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【通訳のウラ話】 逮捕、起訴、裁判の実際

警察や弁護士会の通訳をしたいと思っている方は、実際の流れや被疑者の一般的な状況を知っておかなければなりません。

ただ、この記事を読まれる前に知っておいていただきたいことは、

推定無罪

ということです。「疑わしきは被告人の利益に」のようにも言いますね。つまり、対面する人は、裁判所が判決を出すまでは「無罪」なのです。疑われているだけ。なので、「犯人」と決めつけてそのように思ってしまう人は、まずこの仕事はしないほうが良いです。

疑わしい人が逮捕をされた場合、まずその逮捕状を請求した所轄の警察署に連れて行かれ、取調室でもろもろ説明をされます。アメリカ映画のように、逮捕されてその場であなたには黙秘権がありますどうのこうの、ではなく、一旦取調室へ入ってから、今後のことを含め説明をされます。それに、例えば捜査をしているのが沖縄県警の那覇警察署だけど、逮捕された場所が札幌だったら、札幌の警察署に行くのではなく、いったん那覇に移動させられます。移動の都合で、近くの警察署に「宿泊」することはありますが。

現行犯逮捕ということで、犯行が行われた場所での逮捕ではなく、取調室に一度任意か何かで呼ばれ、そこで話している間に裁判所へ逮捕状を請求し、その任意聴取が終わる頃に取調室の中で逮捕状を見せられ、内容を読まれ、逮捕されるという流れが結構多いように思います。そしてその場で手錠をかけられます。取調室は刑事課のすぐ横あたりにあるので、そこから留置場へ行くときには手錠をはめられます。

近くの警察署の前を通るときに、窓を見てください。2階か3階に鉄格子の見える階があると思いますが、そこが留置場がある階になります。窓越しに蛍光灯があればそこは刑事課などの警察官が働いているところで、同じ階でも留置場のあるエリアはそことは壁や扉で仕切られた別ゾーンになります。

ちなみに取り調べをする警察官(刑事課や生活安全課など)は、留置場にいる留置課とか留置担当課とか、留置管理課とは別ゾーンと言いましたが、彼らは基本的に事件についての話はしてはいけません。法的に禁止をされています。例えば刑事課に位いる警察官と、留置課にいる警察官が同僚であっても、世間話はともかく、事件の話をしてはダメ(と言われています)。

私たち通訳は、警察通訳なのか、弁護士会通訳なのかによりますが、弁護士の通訳で出向く場合は刑事課の警察官らと会うことはありません。(前述の通り同じ階でも留置場がある場所は重い扉の向こう側にあるのです)今回は弁護士会の通訳で行った場合についてお話ししていきます。

被疑者が逮捕をされると、その被疑者の知っている弁護士を呼ぶことができますが、そうそう弁護士を知っている人などいないですよね。その場合、警察署がその地域の弁護士会へ連絡を取り、その日のうちに来れる誰かを派遣してくれます。このとき、被疑者が日本語を全く話せない場合に、弁護士会から通訳の依頼が来るわけです。ただ、結構突然ですし、夜遅かったりもするので、なかなか行くことができません。「夜遅い」ことがあるという理由は、弁護士は他の仕事を抱えているので、面会に行くのがどうしても夜遅くなる、ということです。

そして弁護士と通訳は、留置課で手続きをし、留置場に併設されている面会室へ入ります。弁護士はスマホやパソコンを持ち込めますが、一般の面会の人は手続きの時にスマホを預けなければなりません。通訳も、メモ帳以外は基本的に何も持ち込めないと思ってください。

また、弁護士が面会するときは、アクリル板の向こう側は被疑者だけですが、一般の面会で行く場合は被疑者の隣に看守が同席しています。

ここまでの流れをもっと端的にお話しすると、

1、被疑者が逮捕される→留置場へ入る
2、取り調べは基本的に翌日以降で、当日は身体検査など留置場に入る手続きをすることが多い
3、その日のうちに弁護士(+通訳)が面会をする。その時に、今後の流れ、何があったのかの聞き取り、弁護士を今後どうするかなどの話をする
4、大概の外国人は弁護士費用がないので、国選弁護人とよばれる国が自動的に選ぶ当番弁護士(もちまわりでやっていたりする)がつく(そうなると初回の通訳とはまた別になるので我々は最初の一回だけということが多い)

そして48時間以内に警察が捜査を続行するとかになると、拘留期限延長という手続きになります。これは、被疑者が一度48時間経過する時に検察庁へ行って、検察官の取調べを受けます。その直後に裁判所へ行き、裁判官へ自分の身の潔白とか、あるいは全部認めるとか、そういう話をします。

そしてその日のうちに、検察官が拘留延長を請求するとほぼ確実に裁判所から許可がおり、被疑者は引き続き留置場に滞在となります。

その後のお話は、私としては関わったことがないのではっきりとは言えませんが、起訴をされた場合、基本的に裁判になります。略式裁判なのか、法廷での裁判になるのかは犯罪レベルによりますが、そうなると「無罪」は99パーセントありません。その後、どのくらい留置場にいるのか、拘置所へ移送されて拘置所で過ごすことになるのか、それは検察官が決めます。(留置場に何ヶ月もいる場合もありますし、すぐに拘置所へ行って裁判を待つということもあります。また、もちろん保釈を請求して外へ出ることもありますが、それはなかなかハードルが高くなります。特に外国人の場合保釈金を用意することが難しいのと、保釈金を借りることができる保釈金協会が、保証人をどうするのか、あるいは限度額が200万円なのでそれを認めるかどうかにもよります)

個人的な思いですが、中南米の人は、国にもよりますが、比較的犯罪に対して楽観視している面があります。しかし、強盗や強姦のように、「強」がつく犯罪は確実に実刑になりますし、殺人事件がほとんどない日本で将来安心して暮らしてくことはできないわけで、それは普段から外国人に接している周りの日本人が、そんなふうに追い込まないようきちんと接してあげることが大切なのだと思います。

それが犯罪抑止になるからです。