便秘と下剤について

☆便秘

・便秘=排便困難型+排便回数減少型(もちろんoverlapあり)。
・回数が減少すると⇨便の水分がより吸収されて硬くなる⇨排便困難 となります。
・原因として癌や直腸瘤のような通過障害、括約筋の機能低下、神経性(副交感神経↓)、筋疾患や筋損傷(分娩時損傷など)、過敏性腸症候群、薬剤性(抗コリン薬やオピオイド、ドパミン作動薬やセロトニン受容体拮抗薬、Ca拮抗薬)、妊娠(プロゲステロン↑)などがあります。

☆下剤

・腸閉塞には禁忌です(102H34)。
・機序によって刺激性、浸透圧性などがあります。

①刺激性下剤

・腸管神経叢(Auerbach‘s plexus)を刺激し蠕動運動を促進し、腸管による水分の吸収を抑制します。ゆえに排便回数減少型に有効。
・作用は強く効果も早く出ます。
・便秘時指示に頓用でよく使われますが、便を柔らかくする作用は小さいため非刺激性下剤(後述)を併用します。
・長期間の服用で大腸メラノーシス(色素沈着)難治性の便秘(神経細胞減少)をきたすため使用は短期間のことが多いです。
・妊婦にはNG
・効果発現は6〜12時間のため、就寝前に飲む
・蠕動が刺激されるため腹痛をきたします。また、効きすぎて下痢や便失禁をきたすことも。
(ア)アントラキノン系(センナという生薬に含まれるセンノシドが薬理作用を有します)
(イ)ピコスルファート
滴数で細かく調整ができるというメリットがある。
(ウ)坐薬(新レシカルボン坐薬):炭酸ガスを直腸内で発生させて直腸を刺激する。直腸内に便がとどまる排便困難型に有効。作用は早く、20分ほど。便が硬く物理的に排出が困難な場合は摘便がベスト。

②浸透圧性下剤

・腸管から吸収されず、腸管内に水を引き込む
硬便を柔らかくする+蠕動運動↑
(ア)マグネシウム製剤(酸化Mgやクエン酸Mgなど)
・腎排泄のため腎機能低下者、高齢者では高Mgに注意。定期的なMg測定を。
・腎機能が正常でも、腸蠕動が弱く腸管内に長くとどまると高Mg血症のリスクになる。
胃酸で活性型となるため胃切除後など胃酸が出ない状況では効果減弱する。
・薬価が低いため第1選択に用いられることが多い
(イ)ポリエチレングリコール(モビコール®︎)
・下部内視鏡の前処置に多く使われてきましたが2018年に慢性便秘に対して承認となりました。
・水に溶かして投与するため、準備が面倒なため高齢者の一人暮らしなどでは処方しづらいです。
(ウ)ラクツロース
・人工の二糖類。浸透圧性下剤としても使われますが、肝性脳症の治療にも
経口投与⇨腸内細菌によってラクツロースが分解⇨大腸内を酸性に
⇨NH3をNH4+に⇨腸管のNH3吸収↓ (96H34などで出題) 
また、下剤効果でアンモニア排泄↑の効果もありです(裏返すと便秘は肝性脳症リスクです 115B24)
(エ)ルビプロストン(アミティーザ®︎)
・腸管上皮のClチャネルの活性化⇨腸管内の水の量を増やし下剤として作用します。
悪心が多い(特に若年女性)ため、食後服用を推奨します。
(オ)リナクロチド(リンゼス®︎)
・腸管上皮のグアニル酸シクラーゼ活性化⇨cGMP↑⇨CFTR活性化(cystic fibrosisの原因となるチャネル)⇨管腔へのCl分泌↑
・粘膜下の知覚神経過敏性を改善するため、排便に伴う腹痛の抑制効果もあります。
・食前投与ですが、食事と時間が近すぎると下痢を起こしやすいため時間を離します。
cf.エロビキシバット(グーフィス®︎)
・胆汁酸トランスポーターを阻害⇨胆汁再吸収阻害⇨腸管内の胆汁酸↑で浸透圧性下剤+腸蠕動刺激(刺激性下剤)の作用。
・胆汁酸が大腸へ行くと
管腔内への水分排泄↑+セロトニン分泌作用を介して腸管神経叢↑で蠕動運動亢進⇨下痢の原因に(105E43)
cf.セロトニン受容体5-HT4RアゴニストのTegaserodはかつて下剤として使われましたが現在は販売中止
(このトランスポーターの場所が回腸末端は覚えるべき知識 100A28)
・作用機序から分かるようにウルソの効果減弱、腹痛(蠕動↑)、胆汁分泌低下例では効果減弱という特徴が挙げられます。

③ナルデメジン(スインプロイク®︎)

・末梢にあるμ受容体の阻害薬です。オピオイド誘発性便秘に対して用います(オピオイド無関係の便秘には使わない)
μ受容体阻害⇨腸管神経叢からのアセチルコリン分泌↑⇨腸蠕動亢進
cf.末梢性μ受容体のアゴニストはロペラミドで、下痢に対して使われます。

④膨張性下剤

・腸管内で水を吸ってゲルとなり、蠕動運動を起こす。下痢、便秘の両方を改善。
(ア)ポリカルボフィルカルシウム
(イ)カルボキシセルロース
(ウ)サイリウム(オオバコの仲間)

参考:摘便と浣腸

摘便:指で便塊を潰して掻き出す手技。便が大きく硬く直腸内に留まる場合は下剤で出せないため有効。
浣腸:グリセリン浣腸がよく用いられる。直腸刺激による排泄促進、便の軟化の機序により、5分ほどで効果が発現する。

上記はいずれも直腸まで便が降りていないと効果がないため注意が必要です。

医師国家試験

107H6 便秘の原因となりにくいのはどれか.
a オピオイド
b 抗コリン薬
c ラクツロース
d 三環系抗うつ薬
e ドパミン作動薬

正解はcです。ラクツロースは浸透圧性下剤です(後述)。他の選択肢は全て便秘をきたしえます。

112C3:吸収不良症候群の症状として頻度の低いのはどれか.
a 貧血
b 浮腫
c 便秘
d 体重減少
e 腹部膨満感

正解はcです。吸収不良によって管腔内に水が引かれるため、浸透圧性下剤と同じ機序で下痢をきたします。

105E43(改):59歳の女性.水様下痢を主訴に来院した.2年前に膿瘍形成を伴う急性虫垂炎のため約20cmの終末回腸を含む回盲部切除術を受け,それ以来下痢となっている.
この患者の下痢に最も関与していると考えられるのはどれか.
a 鉄
b 脂肪
c 胆汁酸
d 腸内細菌
e ビタミンB12

正解はcです。胆汁酸による浸透圧性および蠕動運動↑による下痢です。

111B42:77歳の女性.持続性の上腹部痛を主訴に来院した.(中略) NSAIDsが投与され一時的に疼痛は軽減したが,2日前から再び増悪したため受診した.疼痛コントロール目的でオピオイドの投与を開始することとなった.
対応として適切なのはどれか.
a 緩下薬を併用する.
b 持続的皮下投与を行う.
c NSAIDsの投与を中止する.
d 悪心が出現した場合は中止する.
e 神経障害性疼痛治療薬を併用する.

正解はaです。オピオイドの副作用に便秘があります(110H7でも出題)。オピオイド誘発性便秘に対してはナルデメジンも有効です。

115A42:58 歳の男性。残便感を主訴に来院した。半年前から残便感を自覚し、持続するため受診した。便は兎糞状であり、排便回数は 3 日に 1 回程度である。毎回強くいきんで排便しているが、排便後も残便感が持続する。既往歴に特記すべきことはない。腹部は平坦、軟で、圧痛を認めない。直腸指診で異常を認めな い。下部消化管内視鏡検査で異常を認めない。
対応として適切なのはどれか。
a 安静指示
b 抗菌薬投与
c 定期的な浣腸
d 浸透圧性下剤投与
e 食物繊維摂取の制限

正解はdです。慢性便秘に対してはまずは食事、生活指導を行います。薬物療法は非刺激性便秘薬(マグネシウム製剤が1st)から始めます。
c:直腸塞栓の場合(薬物療法で軟便になっても便秘が持続する)で考慮しますが最初から行わない。
e:食物繊維は制限しません。むしろ積極的に取るよう推奨します。

参考:薬剤師国家試験

105回理論 問158
下部消化管に作用する薬物に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 ピコスルファートは、腸内細菌の作用でレインアンスロンを生成し、アウエル バッハ神経叢を刺激することで、大腸運動を促進する。
2 ラクツロースは、界面活性作用により腸内容物の表面張力を低下させ、水分を 浸潤させることで、硬便を軟化させる。
3 ルビプロストンは、小腸上皮に存在する Cl- チャネル 2 (ClC–2)を活性化す ることで、腸管腔内への水分分泌を促進する。
4 リナクロチドは、グアニル酸シクラーゼ C 受容体を活性化し、サイクリック GMP(cGMP)濃度を増加させることで、腸管分泌及び腸管運動を促進する。
5 センノシドは、管腔内で水分を吸収して膨張し、腸壁を刺激することで、蠕動 運動を促進する。

正解は3と4
1はゼンノシドの説明。ピコスルファートは腸内細菌によって加水分解されジフェロール体となります。
≪注≫両者はいずれも腸内細菌による加水分解を受けて活性型になるため、抗菌薬との併用で効果が減弱する可能性も指摘されています。
2は誤り。ラクツロースは浸透圧性下剤です。文章は浸潤性下剤(DSS)です。
3、4は正しい。
5は誤り。膨張性下剤ではなく刺激性下剤です。

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