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第九回星新一賞を頂きました

 第九回日経星新一賞でグランプリを受賞しました。「リンネウス」という作品です。星賞には第七回から毎年チャレンジしており、三年目でようやく目標達成ということになります。文学賞で一等賞になったのはこれが始めてで、我ながらよくやったと素直に自分を褒めてやりたくなり、珍しくNOTEに記事を書いてみました。

 二年前に始めて応募した時は、二作応募して一作は予選落ち、もう一作が優秀賞(日本精工賞)でした。予選落ちした方は未来のカーチェイスを描いた話で、初めてちゃんと書いたSFでもあって個人的に思い入れも深く、エンタメ的にもこちらの方が面白いと思っていたので、落選した時はかなりがっくりした記憶があります。一方で受賞した「Black Plants」という作品は、片手間というか、締め切り一週間前に慌てて書いたもので、色々調べなくても済むように自分の専門に近い植物学をテーマにした話でした。カーチェイスものよりもずっと地味ですが、理系的要素が強く、その意味で星賞の求める基準にうまく合致していたのでしょう。受賞と落選を繰り返してきた今なら分かりますが、暴力描写も荒っぽいセリフもないおとなしめな作品が入選できたのにはそりゃそうだろうという納得感があります。星賞とはそういう賞なのです。

 今回受賞した「リンネウス」は、「Black Plants」の発展型ともいえる作品で、不思議な巨木が登場したり、生態系を扱っているなど少なからず共通点があります。お約束として理系的要素を基本としながら、なるべく映像的というか多少のエンタメ的な要素も付加して、幅広い読者に楽しんでもらえるよう意識しました。星賞のプロフィールにも書きましたが、私は学生時代に植物学(樹木学)を学び、今もそれに関連した職業に就いているので、「リンネウス」にはこれまで学んできたことや経験してきたこと、仕事をしている中で考えたことや思いついたことをSF小説という形に結実させたという感覚があります。誰でも何かしら専門分野や関心の高いことがあるはずで、もしかしたら、そうした自身の日常や生活史から滲み出てくるオリジナルな発想を物語にするのが創作の秘訣なのかもしれません。そういう意味で、たぶん「リンネウス」は私にとって一生に一度しか書けない物語で、この作品を高く評価して頂けたのは、自分のこれまでを肯定してもらえたようで大変嬉しく思っています。

 実は、「リンネウス」という作品はこれまでの公募落選作のワンシーンを繋ぎ合わせたキメラ、というかリサイクルだったりします。要は使い回しです。ネタ元の作品には公開しているものと非公開のものがありますが、例えば翼竜のシーンは、カカポ(ニュージーランドに生息する飛べない鳥)をモチーフにした某さなコン一次落選作のラストシーンを下敷きにしていますし、巨木の中に入って果実になるシーンは、かなり前に福島正実賞に応募して落選した童話(未公開)にその源流があります。その他にもちょこちょこと他作から引用してたりします。気に入ったシーンはやはり日の目を見せてやりたいのが親心ですし、時間がたつと多少なりとも書き慣れたりそのシーンの意味を深く解釈できたりするので、シーン単位でリサイクルするのは全然アリだと私は考えています。受賞してオモテに出てしまうと、さすがにもう使えませんけどね。

 自分がSF書きとして果たしてどれほどの器なのか、正直いってまだ全く分かりません。毎回新作を書くたびに自分の筆力に絶望して頭を抱えるばかりです。周りにはウルトラマンのような凄腕の書き手たちがうようよしていて、創作者としての自分の現状はイヤでもはっきり判ってしまいますが、今回このような素晴らしい賞を頂いて、お前はやればできる子なんだ、ダメな奴じゃないんだと誰かに言ってもらえた気がして、間違いなくこれからも書き続けていこうと思える大きな自信になったと思います。
 これに驕らず、焦らず弛まず、自作を楽しみにして下さる方々がいらっしゃる限りは少しでも良い作品をお届けできるように精進しますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします。

 最後に一つ。
 一昨年の第七回ではコロナ禍のため表彰式が取りやめとなり、審査員の先生方や出版関係の方々にご挨拶する機会を失って、とても悔しい思いをしました。今回はリモート形式とはいえ立派な表彰式を催して頂き、また審査員の梶尾真治先生から過分な選評を頂けたことで、何か当時の思いが報われたような、胸の閊えがとれたような晴れ晴れとした気持ちで受賞することができました。と同時に、やはり国立新美術館でのリアルな表彰式にも出席したい、直接トロフィーを受け取りたいという思いも新たにしたところです。
 なので、私の挑戦はまだ終わっていません。


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