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世界はうつくしい 2021/10/18

山登り(低山ですが・・・)の最中、前後に人がいなくなった時、
立ち止まって息を殺し、気配を消してみる。

風の音、葉っぱのこすれる音………そのままじっとしていると、
隠れていた生き物が、カサカサッと動く音が聴こえて来る。

時間感覚がおぼろげになって、自分が自然に同化していく感覚が好きです。


それから、最近のお気に入りの詩は、これ。



 「世界はうつくしいと」     長田 弘(おさだ ひろし)

うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいということばを、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。
そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。
うつくしいものをうつくしいと言おう。

風の匂いはうつくしいと。
渓谷の石を伝わってゆく流れはうつくしいと。
午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。
遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。
きらめく川辺の光りはうつくしいと。
おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。
行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。
花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。
雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。

太い枝を空いっぱいにひろげる晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。

冬がくるまえの、曇り日の、南天の、小さな朱い実はうつくしいと。
コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。
過ぎてゆく季節はうつくしいと。
きれいに老いてゆく人の姿はうつくしいと。

一体、ニュースとよばれる日々の破片が、
わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。
あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。*
うつくしいものをうつくしいと言おう。*
幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。
シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。
何ひとつ永遠なんてなく、
いつかすべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。


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