【第三十話】セネクトメア 第二章「忘却のパラレルシフト」

【前回までのあらすじ】

この世界線では、リンカーもセネクトメアに入れなくなっていた。2週間前にセネクトメアで、何らかの異変が起きていたことを記世姉から聞かされた主人公。果たしてセネクトメアは消滅したのか、それともただ入れないだけなのか。


~現実世界・教室~

記世姉からセネクトメアの話を聞いてから、頭の中はセネクトメアのことばかり。他のことは全く考えられずにいた。貴ちゃんが生きてる世界線にパラレルシフトしたのはいいけど、セネクトメアに行けないのは残念すぎる。しかもこの世界線では、俺と貴ちゃんは友達じゃないらしく、なぜか周りにはヤンキーっぽいヤンチャな奴らばかりが寄ってくる。前の世界線と違い、俺もこいつらと同類の人間なのだろうか。

パラレルシフトをする前も後も、授業や学校生活がつまらない。ただ登校して時間がすぎるのを待ちながら、考え事ばかりしてる。前は貴ちゃんを生き返らせる方法、今はセネクトメアがどうなったのか。しかも誰にも話せないし答えも難しすぎる内容ばかり。さすがにゲンナリしてくる。


キーンコーンカーンコーン

朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り響く。数秒後に担任が教室に入ってくる足音が聞こえたが、俺は気にせず窓の外の風景に目を向けていた。人間関係も変わり、セネクトメアにも行けない。この世界線は、前と似ているけど全然違う。変わらないのは町の風景だけ。パラレルシフトをしたから当然のことだけど、少し寂しく感じる。ホームシックのようなものかもしれないけど、もうあの世界線に戻ることはないし、戻ったところで貴ちゃんはいない。でも後悔はしてない。今は死んでいたはずの親友が生きていて、これからも人生を送っていけるなら、小さな犠牲だ。


そんなことを考えていたら、教室の中がざわついてることに気づく。クラスメイトたちを見てみると、みんな前にある黒板の方を見ている。その視線の先を辿ると、担任の隣に一人の女子生徒が立っていた。転校生だろうか。

「超綺麗じゃない?」

「芸能人?」

「CGレベルにかわいい。」

周りから男女問わず、絶賛の声が上がっている。そんなにかわいい女子なのか?俺の席からは、ちょうど担任の影になっていてよく見えない。

担任「はい静かに。今日から転校してきて、このクラスの一員になる神野姫子(かみのひめこ)さんです。皆さん、仲良くしてあげて下さいね!困っているような時は、ちゃんと助けてあげるように!じゃあ、挨拶して。」

担任がそううながすと、転校生が担任と入れ替わりで教壇の前に立った。確かに綺麗だけど、どこかで見たことあるような...。ていうか、え?!うそ?!神姫じゃん!!


姫子「はじめまして。今日からこの学校に転校してきた神野姫子と申します。あまり人と関わるのは得意ではありませんが、よろしくお願いします。」

姫子はそう言うと、小さくおじぎをした。その凛とした気高い雰囲気はそのままだけど、髪の色は銀髪ではなく黒髪で、服装も巫女装束ではなく他の女子生徒と同じ制服だ。どういうこと?スサールである神姫は、現実世界には来れないはずなのに。

担任「みんなに注目されちゃうから、神野さんは一番後ろの窓際から二番目の席に座って。」

姫子「はい。」

そして姫子は、一番後ろの窓際から二番目の席、つまり俺の隣の席に着席した。みんな姫子に注目してる。中には俺の方を見てひそひそ話してる人もいる。

力也「おい俊ちゃ、手ぇ出すなよー!w」

新田「明日から来なくなったら俊ちゃのせいだからねw」

例のふたりがちゃかしてくる。個人的には仲良くない感覚だけど、仲良しグループのようなので適当に合わせておく。

俊輔「いや、逆にこの子の方が俺に惚れてるから!」

俺がそう言うと、クラス中が笑いに包まれ、和やかな雰囲気になった。でも肝心の姫子が無表情なので、静まり返るのも早かった。

俊輔「あ、冗談だから気にしないでね。」

姫子「分かってます。」

姫子は目を合わさずに無表情のままそう答えた。人と関わるのが得意じゃないと言っていたから、なかなか心を開かないタイプかもしれない。というか近くで見ると間違いなく神姫だ。何で現実世界にいるんだろう。どうやって?それとも、この世界線では神姫はスサールじゃないのか?

散々色々考えていたのに、更に疑問が増えた。姫子は俺のことを知ってるのだろうか。それとも今が初対面なのか。この世界線のパラレルシフト前の記憶がないから、何も分からない。


それからは他のクラスの人たちも姫子を見に来たり、クラスメイトもコミュニケーションを取りに来たりして、いつもより慌ただしい雰囲気だった。セネクトメアについての話をしたかったけど、常に周りに誰かがいる状態だったから、俺は姫子に話しかけることができなかった。

昼休みになり、俺はパンとジュースを持って屋上に向かった。屋上には誰もいないから、今は学校の中では一番落ち着く場所だ。そういえば元の世界線でも、ポコとパッパラと最後に過ごしたのはこの屋上だった。あれからそんなに時間は経っていないのに、凄く懐かしく思える。

屋上に出てからすぐに座り込んで、パンを食べながら空を見上げる。空が真っ白な雲一面になり、雪のようなものが降ってくる状態を想像してみる。普通の曇り空はグレーだから、真っ白な空は見たことがない。でもそれはとても綺麗な景色かもしれない。更に雪のようなものが降って、自分が宙に浮かぶるとなると、幻想的な感覚と景観のように思えた。


そんなことを想像していると、屋上の扉が開いた。目を向けると姫子がいて、姫子もこちらを見ている。

姫子「あ。」

俊輔「どうも。」

姫子は俺を見て少し固まっている。言葉が見つからず、少し驚いてるように見える。

姫子「ここって入ってもいいの?」

俊輔「本当はダメだけど、別にいいんじゃない。」

屋上は、校則では一応立ち入り禁止になっている。でも鍵は内側と外側の両方からかけられるし、チェーンなどで入れなくなってるわけでもないから、入ろうと思えば誰でも入れる。だからたまに人が来ることも珍しくなかった。

姫子「ここ座っていい?」

俊輔「どうぞ。」

姫子が少し離れた場所に座り込んだ。そして袋からおにぎりと牛乳を取り出して食べ始める。とりあえず記世姉と同様に、セネクトメアのことは知らないふりをして普通に話してみよう。

俊輔「まだ半日だけど、学校生活はどう?」

姫子「想像してたとおり、やっぱりちょっと居づらいかな。私、人が好きじゃないから。こういう大勢の人が集まってる所にはあまりいたくない。」

俊輔「時間が経てば慣れるし、その内少しずつ周りも落ち着いてくるよ。一ヶ月もすれば夏休みに入るし。」

姫子が本当に神姫だとしたら、こういう会話をするのは新鮮だ。いつも俺が教えてもらうことが多かったから。そういえば、貴ちゃんを生き返らせる方法を教えてもらう条件として、神姫を現実世界に連れて行くって約束してたっけ。この状況は、俺がその条件を満たしたことになるのだろうか。

俊輔「姫子は、ここに来る前は何してたの?」

姫子「別に普通だよ。でもあんまり覚えてない。何となく、そうだったかなーって感じ。」

何となくクールなところは神姫と同じだけど、心の距離を感じる。神姫は、俺とふたりきりの時は優しくて暖かい感じだったけど、姫子は心の底から俺に興味がない雰囲気。似てるけどやっぱり別人なのかな?

姫子「でも最近は、何か色々と違和感あるんだよね。前からこんなんだっけ?って思うことが多くて、凄くつまらない。しかも、大切な何かを忘れてる気がする。」

俊輔「そうなんだ。俺もそうだよ。前とは同じようで全然違ってて、失った大切なものを取り戻すことはできたけど、代わりに他の大切なものを失った感じ。何となく孤独感も違和感もある。考え事ばかりでめんどくさいから、こうして一人で過ごしたいと思うようになっちゃった。」

姫子「私と同じだね。現実のはずなのに現実味がなくて、変な感じ。まるで夢の中にいるみたい。」

壁にもたれながら軽く首をかしげて遠くを見つめる姫子は、凄く寂しそうに見えた。姫子の正体は何だろう?神姫そっくりの姫子が現れたのは、セネクトメアに行けなくなったことと何か関係があるのだろうか。疑問と謎は増え続ける一方だ。


続く。


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