医師国家試験鼓膜画像総まとめ

オージオグラムはこちら。

鼓膜について

 鼓膜は皮膚由来の上皮、咽頭由来の上皮、その間に結合組織という3層構造の器官です。(それぞれ外胚葉、内胚葉、中胚葉由来)。中耳腔内は通常内胚葉由来の粘膜ですが、異所性に外胚葉由来の組織が発生すると真珠腫を生じることがあります。

 鼓膜は線維軟骨輪を介して側頭骨と結合しています。そのため側頭骨骨折では鼓膜の振動が障害され伝音難聴をきたします。

 鼓膜の中心部は陥凹しており、ここを鼓膜臍といい、ツチ骨柄が繋がっています。ツチ骨柄のうち上側は突出しており、ここを外側突起と言います。外側突起からツチ骨ひだがついています。鼓膜のうち、ツチ骨ひだの上側は細く弛緩部と呼ばれ、ツチ骨ひだの下側は厚く緊張部と呼ばれます。また、耳鏡の光が反射する部分を光錐といいます。

実際の画像と模式図を用意しました。

画像1

画像は115D56より

画像3
画像4

113D5
慢性化膿性中耳炎の手術を目的に来院した患者の右耳の鼓膜写真を次に示す。
視認されないのはどれか。
a ツチ骨
b アブミ骨
c 鼓膜穿孔
d 耳管開口部
e 鼓膜石灰化

画像15

慢性中耳炎であるという点から鼓膜穿孔があること、ツチ骨は正常でも見えるし上の写真でも見えることはわかると思います。石灰化も白い塊があるため分かります。

 中耳腔の解剖は下図のようになっています。鼓膜の後ろにキヌタ骨、アブミ骨があるのに対して、耳管はさらにその下へ伸びています。この位置関係から、アブミ骨か耳管開口部のどちらが見えうるかを考えると、正解はdと推察されます。

画像16


104E18:正常鼓膜の問題

画像5

正しい組み合わせはどれか
a ① - 鼓膜弛緩部
b ② - ツチ骨頭
c ③ - 光錐

正解はcです。①は緊張部、②はツチ骨柄です。

ツチ骨は頭、頸、柄に大きく分かれますが、その位置関係は下図の通りです。ゆえに、正常鼓膜を通じてツチ骨頭を見ることはできません。

画像6

115D56:真珠腫性中耳炎

52歳の女性。左耳の難聴を主訴に来院した。3年前から左難聴を自覚していた がそのままにしていた。それまで耳は良く聴こえていた。半年前からは難聴が増悪し、日常生活に支障が出るようになったので受診した。小児期から現在まで、耳痛、耳漏の自覚はない。5年前からアレルギー性鼻炎の診断で治療中である。以 前から鼻すすり癖を指摘されている。純音聴力検査では中等度の左伝音難聴を認 めた。側頭骨 CTでは左上鼓室および耳小骨周囲に病変を認め、中頭蓋底に骨欠 損を認めた。(以下略)

難聴の増悪を主訴として来院です。アレルギー性鼻炎で鼻すすりが多かったという記載がキーワードです。CTでの「病変」がぼかされていますが真珠腫でしょう。骨破壊も認めています。

☆真珠腫性中耳炎
・先天性と後天性に分けられます。
・先天性は発生異常で、中耳腔内に外胚葉由来の組織が生じるものです。小児で通常見つかります。
・後天性は鼻すすり耳管狭窄が原因でデブリが形成され、感染によって増悪します。
・後述する滲出性中耳炎の遷延化や、鼓膜換気チューブの留置によっても生じ得ます。
・症状:初期は無症状、耳小骨破壊や中耳に滲出液が貯留すると伝音難聴をきたします。内耳に波及すると感音難聴めまい、急性炎症を起こすと耳痛や耳漏を、また、進行すると骨破壊顔面神経麻痺脳膿瘍を起こします。
・治療:鼓室形成術

参考:真珠腫性中耳炎の過去問
・115D56:鼓膜画像を選ぶ問題
・112D63:今後出現しうるものは⇨難聴、回転性めまい
・109A27:治療は⇨鼓室形成術
・108A8:先天性真珠腫の画像⇨鼓室形成術を選ぶ問題
・107E16:耳漏をきたさない疾患は⇨真珠腫性中耳炎はハズレ選択肢(耳漏をきたす疾患である)
・106A10、103E32:顔面神経麻痺をきたさない疾患は⇨真珠腫性中耳炎はハズレ選択肢(顔面神経麻痺をきたす疾患である)

99E13 
真珠腫性中耳炎でみられないのはどれか.
a 鼓膜穿孔
b 耳漏
c めまい
d 舌咽神経痛
e 混合性難聴

正解はdです。

画像

先天性真珠腫(108A8)

画像6

115D56:後天性真珠腫性中耳炎(弛緩部型)

画像7

画像の解説

画像8

113D30:滲出性中耳炎

66歳の女性。左耳閉感を主訴に来院した。2週間前から左耳閉感を自覚するようになったため受診した。耳痛やめまいはない。鼻腔内および口腔内に異常を認めない。左上頸部に硬い腫瘤を複数触知する。左耳の鼓膜写真を別に示す。
病変の有無を確認すべき部位はどれか。
a 耳下腺
b 上咽頭
c 中咽頭
d 下咽頭
e 喉頭

画像9

正解はbです。鼓膜写真では画像7時方向に液体貯留を認めます。左上顎部の腫瘤による耳管の閉塞によるものと考えられます。病変の検索として上咽頭を確認する必要があります。

☆滲出性中耳炎
・中耳に滲出液の貯留が認められる病態。
・好発は小児と高齢者です。
・罹患率は高く、80%以上が小学校に入る前に見られる。
・原因:急性中耳炎に続発するものや、耳管の閉塞(上咽頭癌アデノイド増殖症)、顔貌(口蓋裂やDown症候群)、アレルギー性鼻炎、受動喫煙、放射線照射などがリスク因子です。
・症状:難聴、耳鳴り、耳閉塞感など。痛みは通常伴いません
⇨小児の場合は難聴を訴えません。呼びかけに応じない、テレビの音量が大きいなどという情報が有用です。
・遷延すると鼓膜が菲薄化し、鼓室内に癒着するアテレクタシスという状態になります。アテレクタシスが続くと真珠腫形成を起こします。
・ティンパノメトリーではB型です。鼓室内が陰圧になっていることがわかります。
・治療は、小児であれば自然治癒することも少なくないため経過観察(副鼻腔炎などの合併があればその治療)を行います。遷延する場合は鼓膜換気チューブの留置を行います。

参考:滲出性中耳炎の過去問
・115C34:アデノイド増殖症の症候に難聴があります。
・111I7:鼓膜写真と疾患の組み合わせ(画像は後述)
・107I49:聞き返しの多くなった3歳男児の症例。インピーダンスオージオメトリーが与えられている。
・105G48:滲出性中耳炎のインピーダンスオージオメトリーの型を選ぶ問題。画像は下
・103E58:聞こえが悪くなっている2歳10ヶ月の男児。Xpはアデノイド増殖症を示唆。診断のための検査は?⇨インピーダンスオージオメトリー
・103G11:耳痛を伴わないものは⇨滲出性中耳炎
・100A12:上咽頭癌で予想される症状は⇨耳閉感
・100B17:鼓膜の内陥所見がみられるものは⇨滲出性中耳炎
・発育とともに罹患頻度が著しく減少するのはどれか.⇨滲出性中耳炎
⇨滲出性中耳炎は小児と高齢者が好発です。

画像10

画像

115D56より

画像11
画像12

112D3:慢性中耳炎

小児期からの増悪と寛解を繰り返す耳漏を主訴に受診した患者の左鼓膜写真を次に示す。
この疾患で耳漏の細菌検査で同定される可能性が最も高いのはどれか。
a 結核菌
b 肺炎球菌
c 黄色ブドウ球菌
d インフルエンザ菌
e Moraxella catarrhalis

画像13

正解はcです。鼓膜穿孔、耳漏から慢性中耳炎がわかります。慢性(化膿性)中耳炎の起炎菌は黄色ブドウ球菌や緑膿菌が多いです。

☆慢性中耳炎
・急性中耳炎の遷延化、鼻腔や副鼻腔における慢性炎症、易感染性(糖尿病や免疫不全)を背景に起こる炎症です。
・「慢性」と名は付きますが、炎症は活動性の場合も非活動性の場合もあります。活動性の場合は耳漏が顕著です。
鼓膜穿孔、(伝音)難聴、耳漏が3徴です。
・炎症は波及し、
内耳に波及⇨感音難聴やめまい
内耳道に波及⇨顔面神経麻痺
脳に波及⇨脳膿瘍、髄膜炎

となります。
起炎菌は黄色ブドウ球菌や緑膿菌が多いです。
・検査
耳鏡:鼓膜穿孔耳漏の確認、石灰化や肉芽組織の形成を確認できます。
側頭骨CT:骨破壊や乳突蜂巣の発育、髄膜炎や脳膿瘍の所見の有無などが確認できます
パッチテスト:穿孔部分を覆って聴力の改善があるかを確認します。聴力の改善があれば穿孔を治せば良く、改善のない場合は耳小骨の破壊等が難聴の原因に加わっています。
・治療:耳漏のドレナージ、洗浄、抗菌薬、鼓膜形成術(パッチテストで聴力改善がある場合)、鼓室形成術(パッチテストで聴力改善のない場合)です。

参考:慢性中耳炎の過去問
・112D3:起炎菌を聞く問題
⇨黄色ブドウ球菌
・108E47:耳漏を主訴に来院。難聴あり。鼓膜穿孔あり。検査所見として最も考えられるものは
⇨純音聴力検査で右耳に気導骨導差あり
≪注≫中耳に炎症がとどまっていれば伝音難聴で気導骨導差はあります。また、炎症が内耳に波及して混合性難聴となってもA–B Gapは残ります。
・105A27:慢性中耳炎の治療を選ぶ問題
⇨鼓室形成術
・101B114:補聴器の適応とならない疾患を選ぶ問題
⇨慢性中耳炎は適応ありです。

参考:結核性中耳炎
・耳周囲のリンパ節腫脹

112F66:急性中耳炎

5歳の女児。発熱と両耳痛とを主訴に来院した。3日前に鼻汁と咳が出現したが、そのままにしていた。昨日から発熱と両耳痛が出現し、母親の呼びかけに対する反応が悪くなった。機嫌も悪く、食欲も低下している。意識は清明。身長105cm、体重17kg。体温39.2℃。呼吸音に異常を認めない。その他の身体所見に異常を認めない。耳介と外耳道とに異常を認めない。左鼓膜写真を別に示す。
適切な治療はどれか。2つ選べ。
a 鼓膜切開
b 耳管通気
c 抗菌薬投与
d 副鼻腔洗浄
e 副腎皮質ステロイド静注

画像14

正解はacです。発熱、耳痛、鼓膜の発赤と膨隆から急性中耳炎を考えます。全身症状が強く、鼓膜の発赤も強いため抗菌薬投与を行います。重症例では鼓膜切開も行います。

☆急性中耳炎
・小児の感染症として頻度が高い疾患です。
上気道炎の先行があります。
小児は耳管が太く短く水平ゆえ、鼻腔から中耳へ菌が波及しやすく中耳炎を起こしやすいです。
・起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラカタラーリスが多いです。
⇨先行する上気道炎ではウイルス性が多いです。上気道炎によって局所性の免疫能低下が起こり、上気道に常在する上記の菌が感染症を起こします。
・症状は難聴、耳痛、発熱などです。炎症が波及するとめまいや感音難聴、顔面神経麻痺、髄膜炎、脳膿瘍をきたします。
鼓膜は発赤し膨隆します。炎症によって鼓膜の穿孔が起こると耳漏が排出されます。
・重症度:年齢(2歳未満)、鼓膜所見(発赤、膨隆、耳漏)、症状(発熱、耳痛、不機嫌)で決まります。2歳未満は難治化リスクです
・治療は重症度次第ですが、軽症の場合は鎮痛剤投与で経過観察です。症状が強かったり耳漏が伴うような場合や、経過観察で自然軽快しない場合は抗菌薬(アモキシシリン)を10日間投与します。中耳の滲出液貯留は治療後数ヶ月は残ります。重症例の場合は鼓膜切開し排膿します。

参考:急性中耳炎の過去問
114A12:小児急性中耳炎の難治化に関連しないのはどれか.
a 年齢6歳以上
b 免疫能の低下
c 鼻副鼻腔炎の合併
d 集団保育所への通所
e 薬剤耐性菌の耳漏内検出
⇨正解はaです。 他は感染リスク、耐性菌リスクです。
・112F66:治療を問う⇨抗菌薬と鼓膜切開
・109I6:急性中耳炎で投与すべき抗菌薬は
⇨ペニシリン系
・104D14
小児急性中耳炎で正しいのはどれか.2つ選べ.
a 感冒罹患に続発する.
b 早期から抗菌薬を投与する.
c 5歳以上の小児では難治化しやすい.
d 最も多い起炎菌は黄色ブドウ球菌である.
e 保育所などでの集団生活は危険因子である.
⇨正解はaeです。 
・102A41:急性中耳炎の起炎菌を選ぶ問題⇨肺炎球菌とインフルエンザ菌
・102F18:乳児の発熱。炎症反応↑ 行うべき検査は
⇨耳鏡
⇨小児の感染症で急性中耳炎の頻度は高いため、鼓膜は要チェックです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?