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東大テニス部で学んだこと-「今」への集中-


「いやらしさも汚ならしさも、むきだしにして走っていく」(ザ・ブルーハーツ『TRAIN-TRAIN』)。この曲を聞くと、現役時代に週7日、朝8時から日没まで、テニスコートで全てをむきだしにして走っていたことを思い出します。テニス経験も浅く身体能力も高くない自分が、レギュラーに食いこむために何ができるのか。毎日、必死に求め探して、走っていました。私の場合、コートの外でも筋トレに励んだりテニスの技術本やスポーツのメンタル本を読み漁ったりしていました。

今の現役生は、スマホやタブレットで気軽にレッスン動画を観たり自分の試合を録画再生できる環境があり、羨ましい限りです。私の現役当時はユーチューブもないので、プロの試合映像などを買ってきて、VHSテープが擦り切れるまで観ていました。また、高価なビデオカメラをなけなしのお金で買い、自分の試合の振り返りに使っていたので、隔世の感があります。

今流行っている『アオアシ』というサッカーのマンガを知っていますか。この作品中に「強いチームの最大の条件を知っているか。サブ(控え)も強いことだ」というセリフがありました。私たち東大テニス部の良き文化の1つが「チーム全体の底上げをしていこう。そのために先輩は後輩に手を差し伸べよう」という気風なのではないでしょうか。諸先輩やコーチの柳恵誌郎さん(往年のデ杯選手)が、私のような控えの選手にも情熱をもってテニスを教えてくれたことを心から感謝しております。

テニス部では、実に多くのことを学ばせて頂きました。「テニスも人生も、腰を低くせよ」「レギュラーになることを目指すな。レギュラーになり勝つことを目指せ」などのアドバイスを鮮明に覚えています(後者については残念ながら実行しきれませんでした。リーグ戦で個人的な目標の3勝に届かず、チームとしても関東リーグ3部残留を死守できなかったので、悔しい気持ちでいっぱいです)。

先輩のアドバイスで特に覚えているのが「試合中は、自分のコントロールできるものに集中する」です。テニスのゲーム中は、実に多くの障害がありました。相手校のヤジ、凸凹のクレーコートでのイレギュラーバウンド、突風など…。これら様々な外部環境をいちいち気にしていたら、イライラしてプレイに集中できません。だから、周囲の環境など自分のコントロールできないことは気にせず、自己の呼吸や視線など自分がコントロールできるものに集中せよ、ということです。

「変える事ができるものを変える勇気を持つ。変える事ができないものを平常心で受け入れる力をもつ」「過去を振り返らず、目の前の一球(今できること)に集中する」という姿勢は、今でも人生の指針になっております。前を向いて走る姿勢を教えて頂いたテニス部の諸先輩の方々には、感謝しかありません。

末筆になりますが、現役生には「個人個人の”与える”という努力により、最終的にそのチームから、その努力の見返りが泉のように噴き出てくるのである(『スラムダンク勝利学』)」という言葉を献げます。現役の選手たちが益々ご活躍されることを心よりお祈り申し上げます。

追伸
昨年、死に至る大病をしました。引退後20年間ほとんどラケットを握ることもなかったのですが、最近、病気のリハビリのためテニスを再開しました。ゼロからのスタートと思って久しぶりの打球感を楽しんでいます。全てをむき出しにして走っていた学生時代とは違い、今後は人生もテニスも、緩急をつけて前に進めたらと思っています。

関智征


(本原稿は、『赤門テニスクラブ会報』(第30号、2021年8月)投稿文書を加筆修正したものである)

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