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「世界はジャズを求めてる」2021年3月第2週(3月11日)放送分スクリプト(出演 池上信次) #鎌倉FM

※文中曲名/アルバム名に下線のあるものはSpotifyのプレイリストにリンクしています(Spotifyの扱いがないものはリンクしていません)。

M1 番組テーマ曲:What the World Needs Now Is Love/Stan Getz

「世界はジャズを求めてる」

こんにちは。「世界はジャズを求めてる」。この番組は、週替わりのパーソナリティがJazzを中心としたさまざまな音楽とおしゃべりを送りします。毎月第2週の担当は、ジャズ書籍編集者のワタクシ池上信次です。ワタクシの回は「20世紀ジャズ再発見」とタイトルをつけていまして、毎回テーマを決めて特集を組んでお送りします。

今回の放送は、先月、2月9日に亡くなった、ピアニスト、キーボード・プレイヤーのチック・コリアを特集します。まず最初に、チック・コリアの代表曲「スペイン」を聴いて、追悼したいと思います。

M2 Spain/Chick Corea & Return To Forever

チック・コリア&リターン・トゥ・フォーエヴァーの「スペイン」でした。この曲は1973年に『ライト・アズ・ア・フェザー』というアルバムで発表されましたが、チックはその後何度も再演しており、またたいへん多くのジャズ・ミュージシャンに取り上げられ、現在ではジャズ・スタンダードとなっています。「スペイン」は、最初に発表されたときからたいへん人気があった曲で、ジャズのインストではめずらしく、アルバムからシングル・カットもされていました。で、今お聴きいただいたのは、いまだCD化はされていない、そのシングル・レコードのヴァージョンでした。アルバムよりかなり短く編集されています。(リンク先はアルバム・ヴァージョン)

チック・コリアは1941年、アメリカ、マサチューセッツ州のチェルシーで生まれました。ボストンの隣の市です。60年代半ばにトランペットのブルー・ミッチェルやフルートのハービー・マンのグループでなどで活動を始め、1968年にマイルス・デイヴィスのグループに、ハービー・ハンコックの後任で参加し、大きな注目を集めます。

そして1970年にマイルスのグループを離れてひとり立ちするのですが、このころはサックスのアンソニー・ブラクストンらと「サークル」というグループを結成するなど、いわゆるフリー・ジャズのかなり過激な演奏もしていました。そしてチックは、1972年にアルバム『リターン・トゥ・フォーエヴァー』を発表します。メンバーはチック・コリアのエレクトリック・ピアノ、ジョー・ファレルのフルートとサックス、スタンリー・クラークのベース、アイアート・モレイラのドラムス、そしてヴォーカルのフローラ・プリムです。

この、カモメのジャケットで知られるアルバム『リターン・トゥ・フォーエヴァー』は、いわゆるフュージョンのさきがけとなった新感覚のジャズといえるものですが、難解なフリー・ジャズから、広い聴衆にアピールするポップな音楽へ、チックは突然方向転換したのでした。さらにこれは、チック個人のみならず、ジャズ界全体を方向転換させるほどの画期的な「新しさ」をもった作品となりました。

今日はこの、チックの代表アルバム『リターン・トゥ・フォーエヴァー』を、ちょっと違う聴き方で聴いてみようと思います。このアルバムには全部で5曲が収録されていて、それらは全部チックのオリジナル曲なのですが、じつはこの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』が録音された前後に、チックは自分が参加したさまざまなアルバムでこの5曲全部を録音していました。当時これらの曲はチックの、そうとうなお気に入りだったわけですね。

そこで今日は、『リターン・トゥ・フォーエヴァー』の楽曲を、全曲チック本人が演奏に参加した別ヴァージョンで紹介したいと思います。まあ「裏」リターン・トゥ・フォーエヴァーという趣向です。では、オリジナル・アルバムの曲順でいきます。まず最初にアルバムのタイトル曲であり、のちにバンド名となった「リターン・トゥ・フォーエヴァー」をお聴きください。メンバーは曲のあとに紹介します。

M2 Return To Forever/Airto Moreira

「リターン・トゥ・フォーエヴァー」でした。このヴァージョンは、アイアート・モレイラのリーダー・アルバム『フリー』に収録されている演奏です。メンバーはなんとリターン・トゥ・フォーエヴァーの全員とベースのロン・カーター、つまりベースがふたりいて、そこにブラス・セクションが加わっているという、増強版リターン・トゥ・フォーエヴァーなのですが、雰囲気はそっくりで、まさに別ヴァージョンですね。オリジナルが1972年の2月に録音されたすぐあと、4月から5月にかけて録音されていますので、おそらく発売もかなり近い時期だったと思われます。なかなか面白い状況になっていたわけですね。

次は「クリスタル・サイレンス」、そして「ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ」を2曲続けてお聴きください。

M3 Crystal Silence/Stan Getz

M4 What Game Shall We Play Today/Chick Corea & Gary Burton

「クリスタル・サイレンス」と「ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ」でした。

「クリスタル・サイレンス」は、チックのエレクトリック・ピアノとスタン・ゲッツのテナー・サックスとのデュオです。録音は72年の3月3日。『リターン・トゥ・フォーエヴァー』のちょうど1か月後です。収録アルバムはスタン・ゲッツの『キャプテン・マーヴェル』で、CD化の際に追加された当時の未発表曲です。この曲はサックスとのデュオで演奏するための曲とういうことだったんでしょうか、チックのアルバムでは、ジョー・ファレルのソプラノ・サックスとのデュオでした。

「ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ」は、のちに何枚も一緒にアルバムを作ることになるヴァイブラフォンのゲイリー・バートンとのデュオです。収録されているアルバムのタイトルは『クリスタル・サイレンス』。ややこしいですが、ここには「クリスタル・サイレンス」も収録されているのです。録音は72年の11月。チックは、気に入った曲はいろんなところで演奏しているのです。

『リターン・トゥ・フォーエヴァー』のレコードでいうと、次の曲からB面になります。B面は「サムタイム・アゴー」と「ラ・フィエスタ」の2曲がメドレーで演奏されています。別ヴァージョンも2曲連続で聴いてください。チック・コリアのソロ・ピアノで「サムタイム・アゴー」、そしてエルヴィン・ジョーンズの「ラ・フィエスタ」です。

M5 Sometime Ago/Chick Corea

M6 La Fiesta/Elvin Jones

チックのソロ・ピアノによる「サムタイム・アゴー」は、アルバム『チック・コリア・ソロvol.1』に収録されている演奏で、『リターン・トゥ・フォーエヴァー』のなんと10か月前の71年4月の録音です。そして「ラ・フィエスタ」も3か月前の71年12月なのでした。つまり、『リターン・トゥ・フォーエヴァー』のB面は2曲とも「再演」だったんですね。

「ラ・フィエスタ」のメンバーは、リーダーがドラムスのエルヴィン・ジョーンズ、ピアノはチック・コリア、ソプラノ・サックスのソロがリターン・トゥ・フォーエヴァーのジョー・ファレル、ベースはジーン・パーラ、パーカッションがドン・アライアス、そしてバックのサックスがデイヴ・リーブマン、スティーヴ・グロスマン、ペッパー・アダムスという重量級メンバーが勢揃いしています。

というわけで、ここまで、チック・コリアの代表作『リターン・トゥ・フォーエヴァー』の楽曲全曲を、チック・コリア自身が同時期に演奏した別ヴァージョンで聴いてきました。メンバーが違っても、編成が違っても印象に大きな違いがないというのは、本人が演奏に参加しているからとはいえ、楽曲がたいへん個性的だからともいえるのではないでしょうか。

アルバム『リターン・トゥ・フォーエヴァー』は、さきほど紹介したように、レコード、CDには5曲が収録されているのですが、じつはもう1曲レコーディングされていました。その曲とは「キャプテン・マーヴェル」。『リターン・トゥ・フォーエヴァー』の次のアルバム『ライト・アズ・ア・フェザー』で、同じメンバーでの演奏が収録されていますが、2枚目でレコード会社が変わったので(ECM→Polydor)、あれは同じメンバーで新たに録音したヴァージョンなんです。最初の「キャプテン・マーヴェル」はおそらく時間的にLPに収まりきらなかったため、未収録になったのだと思われます。 

また、チックは同じ72年にスタン・ゲッツのアルバム、先ほど紹介した「クリスタル・サイレンス」が収録されている、『キャプテン・マーヴェル』でもこの曲を演奏しています。チックはよほど気に入った曲だったにもかかわらず、最初のアルバムには残念ながら入れることができなかったということなのでしょう。

次は、そのオリジナル『RTF』による、アルバム未収録ヴァージョンの「キャプテン・マーヴェル」を聴いてください。この音源は、1973年に日本だけでリリースされたECMレコードのオムニバスLP『ECMスペシャル』に収録されたもので、いまだCD化も配信もされていないものです。 

M7 Captain Marvel/Chick Corea & Return To Forever

アルバム『リターン・トゥ・フォーエヴァー』未収録ヴァージョンの「キャプテン・マーヴェル」でした。メンバーはチック・コリアのエレクトリック・ピアノ、ジョー・ファレルのフルート、スタンリー・クラークのベース、アイアート・モレイラのドラムスでした。グループにはこのほかに、ヴォーカルのフローラ・プリムがいます。

さて、今回は『リターン・トゥ・フォーエヴァー』収録曲の別ヴァージョンを聴いてきましたが、今回の曲は全部チック・コリアの作曲によるものです。チック・コリアという人は、ジャズ・プレイヤーとしての力量はもちろんですが、素晴らしいメロディ・メーカーであるということを、あらためて感じますね。

では最後は、『リターン・トゥ・フォーエヴァー』の2枚目のアルバム『ライト・アズ・ア・フェザー』の、これまた当時未発表で、 かつそれ以前の曲の再演というトラックを聴いてください。録音から25年後の1998年に、CDのボーナス・トラックで初発表になりました。曲名は「マトリックス」。これは1968年発表の、チックの出世作『ナウ・ヒー・シングス、ナウ・ヒー・ソブス』で発表された楽曲です。

M8 Matrix/Chick Corea & Return To Forever

「世界はジャズを求めてる」本日の選曲・解説はジャズ書籍編集者の池上信次でした。ではまた。

(世界はジャズを求めてる」は、アプリやウェブサイトを使って世界のどこでも聞けます。毎週木曜午後8時から1時間、再放送は毎週日曜お昼の12時から1時間です。)


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