HIV治療薬概説

⓪HIVの感染と増殖

下図を参照してください。HIVのlife cycleは
①②CD4陽性細胞(T細胞、マクロファージ、樹状細胞)に結合し、侵入
③逆転写酵素によってHIVのRNAをDNA(double strand)に変換
④宿主細胞(CD4陽性細胞)のDNAに、HIVのDNAを取り込む(integration)
⑤ウイルスゲノム、ウイルス蛋白を複製(👈プロテアーゼが必要)
⑥カプシドに囲まれたウイルスが構成
⑦出芽(細胞外へ出る)
となっております。

ここではこれらの過程ごとの治療薬を説明します。

画像2

画像は https://clinicalinfo.hiv.gov/en/glossary/reverse-transcription

①Entry inhibitor

HIVはCD4陽性細胞に感染します。その際に、HIV上の2つの糖蛋白gp120gp41が重要になります。(下図は国立感染症研究所の図)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/400-aids-intro.html
gp120とgp41は、gp160(env遺伝子がコード)がrERとゴルジ装置で分解、糖化(glycosylation、つまり糖鎖付加された)ものです。糖鎖の付加によって免疫系からの認識を免れています。

画像1

また、gp120とgp41は ウイルスが細胞内に侵入する際に重要となります。それぞれの役目は以下の通りです。

gp120:HIV表面にある膜タンパク質。これがCD4とCCR5、CXCR4を認識し結合する。
gp41:ウイルスの、宿主細胞内への侵入に関与する。

流れとしては
・gp120がCD4を認識し結合
・gp120が、ケモカインレセプターのCCR5またはCXCR4を認識し結合
・gp41が構造変化し、CD4陽性細胞内へ侵入する

というものです。そこで…

(ア)CCR5阻害薬(マラビロク maraviroc)
CCR5に結合し、CCR5とgp120との相互作用をブロックし、HIVがCD4陽性細胞に結合できないようにします。

参考:HIVがCD4陽性細胞に結合する際にどの受容体を使うかで以下のように分けられます。
・CCR5を使うHIV(R5ウイルス)。マクロファージやT細胞への感染がメイン。
・CXCR4を使うHIV(X4ウイルス)。T細胞への感染がメイン(マクロファージの感染はほぼない)。
・両方の受容体を使用するHIV(二重指向性HIV)
マラビロクが有効なものはR5ウイルスになります。

(イ)gp41阻害薬(エンフビルチド enfuvirtide)

gp41を阻害することでHIVの侵入を阻害します。
催奇形性があるため妊娠初期には禁忌です。
細菌性肺炎のリスク↑
注射部位に皮膚反応が起こりうります。

②核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI:Nucleoside Analogue Reverse Transcriptase Inhibitor)

細胞内に侵入したHIVは、自身の持つ逆転写酵素によってウイルスRNAからウイルスDNAを作ります。
下図を参照してください。NRTIはヌクレオチド/ヌクレオシド類似体で、逆転写酵素阻害薬の基質(ターゲット)となり、DNA鎖を作る過程をストップさせます(鎖を延長できなくなります)。
具体的には3‘–5’のホスホジエステル結合が核ヌクレオチド間にあるのですが、NRTIは3‘に–OH基を持たないため以降のホスホジエステル結合を繋げられないというものです。
NRTI自体は非活性型ですが、細胞内に入ってリン酸化されることで活性型となります。

画像3

https://www.hiv.uw.edu/go/antiretroviral-therapy/general-information/core-concept/all のfigure12

(ア)アバカビル(abacavir)
HLA-B*57:01を有する人ではアレルギー反応の発症が多い(日本では稀)

参考:日本人患者でアバカビル投与前にHLAを調べるべきか?
https://jaids.jp/pdf/2017/20171901/20171901024028.pdf

(イ)テノホビル(tenofovir)
・HBVの治療にも用いられます。
・ヌクレオチド誘導体(他のNRTIはヌクレオシド誘導体)
近位尿細管障害(薬の蓄積によるミトコンドリア障害が原因と考えられる)が問題となります。
⇨Cr、BUN上昇や尿中に糖や蛋白、リンが流出
⇨組織学的には刷子縁(brush border)消失や巨大ミトコンドリア(好産生の封入体)を認める。
・腎障害は可逆的で、薬剤の中止で回復。
・他にも骨粗鬆症のリスクとなります。
・近年プロドラッグであるテノホビル アラフェナミドが承認。

参考:HIV関連腎症
・HIVが腎臓の上皮に感染することに起因する。
・FSGS(巣状糸球体硬化症)様の腎障害をきたす。(88回の国試に出題あり)

(ウ)ジドブジン(zidovudine)
・母親がHIV感染の場合に、児への垂直感染予防で用います。
HIV妊娠では帝王切開(産道感染予防)+妊婦と児へのジドブジン投与
・に注意が必要です。汎血球減少(⇨貧血など)に注意が必要です。

(エ)その他NRTI
Emtricitabine:ARTにおいて、NRTI2剤を用いる際にEmtricitabine+Tenofovirの組み合わせはよく使われ、合剤があります。

Didanosine:副作用の膵炎と肝炎に注意。

参考:lipodystrophy/lipoatrophy
・四肢や顔、臀部の皮下脂肪消失。
・体幹の脂肪沈着による中心性肥満、buffalo hamp(Cushing症候群様)。
・NRTIやプロテアーゼ阻害薬の副作用で認められる。
・メカニズムは不明だが、インスリン抵抗性や高TG、低HDLの関連が示唆されている。

③非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI:Non-Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitor)

逆転写酵素そのものを不活性化します。NRTIとは異なり、活性型になるためのリン酸化の過程は不要です。
名前の中にvirが入っている(–vir– という形)
肝障害、皮疹(SJSやTEN)に注意が必要です。また悪夢を見ることも。

(ア)ネビラピン(Nevirapine)
(イ)エファビレンツ(Efavirenz)

④インテグラーゼ阻害薬

ウイルスDNAを宿主のDNAに組み込む過程を阻害します。
名前は全て〜tegravirで終わることが特徴的です。

(ア)Dolutegravir
(イ)Raltegravir

副作用:横紋筋融解、CK上昇など

⑤プロテアーゼ阻害薬

HIVの機能蛋白はプロテアーゼによって切断されて活性型となります。この過程を阻害するのがプロテアーゼ阻害薬です。
名前は全て〜navirで終わります。
リファンピン併用で血中濃度が低下する(リファブチンは使える)。
lipodystrophyが起こりうる(NRTIも同様)。
インスリン抵抗性(高血糖)に注意

(ア)Indinavir
・血小板減少、尿路結石に注意。

(イ)Ritonavir
・CYP450のinhibitorである。

(ウ)Darunavir

参考:HIVの遺伝子

・env gene:envelopeを構成する遺伝子。gp160(これは分解されgp120とgp41になる)をコードする。
・gag:ウイルス粒子を構成するタンパク質(カルシド、細胞内基質蛋白)をコード。
・pol:インテグラーゼやプロテアーゼ、逆転写酵素をコードする。この変異によって薬剤耐性を生じる。






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