輸液まとめ①:水とNaの生理学
個人用まとめのため雑な表記も多いです。今後ちょくちょく加筆、修正予定です。記載の誤りや誤字等ありましたら連絡いただけると幸いです。
①:腎臓の解剖と尿細管
解剖
糸球体で濾過されて尿細管に濾し出された物質を原尿といいます。
原尿は尿細管や集合管で再吸収(尿細管から血液中への移動)と分泌(血液中から尿細管への移動)され、膀胱へと運ばれます。
画像は医師国家試験111I9より
①:糸球体
②:近位尿細管
③:ヘンレループ(上行脚)
④:遠位尿細管
⑤:集合管
です。
尿の生成
量は以下の通り。腎臓には心拍出(5L/分)の20%に相当する1L/分の血液が流入します。そのうち血漿(血球以外の成分)は500mLであり、その中の20%が糸球体で濾過されます。濾過されてできた原尿は99%が再吸収され、膀胱に達するのは1%にあたる1mL/分です。
尿細管機能
尿細管の機能は大まかに以下の通りです(各部は最初の図を参照)
・近位尿細管
Naと水の再吸収(アンジオテンシンⅡで亢進、多発性骨髄腫で低下)
糖の再吸収(SGLT2が担う)👈SGLT2を阻害すると尿中に糖を捨て血糖値↓
他にもアミノ酸やリンなども再吸収します。
・Henleループ
下行脚と上行脚に分けられ、上行脚は細い上行脚、太い上行脚に分けられます。細い部分は微絨毛構造がなく、ミトコンドリアも少ないためイオンチャネルの発現が少ないことが特徴です。
下行脚にはアクアポリン1(AQP1)が発現し、水の再吸収を行ない原尿の濃縮が行われます。
細い上行脚ではAQP1は発現せず、Clのチャネルが発現します。
太い上行脚にはNa-K-2Cl共輸送体によってNaとKの再吸収が行われ、KチャネルによりKの分泌が行われます。前者はループ利尿薬のターゲットとして重要です。後者は尿細管内に陽イオンが排泄されることで、CaとMgの再吸収を促します。
・遠位尿細管
Na、Clの再吸収や、パラトルモン(PTH)の作用でCaの再吸収が行われます。
・集合管
主細胞:アルドステロンの作用でNaの再吸収とKの分泌を行います。またADHの作用で水の再吸収が亢進されます。
間在細胞:アルドステロンの作用でH+の分泌が行われます。
≪注≫遠位尿細管は近位半分をearly distal tubuleといい、遠位半分をlate distal tubuleと言います。上記の説明やサイアザイドの作用点はearlyの説明です。late distal tubuleは皮質集合管と同様の役割となっています。
国試の100G44で、遠位尿細管の機能に「Kの分泌」を選ぶ問題がありますが、正しくはlate distal tubuleの作用として問われています。
②:浸透圧と張度
浸透圧(osmolality)と張度(tonicity)
・溶液中の全溶質濃度を反映したものが浸透圧です。体液量を一定とすると、それは物質量(mol)を反映していると言えます。
・細胞内液に比べて張度が高い溶液を高浸透圧液(hyperosmotic)、低い溶液を低張液(hypoosmotic)、等しい溶液を等張液(isosmotic)といいます。
・一方で、溶液中の有効浸透圧物質(effective molecule)、つまり細胞内外を自由に行き来できない物質の濃度を反映しているものが張度(tonicity)です。
・細胞内液に比べて張度が高い溶液を高張液(hypertonic)、低い溶液を低張液(hypotonic)、等しい溶液を等張液(isotonic)といいます。
・ここでは細胞膜を自由に通過するか否かという点を考えていきます。例えばNaは細胞膜を自由に通過しない有効浸透圧物質ですが、尿素は細胞膜を自由に通過します。ゆえに、Na濃度は細胞内外で差が生じるため水の移動に関与し、尿素は細胞内外の濃度差がないため水の移動に関与しません。
ゆえに生体内の水の恒常性維持のためには「血漿浸透圧」ではなく「血漿張度」を一定にする仕組みが重要となります。
血漿浸透圧と張度の推定式
血漿浸透圧の推定式は
が有名です。Kを入れて2(Na+K)とすることもあります。
単位はNa、KはmEq/L BS(ブドウ糖)とBUNはmg/dL です。
各々の係数の意味ですが
2⇨Na(とK)と同量の陰イオンが存在するため、Naの量を2倍すれば陽イオン+陰イオンと類似できる(KやCaなどの他の陽イオンは量が少ないため省略する)
18⇨グルコース(C6H12O6)の分子量が180のため。BSの単位がmg/dLのため単位調節して18です。
2.8⇨尿素窒素は尿素(CH4N2O,分子量60)のうちに含まれる窒素(分子量28)です。
前述の通り尿素は張度に影響しないため
です。血糖値は高々100前後ですから、張度を規定するのはほぼNaであるといえます。
③:水とNaのInとOut
水のIn/Outについて
です。
・このうち大きな割合を占めるのが飲水と尿で、これらによって体内の水の量はコントロールされます。
例)真夏に多汗、食中毒で下痢⇨飲水を増やして尿量を減らす
・便中の水分は約100mL/dayです。
・不感蒸泄は600〜900mL/dayほど(15mL/kg/day)。
・人工呼吸器をつけている場合は呼気からの水分喪失が少ないため、不感蒸泄は600mLほどです。
・NaのIn/Outは60〜120mEq/dayほどで、Kは30〜50mEqほどです。
⇨これは3号液1.5Lで補充できます(詳細は②)
In/Outの調節はどのように行われるか
・受容体
第3脳室前壁にある終板脈管器官(OVLT=organum vasculosum lamina terminalis)が浸透圧の変化を感知します。この変化によって口渇の自覚や後述するADHの分泌などが起こります。
また、咽頭や消化管にも浸透圧受容体は存在し、食事中の高/低塩分に対応して浸透圧調節を行います。
・バソプレシン(vasopressin,ADH)
バソプレシンは視床下部の室傍核と視索上核(supraoptic and paraventricular nuclei)で合成され、下垂体後葉から分泌されます。V1、V2、V3の受容体が知られています。
V1受容体は血管平滑筋の収縮を担っています。(vaso=血管 pressin=押す)
V2受容体は尿細管に発現し、アクアポリン2(AQP2)を尿細管管腔側にtranslocationさせ、水の再吸収を増やすことに関与します。
また、V2受容体は血管内皮細胞にも発現し、刺激によってvon Wilebrand factorや第Ⅷ因子の分泌を増やします。ゆえにV2受容体作動薬のデスモプレシンは、中枢性尿崩症だけではなくvWDや血友病Aでも有用とされます。
V3受容体は下垂体に発現し、刺激によってACTH分泌を亢進させます。
まとめると、
となります。
また、体液量も感知され調節されます。代表的なものがレニンアンジオテンシンアルドステロンシステム(RAAS)です。
レニンの分泌刺激は腎血流減少、β1刺激、マクラデンサへの低クロール刺激です。レニン分泌をトリガーとしてアンジオテンジンⅡやアルドステロンが分泌されると、Na再吸収を減らし水を貯留します。
他にも心房の心筋細胞が分泌するANPや、心室で分泌されるBNP(いずれもNa排泄を促すNa利尿ホルモン)なども同様です。
必要な水の量は?いくらまで水を飲んで大丈夫?
さて、腎臓で尿を濃縮する力は正常であれば50〜1200mOsm/Lの範囲です。これより薄く、これより濃くすることは困難です。1日の溶質摂取量はおおよそ
600〜1000 mOsmのため、800と見積もって
800÷50=16 L
800÷1200=0.67L
です。ゆえに16L以上の水を飲むと、溶質摂取量<溶質排泄量 となります。溶質としてNaをメインに考えると、16L 以上の多飲では低Naを起こし得ます。
一方で、どんなに濃くしても0.67L以上の尿(水)を出さないと摂取した溶質を排泄できなくなります。水のOutには汗や不感蒸泄の分が1Lほどあるため、1日1.5Lほどの水分は必要となります。
もちろん腎機能、体の大きさ、汗をどれだけかいたか、何を食べたかなどに影響するため一概には言えません。
海水をがぶ飲みしたらどうなる?
海水をがぶ飲みすると、血管内のNa濃度が増すため水とNaは以下に示すように移動します(図については次の項目で詳しく説明します)。
海水の塩分濃度は3.5%ほどのため、1Lの海水中に35g つまり35×17=585mEqのNaが含まれています。Clを合わせると2倍して1170mEqです。多めに見積もって1200mEqとしましょう。
尿をどんなに濃くして出しても1200mEq/Lしか出せません。また、尿素など他の溶質の排泄が必要です。ゆえにNaClの出納は
In:1200mEq × 飲んだ海水量(L)
Out:(1200- 捨てねばならない尿素など) × 尿量(L)
となります。海水しか飲まなければ海水量=尿量です。
ゆえにNaClは必然的にIn>Out となり、尿量を増やしてNaClをどんどん捨てて脱水になければ体内のNa濃度が増してしまいます。
④:体内の分布
水の分布
下図に示すように、正常な体液区分は細胞内液、間質、血管内に8:3:1の割合となっています。
≪注≫血管内と表記しましたが、リンパ管内のリンパや脳脊髄液を含みます
水は細胞内、間質、血管内を自由に行き来できます。
一方でNaは血管内と間質を自由に行き来しますが、細胞内外ではそうはいきません。Na-K ATPaseというポンプによって細胞内はNa濃度が少なくKが多い状態で、細胞外はNaが多くKが少ない状態に保たれています。
これを具体的な量に変換したものが以下です。
≪注≫水、特に細胞外液は筋に多く脂肪に少ないため、痩せ型か筋肉質か、男性か女性か、小児か成人か高齢者かによって異なります。
≪注≫KはNaの移動に関与します。細胞膜上に発現しているNa-K ATPaseによって、細胞外のKが取り込まれると細胞内から細胞外にNaが出ます。
参考:Watsonの式
TBW(体内総水分量)は
男性:
TBW = 2.447 - (0.09156 × 年齢) + (0.1074 × 身長cm) + (0.3362 × 体重kg)
女性:
TBW = (0.1069 × 身長cm) + (0.2466 × 体重kg) - 2.097
この式からも分かるように、TBWは年齢が低いほど、身長体重が高いほど大きくなります。
電解質の分布
陽イオン:
・Na–K ATPaseによって、細胞内はKが多く、細胞外はNaが多くなるよう維持されています。
・そのため細胞破壊が亢進する病態(横紋筋融解や腫瘍崩壊症候群など)では細胞内のKが放出され、高K血症をきたします。
陰イオン:
・細胞外液は塩化物イオン(Cl –)が多く、細胞内はリン酸水素イオン(HPO4 2–)が多いです。
・そのため、細胞破壊が亢進すると高P血症をきたします。
⑥:Edelmanの式
1958年にEdelmanらがJournal of Clinical Investigationで報告した以下の式があります。
「交換可能」(exchangeable)とは、細胞内液や細胞外液を自由に行き来出来るという意味であり、交換不可能なものは骨に固定されているものが主となります。
ここから、低Na血症は分母が大きい(水が過剰)または分子が小さい(体内の総Naが少ない)、あるいは両者ことに起因すると言えます。つまり
①TBW↑ 例)心因性多飲
②TBW↓だがNaEがさらに↓↓ 例)循環血漿量減少
③TBW↑かつNaE↓ 例)SIADH
④NaE↑だがTBWがさらに↑↑ 例)肝硬変や心不全
が挙げられます。これらについては③の記事で書きます。
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