医師国家試験出題基準 公衆衛生の変更点

⓪はじめに

平成30年版(最新)医師国家試験出題ガイドラインはこちら。112回から適応となっています。

その前の平成25年版はこちらです

両者の違いを中心に見ていきます。

ただし、必ずガイドラインに沿った出題になるとは限りません。

111E36(総論)
メタ分析〈メタアナリシス〉について正しいのはどれか.2つ選べ.
a 生態学的研究の一つである.
b 観察研究は対象にならない.
c 研究を収集することで精度を向上させることを目的としている.
d 複数の研究のすべての個人データをプールし,疫学指標を再計算する.
e 複数の研究から同じ疫学指標を抽出し,それをまとめた指標を算出する.

「メタ分析」は平成30年版から必修、総論の両者の出題基準に入りました。それ以前(111回時点)では必修の出題基準には入っているものの、総論には入っていません。ただし出ています…

 また、新規出題項目の出題は、常識があれば知識がなくても分かる問題と、知識が無ければ難しい問題に分かれ、いずれも合否を分けません
(例:後で出てくる115C31のお薬手帳は正答率90%以上ですが、114C1の地域医療構想は30%台でした)

 合格を目指すためにはこの手の予想は不要であると考えますが、過去問演習を毎日こなすだけなのもやってて飽きるので、やって損がないならやろうくらいのモチベでやろうと思います。

①公衆衛生問題編

予想問題その1:お薬手帳

お薬手帳について正しいものを選べ。
a:1人1冊、市町村から発行される。
b:閲覧できるのは薬剤師と医師のみである
c:持参すると薬局での患者の自己負担額が減る
d:普及率は95%を超えている
e:かかりつけの診療所や病院で管理する

正解はcです。
a:薬局でタダでもらえます。市町村の業務ではありません。
b:医療ソーシャルワーカーでも患者の許可があれば閲覧可能です(113C5で出題)
c:正解です。
d:内閣府の世論調査では普及率は70%ほど。95%もない。
e:患者本人が管理します。

参考問題:115C31
お薬手帳の役割として正しいのはどれか。2 つ選べ。
a 薬剤医療費の適正化
b ジェネリック薬品の普及促進
c 患者による処方の自己管理の促進
d 重複処方、相互作用による健康被害の防止
e 薬局薬剤師の判断による処方内容の修正・改善

正解はcdです。

☆お薬手帳
・1993年のソリブジン事件(抗ウイルス薬のソリブジンと、抗がん剤の5–FUの相互作用での死亡事例)を契機に作られました
⇨個々の患者がどのような薬が処方されているのかを把握し、重複処方、相互作用による健康被害の防止を目的としています。
・患者自身が何の薬を飲んでいるのかを把握でき、自己管理を推進することができます。
震災時にカルテや医療機関が失われている中でも、適切な医薬品の供給に役立ちます。
・薬剤情報提供料に手帳加算があります。
・お薬手帳持参で薬局での負担が減ります
アレルギー歴や副作用歴の項目があります

予想問題その2:ショートステイ

ショートステイについて正しいものを2つ選べ
a:入所期間の平均は3ヶ月である。
b:リハビリを受けることができる。
c:介護保険を使うことができる
d:要介護と認定された者のみが利用できる。
e:利用者は65歳以上に指定されている

正解はbcです。
a:連続で使えるのは30日までです。
d:要支援でも使えます。
e:小児でも使えます。

100I3に、介護疲れの相談に対してショートステイの利用をアドバイスするという問題があります。ケアする人の負担を減らす、ケアする人のケアのことをレスパイトケアと言います。

☆ショートステイ
短期入所生活介護短期入所療養介護の2種類があります。前者は介護がメインで、後者は医療的ケアが付随します。
30日以内の宿泊が可能です。
介護保険を使え、リハビリも併用できます。
要介護でも要支援でも利用できます
・利用理由の多くは介護疲れの軽減(レスパイトケア)です。

予想問題その3:BPSD

認知症の周辺症状(BPSD)について正しいものを2つ選べ
a:記憶障害はBPSDの1つである。
b:否定を繰り返し相手を納得させるバリデーション療法がBPSDの改善に有効である
c:身体拘束はBPSDの増悪因子である
d:抗精神病薬は有効性が示されているが、長期投与が必要である
e:身体症状がBPSDの誘因、増悪因子となりうる

正解はceです。
a:記憶障害は中核症状です。BPSDは妄想、徘徊、幻覚、暴言や暴力、抑うつなどを指します。
b:バリデーションの意味が異なります。バリデーションは相手の行動に理由があると考え、受容、共感を示すことです。
d:長期投与の有用性は示されておらず、また副作用の面から使用は控えるべきです。

☆BPSD(behavioral  and psychological  symptoms of  dimentia)
・認知機能障害に身体症状や環境、心理的要因が加わって起こる付随症状です。
妄想、徘徊、幻覚、暴言や暴力、抑うつなど様々です。
介護者の心理的負担が大きいため適切なケアが必要です。
・背景には様々な要因があります。身体疾患が背景にあることも。
・身体拘束など苦痛を与えることで増悪します。不要な拘束は逆効果のため注意。
相手への受容、共感(バリデーション)がBPSDの軽減に有効です。薬物療法の有効性は限定されています。

予想問題その4:難病法

難病について正しいものを2つ選べ
a:市町村保険センターは難病の相談を受ける
b:治療費の自己負担額は0円である
c:疾患の難病指定は厚生労働大臣が行う
d:指定難病は全部で56疾患がある。
e:客観的な診断基準が定まっている疾患である

正解はce
a:保健所の業務です。
b:助成金はありますが自己負担があります(2割負担)。
d:初期は56疾患でしたが、現在は300以上あります。

☆難病法
・2015年に難病法が施行されました。現在300以上の難病が指定されています。
・指定難病患者は自己負担が2割となり、そこに公費の助成があります。
指定難病=治療方法が確立していない+診断基準が客観的に定まっている+患者数が一定数以下である+長期の療養が必要+機序が不明 です。
⇨税金での補助が必要なため、診断基準が不明では不正受給が起こりうること、患者数が多ければ破綻することは関連付けられると思います。
助成金があり、また所得に応じて自己負担額の上限が定められています。
⇨特定医療費の支給は都道府県が行います。
・指定医療機関(医療費の助成を受けられる医療機関)は都道府県知事が定めます。
・指定難病の診断は難病指定医が行います。難病指定医は支給認定の申請に添える診断書を作成します。
難病指定医の指定は都道府県知事が行います。
・指定難病の指定は厚生労働大臣が行います。
・指定難病として最多の疾患は潰瘍性腸炎です。

参考:看護師国家試験107午前43
難病の患者に対する医療等に関する法律〈難病法〉に基づく医療費助成の対象となる疾患はどれか。
1 中皮腫
2 C型肝炎
3 慢性腎不全
4 再生不良性貧血

正解は4です。治療方法が確立せず、診断方法が決まっており、患者数が一定数以下であり、長期の療養が必要なものを選びます。

参考:看護師国家試験107回午後84
難病の患者に対する医療等に関する法律〈難病法〉において国が行うとされているのはどれか。2つ選べ。
1 申請に基づく特定医療費の支給
2 難病の治療方法に関する調査及び研究の推進
3 指定難病に係る医療を実施する医療機関の指定
4 支給認定の申請に添付する診断書を作成する医師の指定
5 難病に関する施策の総合的な推進のための基本的な方針の策定

正解は2と5です。お金関連(支給、支給のために必要な指定医、医療機関)は都道府県の管轄です。

予想問題その5:DMAT

DMATについて正しいものを2つ選べ
a:大規模災害時に負傷者の救助を行う。
b:医師のみで構成される。
c:都道府県の要請によって派遣される。
d:DMATの研修は国土交通省の管轄である。
e:自己完結型の医療救護を基本とする。

正解はceです。
a:救助は消防や自衛隊が行います。医療体制の整備、医療の提供が仕事です。
b:医師、看護師、業務調整員(薬剤師や放射線技師など含む)で構成されます。
d:厚生労働省です。

☆DMAT(Disaster Medical Assistance Team)
・1995年の阪神淡路大震災を契機に作られました。
・日本DMATと都道府県DMATがあります。日本DMATは厚生労働省によって発足しました。
医師、看護師、業務調整員で構成されたチームで、自己完結型(チーム内で不足無し)の医療の提供を目的としています。
・災害時や大規模事故の際に消防や被災地域の都道府県の要請を受け派遣されます。
・(概ね)48時間以内の急性期の医療の提供が主たる目的です。
・DMATの移動にドクターヘリの利用は可能です。

予想問題その6:SDGs

持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)について誤っているものはどれか。
a:2016年から2030年までの国際社会共通の目標である。
b:非感染性疾患(NCDs:Non-communicable diseases)の減少は目標の1つである。
c:2015年の国連サミットで採択された
d:8つのゴールを策定している。
e:ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)はSDGsの前身である。

正解はdです。MDGsのゴール8つに対し、SDGsは17のゴールを策定しています。それぞれのゴールに、計169個のターゲットが設定されています。

環境省のページに説明があります。

このうち3番目の「健康」には115C24で出たNCDsが含まれています。

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参考:看護師国家試験110回午前72
国際連合〈UN〉で採択された2016年から2030年までの開発に関する世界的な取り組みはどれか。
1. 持続可能な開発目標〈Sustainable Development Goals:SDGs〉
2. ミレニアム開発目標〈Millennium Development Goals:MDGs〉
3. プライマリヘルスケア
4. 政府開発援助〈ODA〉

正解は1です。

参考:115回歯科医師国家試験
SDGsについて正しいのはどれか。2つ選べ。
a 主要7か国首脳会議で採択された。
b 2050年までの達成を目指している。
c 健康と福祉を拠点とする目標がある。
d 目標とそれを達成するためのターゲットからなる。
e 未達成の項目はMDGsに引き継がれる。

正解はcdです。
a:2015年の国連サミットで採択されました。G7ではありません。
b:2030年までです。
e:MDGsはSDGsの前身です。

予想問題その7:新型コロナで話題となった用語

新型コロナウイルス感染において多用される以下の用語の意味について正しい組み合わせはどれか
a:パンデミック ー 感染症の局地的な流行
b:アウトブレイク ー 感染症の世界的な流行
c:ゾーニング ー 感染者の集団
d:クラスター ー 汚染区域と清潔区域の区分け
e:エンデミック ー 風土病

正解はeです。パンデミックはpan(全部)+demic(demos=人々)より、世界的な流行を意味します。一方でepidemicはepi(=on)+demicで、局地的な感染の流行を意味します。endemicはen(=in)+demicで、その土地内で定期的に起こる風土病を意味します。

outbreakは「勃発」、「突然の発生」の意味です。outが開始を意味しますね(rolloutなど)。

clusterは群の意味です(群発頭痛はcluster headache)。感染の起こった集団を指す言葉として使われます。

zoningは清潔域と汚染域を分けることです。汚染域に入る前に個人防護具を着用し、汚染域のものは他の領域に持ち込まないようにする必要があります。

予想問題その8:要支援の原因疾患

国民生活基礎調査において、要支援となった原因として最多のものはどれか
a:認知症
b:脳血管疾患(脳卒中)
c:関節疾患
d:骨折・転倒
e:糖尿病

正解はcです。115C9では要介護の原因の(平成28年時点の)第4位として骨折・転倒を選ぶ問題が出ています。要支援の原因と要介護の原因は分けて覚える必要があります。また、要介護1位の認知症は増加傾向です。

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予想問題その9:バイオハザードマーク

血液が付着したガーゼを捨てるのは以下のabcうちどれか

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正解はbです。aの赤色は液体や泥状のもの、bの橙色はガーゼなどの固形物、cの黄色は鋭利なものです。

参考:看護国家試験108回午前21  104回午前39
黄色のバイオハザードマークが表示された感染性廃棄物の廃棄容器に入れるのはどれか。
1. 病理廃棄物
2. 使用済み手袋
3. 使用済み注射針
4. 血液が付着したガーゼ

正解は3です。黄色は鋭利なものです。

公衆衛生変更点まとめ

・保険薬局の項目、医薬分業が消えお薬手帳が追加
⇨115C31のようなお薬手帳について問題は狙いどころです。

・ショートステイ、グループホームが備考欄から小項目へ
⇨ショートステイの問題が過去に1度出ただけですが、その利用目的を知っている必要のある問題でした。介護疲れとレスパイトケアの重要性は話題となっているため、利用目的、利用方法、施設の性質は理解する必要があります。

・要介護認定の項目にBPSDが追加
⇨認知症は要介護の原因の第1位です。高齢化に伴う有病率の増加に加え、介護の重要性が指摘されています。特に介護負担となるBPSDは理解が必要です。

・難病法が小項目に追加
⇨医師国試の出題は今のところありませんが、看護の国試では既に出ています。都道府県の管轄が何か、難病指定される疾患はどのような疾患かは押さえておく必要があります。

・地域医療構想が医療計画に追加
⇨112、113、114回に出ています。特に医療需要の推計は毎年出てます。正答率は全て低いので116以降も出る可能性は大です。

114C1 
地域医療構想について誤っているのはどれか.
a 2025年の医療需要を推計する.
b 医療計画の一部として策定する.
c 構想区域は都道府県単位である.
d 病床の必要量を病床の機能別に推計する.
e 地域医療構想会議には医療保険者も参加する.

正解はcです。二次医療圏単位です。

113F6 
在宅医療の医療需要の推計が示されているのはどれか.
a 患者調査
b 国勢調査
c 健康日本21
d 地域医療構想
e 介護保険事業計画

正解はdです。

112F27 
都道府県による地域医療構想において検討すべき内容に含まれないのはどれか.
a 医療提供体制
b 保健所の配置
c 医療従事者の確保・養成
d 医療需要の将来推計
e 病床の機能分化推進

正解はbです。

・地域包括ケアが医療計画に追加
⇨112回で出ています

112F17
地域包括ケアシステムについて誤っているのはどれか.
a 自立生活の支援を目指す.
b 高齢者の尊厳の保持を目指す.
c 住み慣れた地域での暮らしを支える.
d 二次医療圏単位でサービスを提供する.
e 医療・介護・予防・生活支援・住まいが一体的に提供される.

正解はdです。住み慣れた地域でサポートするのに広域市町村単位は広すぎます。

・DMATが備考から小項目へ
⇨110B19に選択肢が出ています。

110B19:災害派遣医療チーム〈DMAT〉は自己完結型の医療救護を基本とする.⇨○

・MDGsからSDGsへ

2015年までを期限としたミレニアム開発目標は、2016年からSDGsとしてより細分化し、先進国の改善、国内格差の是正などの目標が加わっています。

医師国家試験では出ていませんが、115C24で非感染性疾患が問われているため注意が必要と考えます。看護師国家試験では2回出題済みです。

・エピデミックとパンデミックが小項目に。

⇨新型コロナウイルスの流行を踏まえて出す可能性は高いです。

・システマティックレビュー、メタ分析が新規に加わっています。メタ分析は必修でも項目に入っています。メタ分析が「総論」として出たのは115回と111回です。

115F3(総論)
メタ分析〈メタアナリシス〉について正しいのはどれか.
a 異なる指標を統合することができる.
b 指標を統合することで標準誤差は大きくなる.
c 研究から抽出した指標を用いて統合指標を算出する.
d できるだけ多くの研究を選択して出版バイアスを防止する.
e 対象者をプールすることでデータを統合して再解析する研究である.

111F5(必修)
ある研究結果の表を示す.
この研究方法はどれか.
a 横断研究
b コホート研究
c 症例対照研究
d 症例集積研究
e メタ分析〈メタアナリシス〉

画像2

正解はそれぞれc、ce、e、です。

かつて問われてた必修のような出題とは異なり、一般的な性質を問う問題となっています。

・要介護の原因⇨要支援、要介護の原因 と変更されています。

115C9で要介護の原因疾患を問う問題が出ています。要支援についても対策が必要でしょう。

・高齢者の「閉じこもり・廃用症候群」にサルコペニアが追加

⇨114C39に出ています。

82歳の男性.歩行困難を主訴に来院した.IgA腎症による慢性腎不全で14年前から1回4時間,週3回の血液透析を受けている.2年前から歩行速度が低下し,最近は横断歩道を渡りきれないことがある.階段昇降も両手で手すりにつかまらないと困難で,通院以外の外出を控えるようになったという.体重は1年前から5kg減少し,このまま歩けなくなることを心配して受診した.身長167cm,体重47kg(透析直後体重46kg).脈拍72/分,整.血圧138/72mmHg.心音と呼吸音とに異常を認めない.浮腫はない.徒手筋力テストで両下肢とも4である.その他,神経診察に異常を認めない.両足背動脈は左右差なく触知する.血液所見:赤血球338万,Hb 11.0g/dL,Ht 33%,白血球5,200,血小板14万.血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL,アルブミン3.6g/dL,AST 22U/L,ALT 18U/L,LD 178U/L(基準120〜245),CK 38U/L(基準30〜140),尿素窒素72mg/dL,クレアチニン7.8mg/dL,尿酸7.4mg/dL,Na 138mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 101mEq/L,Ca 9.2mg/dL,P 5.6mg/dL.CRP 0.1mg/dL.
歩行困難の原因として考えられるのはどれか.
a 腎性貧血
b 高尿酸血症
c 高リン血症
d サルコペニア
e 閉塞性動脈硬化症

正解はdです。それ以外にも110回以降に選択肢に多く出ています。

サルコペニアは進行性、全身性に生じる骨格筋疾患で、転倒や死亡のリスクになるものです。

・心の健康づくりの備考に「依存症対策」が追加。

⇨試験としては既に出ているものも多いので特に問題にはならないと思われます。

・「引きこもり、自殺の予防」が学校精神保健の備考欄に入りました。

⇨前のガイドラインから多くの出題があり、特に問題にならないでしょう。

・感染性廃棄物の備考欄に医療廃棄物が加わりました。

⇨114F45に血液が付着したガーゼを捨てる場所はどれかという問題が出ていますが、白黒のため色による区別も出ると考えられます。看護では出ています。




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