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恥ずかしくて、恥ずかしくて

「この前歩いてたらさ」

「うん」

「ほんとに何でもないところでバターンって転んじゃって」

「あらま」

「それがスーパーの前でさ、人がいっぱいいたから、俺もう恥ずかしくて恥ずかしくて」

「あるよなぁ、そういうことって」

「みんながクスクス笑ってる気がして、本当はそのスーパーに買い物に行ってたんだけど、中に入らずに帰ってきちゃったよ」

「でもさ、冷静に考えれば、周りの人ってそれほど、気にしてないよな」

「うん? どういうこと?」

「次の瞬間にはもう他のことを考えてるってこと。例えば、お前が、誰かが転んだのを見かけるとするじゃん」

「うん」

「そしたら、大丈夫かな? とは思うけど、あいつ転んでやがるダッセェ、とは思わないだろ?」

「……確かに、小学生じゃあるまいし」

「な? それに『あ、転んだ』って思って、『大丈夫かな?』って思って、『あ、大丈夫そうだな』って思ったら、もう次の瞬間には他のこと考えるだろ? 牛乳なくなりそうだから買っとかなきゃ、とか、卵はまだ残ってたっけ、とか」

「まぁ、確かに」

「ほかにも、ほらっ。駅の改札でお金足りなくて引っかかっちゃう人っているじゃん。あれって本人は結構恥ずかしいんだけど、周りの人は、あぁ引っかかった邪魔だなぁ、くらいには思うかもだけど、次の瞬間には『会社行きたくねぇなぁ』とか『今日の昼メシ何にしようかなぁ』とか自分のことで頭がいっぱいになるだろ」

「そういや、そうだな。そんなに恥ずかしがることもないよなぁ」

「そうそう、ただ、まぁ……」

「なんだよ」

「俺がお前が転んでるとこ見かけたら、腹抱えて笑うと思うけどな」

「おい」

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