳孤ならずの蜜柑かな
論語の「子曰く、徳は孤ならず、必ず隣有り」(徳不孤、必有鄰)を使った一句。徳のある者は決して孤立することはなく、必ず隣に慕ってくる者がいるという意味です。
ご存知の通り、漱石は「木曜会」をはじめとして、弟子が豊富で、後年「漱石山脈」といわれるほどでした。この句が読まれたのは熊本時代ですが、五校の学生が漱石を主宰にして、俳句結社(紫瞑吟社)を立ち上げるほど、すでにその「徳のある者」の傾向がみられ