医師国家試験お薬対策:ヘパリン(2021/11/15追記)

①医師国家試験で理解すべきこと


医師国家試験で出題済みの内容は、
(ア)適応
(イ)妊婦に使えるという点 
(ウ)検査所見への影響
(エ)血ガス測定で用いる
(オ)拮抗薬がプロタミンであること  です。

①–(ア)適応

国試では肺血栓塞栓症(PE)深部静脈血栓(DVT)の急性期急性冠症候群(ACS)の急性期抗リン脂質抗体症候群(APS)の流産予防が出題済み。他にもカテーテル検査の血栓予防DICで用います。

98A17 68歳女性の肺血栓塞栓症(PE)の症例。この患者の治療に用いるのはどれか.
a 抗菌薬
b ヘパリン
c キサンチン系薬
d 吸入β受容体刺激薬
e 副腎皮質ステロイド薬

正解はb 肺血栓塞栓症の急性期には酸素投与や循環動態の改善と共に、ヘパリン(場合によってはDOACも可)とワルファリンを併用します。禁忌が多いですが、場合によってはt -PAも。

107I41 31歳の3回経妊0回経産婦.妊娠8週.左下肢の疼痛、腫脹を主訴に来院。左腓腹部に把握痛あり。妊娠悪阻あり。下肢静脈超音波カラードプラ法で,左大腿静脈に血流信号を認めない.入院後輸液を開始した.
治療薬として適切なのはどれか.
a アスピリン
b ウロキナーゼ
c ヘパリン
d 硫酸マグネシウム
e ワルファリン

正解はc 大腿静脈の血流信号欠損からDVTを考えます。妊娠悪阻はDVTのリスクです。また、本症例ではG3P0ということからAPSの背景があるかもですね。いずれにせよ、治療はヘパリンです。eのワルファリンは妊婦に禁忌となるため誤りです。bのウロキナーゼは出血リスクも高く、DVTに対して保険適応となっていませんし、ガイドライン上でも「推奨しない」と書かれています。

109I79 亜急性の心筋梗塞の治療として適切なのはどれか.3つ選べ.
a 硝酸薬投与
b 冠動脈バイパス術
c ヘパリンの持続静注
d 経皮的心肺補助〈PCPS〉の実施
e t-PA〈tissue plasminogen activator〉の静脈内投与

正解はabc 硝酸薬で冠動脈を拡張させ、ヘパリンで血栓を予防し、バイパス術で根治させます。超急性期でないためeは誤りです。t-PAは発症6時間以内ルールを覚えておきましょう(脳梗塞なら4.5時間以内)。
同じ年にほぼ同じ問題が出ています(↓)

109E68(3連問の最後)  ACSに対してまず考慮すべき初期治療として適切なのはどれか。3つ選べ。
a ヘパリン
b 冠拡張薬
c ジギタリス
d 抗血小板薬
e アドレナリン

正解はabd

115D30:32 歳の女性。流産を繰り返すことを主訴に来院した。これまでに3回妊娠したが、 いずれも胎児心拍確認後、妊娠 12 週、21 週、17 週で心拍が消失し流産した。3 年前に左下肢血栓症で治療を受けた。子宮と卵巣とに異常を認めない。甲状腺ホル モンと下垂体ホルモンとに異常を認めない。月経周期は 28 日、基礎体温は 2 相性、 高温相は 14 日間である。血液検査では、APTT 52.0 秒(基準対照 32.2)、抗リン脂質抗体陽性。夫婦の末梢血染色体は正常核型。
次回妊娠中に投与する薬として適切なのはどれか。
a ヘパリン
b ビタミン D
c ビタミン K
d エストロゲン
e 黄体ホルモン

抗リン脂質抗体症候群(APS)の流産予防にヘパリンを用います。

①–(イ):妊婦に使用可能

108G10  母体から胎児へ移行しやすいのはどれか.
a ヘパリン
b インスリン
c アルブミン
d ワルファリン
e プレドニゾロン

正解はd ワルファリンは妊婦に禁忌です。ヘパリンは胎児への移行性がないため安全です。(93B6、95A44ではこれを選ぶ問題あり)

①–(ウ):検査値への影響

87A58 ヘパリン投与により影響を受ける検査はどれか.3つ選べ.
a 出血時間
b 毛細血管抵抗
c トロンビン時間
d プロトロンビン時間
e 活性化部分トロンボプラスチン時間

正解はcde ヘパリンは凝固カスケードの最後の方(共通系)を阻害(機序は後述します)するため、PT、APTTは共に延長します。トロンビン時間は血漿にトロンビンを加えてからフィブリンが析出するまでの時間で、凝固が阻害されるため延長します。出血時間は1次止血の問題なので無関係、血管収縮に直接影響しないため毛細血管抵抗は不変です。

①–(エ):血ガス測定で用いる

101B86 血液検査項目と抗凝固薬の組合せで正しいのはどれか.2つ選べ.
a 赤沈 - ワルファリン
b 血小板 - EDTA
c プロトロンビン時間 - ヘパリン
d 血糖 - フッ化ナトリウム加EDTA
e 動脈血ガス分析 - クエン酸ナトリウム

正解はbd  acはクエン酸Na、eはヘパリンを用いる。

☆添加剤として覚えておくもの
・凝固=クエン酸Na
・血糖=フッ化ナトリウム(解糖系を抑制)やEDTA(Caのキレート剤)
・血算=EDTA
≪注≫EDTAに起因する血小板凝集によって、機械で測定する際に血小板数が少なくなることがある(偽性血小板減少症)。血小板数が低い時は顕微鏡でチェックして、本当に血小板が少ないのか、それとも血小板凝集があるのかを確認すること。
・血ガス=ヘパリン(EDTAやクエン酸NaではpHが変わるため不適)
104B37  輸血用赤血球製剤に使われている抗凝固薬はどれか.
a t-PA
b ワルファリン
c ヘパリンナトリウム
d クエン酸ナトリウム
e エチレンジアミン四酢酸〈EDTA〉

正解はd 輸液のために集めた赤血球が凝固してしまうと問題なので、クエン酸Naで凝固を阻止します。血液保存液は、クエン酸(citrate)、リン酸2水素Na(phosphate)、デキストロース(D -グルコースのこと)(dextrose)の3つが入っていることから、それぞれの頭文字をとってCPD液と言います。

①–(オ)拮抗薬はプロタミン

過去問では111回や103回に出てますが、名前を知っていればいいだけです。

111I26 薬物とその拮抗薬との組合せで正しいのはどれか.2つ選べ.
a アセトアミノフェン - アセチルシステイン
b バルビツール酸 - フルマゼニル
c ワルファリン - ヒドロキソコバラミン
d フェンタニル - エタノール
e ヘパリン - プロタミン

正解はae aはアセトアミノフェンの記事で書いたため省略します。

 ヘパリンは半減期が短い(40分ほど)ため、ヘパリン中止だけでよい(プロタミンは使わない)という手も場合によっては有効です。

 プロタミンはインスリン製剤の添加剤として入っています。インスリンを結晶化させて緩徐に作用するようにしています。これが入っている中間型、混合型は注射前に攪拌が必要です。

②ヘパリンの機序

画像1

拮抗薬のプロタミンはヘパリンと複合体を形成して、この作用を阻害します。
上図を考えるとPT、APTTはいずれも延長しますが、モニタリングではAPTTを用います。また、後述のHITの早期発見のために血小板数もモニタリングが推奨されています。
≪注≫APTTは基準値の1.5〜2.5倍になるようコントロールします。

 ヘパリンを大量に投与する際にはAPTTの信頼性が低くなるため、代わりに活性化凝固時間(ACT)でモニタリングします。

≪注≫一方、ワルファリンのモニタリングではPTを用います。

③未分画ヘパリンと低分子ヘパリン

未分画ヘパリンはヘパリンナトリウムやヘパリンカルシウムといった、いわゆる「ヘパリン」です。一方、未分画ヘパリンに対し、これを分画して糖鎖の短いもののみを抽出して作った低分子ヘパリンというものがあります。重要な点は以下

☆低分子ヘパリンの特徴:
・半減期が長い(4〜5時間) 未分画は40分ほど。
・トロンビンの阻害作用が低い(Ⅹaへの作用がメイン)
・APTTの延長は見られない(作用が弱いため)。
・副作用の頻度は少ないためモニタリングの必要はない。
・腎機能高度低下では使えない

④ヘパリン起因性血小板減少症(HIT=Heparin-induced thrombocytopenia)

ヘパリン投与中の血小板減少で、Ⅰ型とⅡ型に分けられる。臨床上問題となるのはⅡ型である。

・HIT Ⅰ型
ヘパリン投与後2〜3日後に見られる一過性の血小板減少。一過性であるため自然と血小板数は回復する。

・HIT Ⅱ型
ヘパリン投与後5〜14日後に起こる血小板減少+血栓傾向で、ヘパリンに対する抗体(HIT抗体)が原因となる。具体的には

・ヘパリンがPF4(platelet factor 4)と複合体を形成
・この複合体に対する抗体(HIT抗体)が出現
・抗体が結合したヘパリン–PF4複合体は
A)脾臓で壊される⇨血小板減少
B)HIT抗体を介して凝集⇨血栓傾向
C)HIT抗体の作用で凝固因子活性化⇨血栓傾向

という機序。血小板減少はそこまで深刻ではないことが多い(減っても5万ほど)。対応は、ヘパリンを中止(ワルファリン以外の他の抗凝固薬に切り替え)し、アルガトロバン(選択的トロンビン阻害薬)を投与する。早期発見のために血小板数をモニタリングすることが重要である。
HIT抗体は一過性に出現するもので、3ヶ月ほどで消失します。そのためHIT既往でもHIT抗体消失が考えられる場合ではヘパリン再投与も選択肢としては残せます。


参考:autoimmune HIT(aHIT)
ヘパリン投与歴なしでHIT抗体があるケースが報告されています。通常のHITと異なり症状は長期間持続し、DICに至るケースもあります。


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