やーせ問(多発性骨髄腫) 2024/1/9追記

⓪はじめに

2019年に作成したものです。この当時は114回医師国家試験が最新でした。以降追記をちょくちょく行なっています。

①国試的には

多発性骨髄腫をQBで検索かけたところ、以下に示すようにほぼ毎年出てますね。

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正答率を見ても多くが90%以上のため、簡単な問題は差がつかなくなってます。

追記
115A60、116F58で出題ありました

②基礎知識

☆疾患概念
・形質細胞がモノクローナルに増殖し、様々な全身症状を示す病態

cf.下図に示すように、形質細胞がモノクローナルに増えただけの状態がMGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)、さらに形質細胞が増殖した状態がくすぶり型骨髄腫、全身症状(CRAB,後述)やバイオマーカー陽性(詳細は後述)のものを(症候性)多発性骨髄腫といいます。治療適応は多発性骨髄腫になってからですね。
ちなみにMGUSについてはMGRSという類似概念も近年出てるので、興味があれば調べてみてください。

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☆症状
・国試的にはCRABが重要。
C:calcium↑ 高Ca血症
R:renal 腎障害
A:anemia 貧血
B:bone 骨病変(病的骨折、骨傷)
・他にも、液性免疫低下による易感染性、M蛋白の沈着によるアミロイドーシス、血小板↓(骨髄での造血↓)、過粘稠度症候群(2量体を形成するIgA型で多い)、赤沈亢進や赤血球連銭形成(M蛋白を介して赤血球同士が近づく)も重要。
・初発症状としては腰痛や骨折、全身倦怠感(貧血症状)や腎機能低下が多く、高齢者に好発することから骨粗鬆症やネフローゼなどと誤診されうるため注意が必要です。
・40歳未満の発症は稀です。一方で40歳以上で溶骨性病変を認めた場合は疑う必要ありです(シンチで異常を認めることは少ないです)。

多発性骨髄腫の治療は全身化学療法ですが、その開始基準は症候性多発性骨髄腫であるかです。症候性の基準についてはガイドライン

に書かれているように、下記の項目を1つでも満たす場合です。要は臓器病変CRABを認めるか、バイオマーカーが引っかかるかです。

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≪注≫Myeloma–defining biomarkersが存在する場合は2年以内に80%でCRABが出現すると言われています。

☆検査
・下図参照(ガイドラインより抜粋)
・スクリーニングとして血清と尿の蛋白電気泳動でM蛋白の検出を行います。
・確定診断に骨髄生検、臓器障害の有無の確認のために骨や腎機能評価などを調べます。
・表面抗原はCD19が陰性になりやすい(通常の形質細胞は陽性)
・CTやMRIで溶骨性変化を探す。

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☆病期分類
・ISS(international staging system)
血中アルブミン低値、血中 β2ミクログロブリン高値は予後不良とする
・R-ISS(revised ISS)
⇨ISSに加え、高リスク染色体異常(  t(4;14)、t(14;16)、del(17p)  )の有無、LD上昇の有無で評価しstagingします。

cf.β2MGについて
β2MGの正体はHLA  classⅠのL鎖であり、赤血球以外の全ての有核細胞に含まれます。その中でも特にリンパ球に多く発現しています。血中のβ2MGは腎糸球体で濾過され、近位尿細管でほとんどが再吸収、分解されます。ゆえに
・赤血球以外の細胞、特にリンパ球が多く破壊される⇨血中β2MG↑
例)多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、リンパ球↑の感染症(伝単など様々)
糸球体が壊される⇨濾過されない⇨血中β2MG↑
例)糖尿病性腎症(95H28でβ2MGについて出題あり)
近位尿細管障害⇨再吸収できない⇨尿中β2MG↑
例)カドミウム中毒、急性尿細管壊死など
≪注≫再吸収のキャパにも限界があるため、近位尿細管機能が正常でも血中β2MGが高度上昇すると尿中β2MGも上昇します

☆治療
自家造血幹細胞移植がメイン。適応は65歳以下を覚えておけばいいかと(他にも心肺機能や合併症の有無も評価項目にあり)。70歳未満でも臓器機能良好なら行うこともあります。
・薬物療法は複雑だが、国試的にはボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)とレナリドミド(サリドマイド誘導体)とデキサメサゾンを覚えてておけばOK それぞれの頭文字をとってVRd療法と言います。これらは初発から使います。
・有害事象として、ボルテゾミブは末梢神経障害をきたしうります。ボルテゾミブは投与経路を皮下注射にすることで末梢神経障害の頻度が下がっているため投与経路も重要です。また、帯状疱疹のリスクが上がるためアシクロビルの予防投与が行われます。レナリドミドは血栓症のリスクを上げるためアスピリン(+PPI)の予防内服が必要です。
・他にも様々な分子標的薬があるが、抗CD38抗体のダラツムマブも初発から使えるようになったため覚えておいてもいいかもしれません。
・高カルシウム血症に対して補液+ループ利尿薬(サイアザイドはCa↑だから禁)、ビスホスホネートを使います。進行例では血漿交換も行います。
・骨病変の支持療法としてビスホスホネートやデノスマブ(RANKL中和抗体)を用います。ただしいずれも顎骨壊死のリスクのため歯科処置を前もって終わらせます。
・骨病変の疼痛に対してはアセトアミノフェンやオピオイドを用いる(NSAIDは腎障害が進行するため禁)
・放射線療法(緩和照射)について115A60で出ています。圧迫骨折や脊髄圧迫症状などを伴う場合に局所放射線療法や外科療法が選択されることが多いです。半身照射は骨髄抑制、全身状態悪化の観点から選択されることは稀です。

≪注≫ビスホスホネートは近年出題が多いため別にまとめました

≪注≫同種造血幹細胞移植は移植関連死亡率が高く、再発も多く、進行期の成績が悪いため一般的には行われません。ガイドライン上では40歳未満かつHLA一致ドナーありの場合に考慮可能となっています。国試的に出たら(意地悪な問題ですが)誤り選択肢としていいでしょう。

③やーせ問解説


第1問

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正解は「血中アルブミン濃度」です。β2MGは尿中ではなく血中です。そもそもβ2MGはリンパ球(形質細胞含)に多く発現していて、その細胞が増殖しているために血中で高値となるわけですから血中濃度が妥当でしょう。わざわざ腎機能に影響される尿中の値は使えません(そもそも多発性骨髄腫では腎機能低下ですし)。血小板数やCa濃度は多発性骨髄腫ではそれぞれ低下、増加しますが、他の病態でも大いに変わりうる値ですからこれらも使えませんね。

第2問

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正解はLDです。これが高いということは骨髄腫細胞の増殖能が高いことを示唆しています。他にも染色体異常(内容までは不要でしょう)があることが大事です。

第3問

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正解はアザシチジンです。他の選択肢は初発でも使える多発性骨髄腫の治療薬です。アザシチジンは移植適応外の高リスクの骨髄異形成症候群(MDS)に使われるDNAメチル化阻害剤です。

第4問

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正解はCD38です。これをターゲットとしたのが第3問のダラツムマブです。CD4はヘルパーT細胞、CD8は細胞傷害性T細胞で陽性となることは有名です。CD18は食細胞に発現しているインテグリン(正確にはβ2インテグリン)です。これが欠損すると好中球の遊走が出来ないleukocyte adhesion deficiency (LAD)という、遺伝形式ARの疾患となります。

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