【第二話】セネクトメア番外編 「スピカの大発見」

【前回までのあらすじ】

教授から、自分の名前が書かれた白い箱を渡された川野多佳子(かわのたかこ)は、鍵のかかった状態の箱をひとまず預かることにした。その後、大学の図書室で「現実と夢の狭間」というタイトルの本を見つけ、帰りのバスを待ちながら読むことにした。


~青星自然大学・バス停~

少し日が暮れてきたけど、本を読めるくらいの明るさはある。私はバスを待っている間、「現実と夢の狭間」を第二章から読むことにした。

多佳子「ふーん...。」

第二章の内容は「現実と夢の間に世界があるとしたら」という仮説がメインの話だった。たまに現実と見分けがつかない夢を見て、起きてからも夢と現実の区別がつかない時がある。それはいわゆる狭間の世界に行っていた時に体感するもので、現実世界ではありえない状況や行動が再現されている。といったような、誰でも一度は体験したことのある内容が、少し論理的に説明されていた。

多佳子「これだけじゃ、単なる想像レベルでしかないんだよなー。」

第二章を流し読みした後に第三章に入る。今度はネット世界についての内容のようだ。デジタルで形成されたネット世界は、実体がないけど人間がコミュニケーションを取ったり、コンテンツを提供したり利用したりしている。これもある意味、現実と夢の狭間という解釈らしい。私が期待していた内容とは、全く違ったのでガッカリした。

第四章は最終章。ここは人間の手により人間の世界が進化することについて書かれているようだ。ここまでの内容が期待外れだったので、もうこれ以上読む気になれない。そう思っていた時、ちょうどバスが見えたので、私は本をバッグにしまい立ち上がった。


~川野多佳子の自宅~

家に着いてすぐ、バッグから白い箱と狭間の本を取り出し、机の上に並べた。今日は何だか不思議なことが連続して起きた日だった。そういえば、不思議な鍵も拾ったっけ。私はポケットから鍵を取り出し、本の上に置いた。

本と鍵はいいとして、この白い箱の中身は何なんだろう。箱といっても堅い紙のような素材で、カッターを使えば無理やり開けれそう。でも一応誰かの物かもしれないし、乱暴な開け方はしたくない。そう思いながら鍵を右手でギュッと握りしめてみた。

カチャン

一瞬何が起きたのかと思った。でも確かに鍵が開錠されていて、箱はいつでも開ける状態になっていた。私は握っただけなのに、なぜ開錠したんだろう。それとも、元々鍵なんてかかっていなかったのか?

私は静かに箱を開いてみた。すると中には、二つ折りの紙が二枚と、新聞紙にくるまれた何かが入っていた。少し重量がある箱だったから、おそらくこの新聞紙の中身が、重たい何かなのだろう。とりあえず、紙を順番に開いてみることにした。


一枚目の紙を開くと、中に小さな写真が挟まっていた。見知らぬ男性の顔写真だ。高校生だろうか?ブレザーの制服を着ていて、少しパーマのかかった茶髪の今時の若者だ。私は記憶力がいい方だけど、この男性には見覚えがなかった。

多佳子「誰だろう...。」

紙には「坂本俊輔17歳。青春高校二年生。住所は静岡県浜松市○○町123-321ベルトール205号室。」と書かれていた。この写真の男性のプロフィールだろうか。名前にも全く聞き覚えがなかった。明らかに赤の他人だ。

多佳子「この人が何だっていうの。何かの重要人物?」

疑問は晴れないままだけど、二枚目の紙を開いてみる。そこには「もう一度セネクトメアに行きたければ、彼の頭か心臓を撃て。弾は一発しか入れてないから慎重に。」と書かれていた。まさかの内容に背筋が凍る。撃てって。漢字から察するに、犯罪行為であることは間違いなかった。

多佳子「ということは...まさかこれは...。」

恐る恐る新聞紙を剥がしていく。中身は想像できたけど、そうでないことを祈っていた。しかし今ここで祈ったところで中身は変わらない。そして私の予想は的中した。新聞紙の中には、見慣れた銃が一丁と身体にぴったりフィットする黒いボディースーツが入っていた。

多佳子「え...嘘でしょ...。」

しかもその銃は、セネクトメアでアライに作ってもらった、私専用のレーザー銃だった。現実世界にはない、SF映画にあるような銃をイメージして作ってもらったんだ。無意識にアライの顔が思い浮かび、懐かしく思いながらも、この銃が現実世界に存在していることに驚きと戸惑いを隠せないでいた。黒いボディースーツも、私が難易度の高いミッションの時だけ着用していた戦闘服と全く同じだった。


一旦落ち着いて考えてみよう。まず、今いる世界は現実世界だから、これは立派な脅迫というか強要?この銃が本物かどうかは分からないけど、日本では銃を持ってるだけで犯罪者になる。というかなぜセネクトメアでしか見たことのない銃とボディースーツがここにある?この手紙を書いて白い箱に入れたのは一体誰?何ひとつ分からない。

それとも、今いる場所を現実世界と認識しているだけで、実はここがセネクトメアとか?いや、でもそれはない。現実世界とセネクトメアでは、風景が違いすぎる。セネクトメアは常に夜だし、リンカーは数万人にひとりの割合でしか誕生しないから、こんなに沢山の人たちがいるわけない。ここが現実世界であることは間違いない。

この銃は本物なのだろうか。手に持ってみると、今まで使い慣れた感触が蘇ってくる。これは私が今までセネクトメアで愛用していたレーザー銃だ。でも弾が一発しか入ってないから、試し打ちするわけにはいかない。

というか、あの坂本という高校生を撃てばセネクトメアが復活するなんて、どういうことだろう。撃つわけがないけど、人ひとりが死ねばセネクトメアが復活するなんて、どう考えても理屈が分からない。これは単なる脅迫かもしれない。でも手紙を書いた人は、なぜこの高校生を殺したいんだろう?本気で殺したいなら、自分でやるか周りの人間に頼めばいいのに。自分に繋がる証拠を残さないためだろうか。

それとも、この高校生がセネクトメアを壊した張本人?殺されて当然の何かをした人物とか?確かなのは、この白い箱を用意した人物は、リンカーであること。そうでなければ、そもそもセネクトメアの話を知らないし、私の装備品も知らないはず。本当に誰だろう。私の知ってる人だろうか。


いくら考えても、答えが見つかるはずなかった。でも唯一のヒントは、この坂本俊輔という人物がセネクトメアに関わっていること。もしかしたら彼は、私が知らない何か知っているかもしれない。それとも危険人物なのか。さすがにセネクトメアにもう一度行きたいといっても、殺人をしてまで叶えたい望みじゃない。でも、彼と会って話してみたら何か分かるかもしれない。

浜松市か。小さい頃住んでた懐かしい場所だ。私の住む茨城から、新幹線を使えばそう遠い場所でもない。行くだけ行ってみようかな。思い立ったからには、実行せずにはいられないところが私の性分だ。このまま分からないことだらけじゃ、他のことが手に着かないし。

そして私は、少し大きめのバッグを用意して、着替えやお泊りセットを詰め込んだ。一応、手紙と銃とボディースーツも入れておく。銃で人を撃つつもりなんてないし、このボディースーツを着て歩いてたら変質者だと思われるから、多分着ることはないだろうけど。

それからすぐにお風呂を済ませて、髪を乾かして眠りについた。意識が遠のく中、本の上に置いた鍵がわずかに赤く輝いている気がした。


セネクトメア番外編「スピカの大発見」 完。


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