【第五話】セネクトメア 序章「始まりのナイトゲート」
【前回までのあらすじ】
現実と夢の狭間にある世界『セネクトメア』には、四種類の職種があることを知る主人公。彼が選んだ職種は・・?
俊輔「どの職種にしようかなー?」
ギブ「急いで決めなくてもいいぞ。ちなみに、無職のままでいることもできる。」
さすがに無職はつまらなそうだ。
そう思った次の瞬間、部屋が真っ白になった。
数秒経って白が少しずつ薄れていくと、目の前に神姫が現れた。
神姫「久しぶりね。片割れ。」
彼女は、また少し宙に浮いていて、相変わらず俺のことを片割れと呼ぶ。
ギブソン達は突然のできごとに驚いているが、臨戦態勢を整えていた。
俺は言葉が出てこず、神姫と目が合ったまま、口をポカンと開けていた。
神姫「あなたが目覚める前に、ひとつだけ伝えておきたかったことがあるの。」
何だろう。とりあえず、聞くことに集中して言葉を待つ。
神姫「近い内、現実世界で、あなたの身の回りに、ある変化が起きる。それに対して、あなたは違和感を感じるでしょう。その違和感を、何としてでも解決しなさい。」
ある変化?違和感?解決?
俊輔「そんな曖昧なこと言われても分からないから、何が起きるか教えてよ。」
神姫は、口角を少しだけあげると、また話し出した。
神姫「私達スサールは、現実世界に干渉できない。だから現実世界の未来を変えることをしてはいけないの。だから具体的なことを教えることはできない。」
そんなルールもあったのか。どうやら、俺が知らないこの世界のルールは、まだ沢山ありそうだ。
神姫「もしその違和感を解決できなければ、あなたは一生後悔することになるか、命を失うかもしれない。」
え!?そんなに重要な事件が起きるのか!?一生後悔するか死ぬかもしれないって、とんでもない一大事だ。
神姫「今ならまだ間に合う。あなたの力で、未来を変えなさい。」
そう言い残すと、部屋がまた白くなり、その白が消えた時には、もう彼女の姿はなくなっていた。
ギブ「何だったんだアイツ。わざわざ予言しにくるなんて。」
ギブソンが、あごに手を当てながら考えこんでいる。
俊輔「でも忠告しに来たってことは、少なくとも敵意はない気がする。」
ギブ「しかも今回は、お前をさらう気もなかったようだな。もうすぐ目覚めるからかもしれないが。」
俊輔「そんなことも分かるなんて、やっぱりスサールは特別なんだね。」
ギブ「あいつは別名『全てを見通す巫女』って呼ばれてるからな。今と過去のことは全部知ってるし、未来もある程度見通しちまう。恐ろしい奴だ。」
全てを見通すって・・。凄いと思う反面、それはそれで大変そうな気がした。
そう思っていると、突然視界がぼやけて、感覚が薄れていく。もしかしたらこれが、目覚める感覚なのかもしれない。
様子に気がついたギブソンが、慌てて話し出す。
ギブ「急がなくていいから、職種のことも考えとけよー!」
その言葉を最後に、俺の意識は途絶えた。
目が覚めると、いつもの朝だった。
セネクトメアで普通に行動しているから、眠っている感覚がない。でも眠くもない。何とも言い難い不思議な感覚だ。
いつも通り、支度をして学校に向かう。
セネクトメアは凄く新鮮で、常識がほとんど通用しない。それは刺激的で、好奇心を駆り立てた。現実世界にはない面白さが、あの世界にはある。
起きたばかりだというのに、早く夜が来て眠りたいと思った。
神姫が言ったように、今日は違和感を見逃さないようにしよう。何かいつもと違う変化があるはずだ。
そう自分に言い聞かせると、少し緊張する。一生後悔したり、命を失うわけにはいかない。
教室に入ると、パッパラ(粂田紀映加)が飛びついてきた。
粂田「俊ちゃー!聞いてよー!この間デートした男、やっぱりダメ男だった!私にはフリーって言っておきながら、実は彼女が二人もいたんだって!」
少し悲しそうで、少し怒っている表情で、早口でまくしたててくる。これも変化のひとつだろうか?なら解決するしかない。
俊輔「パッパラは、そいつのこと好きだったの?」
粂田「恋愛対象にはなるかなー程度だったから、別にいいんだけどね!でもやっぱり私は男見る目なかったっていうのがショック!何でいつもダメ男ばかり寄ってくるんだー!」
う~ん・・。これはやっぱり、変化ではなく、いつものことだな。
俊輔「たまには誠実そうな人と恋愛してみればいいじゃん。」
粂田「でもさ、やっぱりちょっと危ない雰囲気の男の方が、魅力的にみえるじゃん?でもそういう奴って、大抵ロクな奴じゃないよね!」
うん。これやっぱりいつもの日常だ。この会話、もう何十回も繰り返してる。
俊輔「まぁまぁ。付き合う前に分かって良かったじゃん。これからは、厳しめに男を判断していけばいいよ。」
粂田「それができたら苦労しないんだけどねー。」
納得したのか納得してないのか、よく分からないけど、パッパラは、トボトボ自分の席に向かって歩いて行った。
朝一番から慌ただしかったな。
そう思い、俺も自分の席に座る。
間もなく朝のホームルームが始まった。貴ちゃんはギリギリ間に合ったが、ポコ(秋山智美)の姿が見当たらない。
あいつが遅刻するなんて珍しい。これも変化か?何かあったんだろうか。
急いでスマホを取り出し、「どうした?大丈夫?」とラインを送る。
ポコから返信がないまま、昼休みになった。
貴ちゃんとパッパラと一緒に弁当を食べていると、ポコが現れた。
智美「おはー!めっちゃ遅刻しちゃった!」
俊輔「おー!どうしたよ!」
すかさず遅刻した理由を聞き出す。
智美「実は昨日から色々悩んでて、調べたりしてたら寝るの遅くなっちゃってさー!起きたらもうこんな時間だったw」
俊輔「何を悩んでたよ?」
智美「高校卒業した後、何しようかなー?って。で、色々考えたんだけど、私海外好きじゃん?だからオーストラリアにワーホリにでも行こうと思って!」
何を言い出すかと思えば、オーストラリアに行くって!?
これは大きな変化だ。でも違和感はあまりない。突然のできごとに驚いたけど、こいつらしいと言えばこいつらしい。
粂田「えー!じゃあポコと一緒にいれるのは、あと2年もないってこと!?」
智美「そんな大げさなことじゃないよー!とりあえず三ヶ月くらい行ってみて、また行くか行かないか決める感じ。就活とかめんどくさいし、進学なんてするつもりないし!」
貴人「いーなーオーストラリア。俺も行きたいな。」
智美「貴ちゃんも行く!?何か未知なる世界に飛び出す感じで楽しそうだよね!」
オーストラリアより、セネクトメアの方が数倍楽しそうだけど、まだみんなにその話をする気にはなれなかった。
貴人「ごちそうさま。」
粂田「あれー?貴ちゃん、もう食べ終わったの?いつもより早いじゃん!」
貴人「練習キツイし、最近暑くなってきたから、食欲ないんだよね。」
貴ちゃんが、弁当箱のフタを閉じる。中が少し見えたけど、完食してないようだった。いつもの貴ちゃんらしくない。
これも変化だろうか。確かに違和感はある。
でも食欲ない原因が、練習の疲れと暑さなら、どうやって解決すればいいんだろう?
俊輔「毎年この時期はそうだったっけ?」
貴人「そうだね。いつもってわけじゃないけど、こういう日もある感じ。」
俊輔「ケガとかして身体壊すくらいなら、ちゃんと休みなよ?」
貴人「うん、センキュ。」
神姫の予言は、貴ちゃんの食欲のなさだったのか?だとしたら、貴ちゃんを休ませるように、野球部の監督にお願いしてみようかな。
でも待てよ。違和感を解決しないと、一生後悔するか、命を失うってことは、他人じゃなくて自分自身への変化ってことじゃないのか?
周りにばかり気を取られていたけど、自分自身の変化は、何かないだろうか。
そう考えて、気を張りつめながら自分と周りに注意してみたけど、結局登校時間になっても、何も違和感を感じるようなできごとはなかった。
帰宅部の俺は、学校が終わると、すぐに家に向かって自転車をこぎ始めた。
ある事情により、俺は高校生の身でありながら、一人暮らしをしている。生活費は親に出してもらっているが、家事は自分でこなさなければいけない。周りからは「大変だね」「凄いね」って言われるけど、俺からしたら、実家に住む方がよっぽど大変だった。
俊輔「ただいまー。」
誰もいない部屋に帰宅して、カバンを放り投げ、ベッドの上に仰向けに寝転ぶ。
俊輔「変化や違和感って何だろう・・。」
夕焼けに照らされた天井を見上げながら、今日一日を振り返ってみたけど、特に身の危険を感じるような変化や違和感はなかった。
でも神姫が、わざわざ俺に忠告しに来たってことは、多分、今日起きる何かのはず。でもそんな今日も、もうすぐ終わる。
俊輔「着替えてスーパーにでも行くか・・。」
そう思って着替えて、カギとスマホを持って、財布を探す。
・・ない。どこをいくら探してもない。財布がない!!
顔面蒼白になりながら、背筋が凍る感覚がまとわりつく。
まさか、財布をなくした、だと!?
それは非常にマズイ。だってあの財布には、今月の生活費3万円がはいっていた。それがなくなると、俺はもう今月は何も買えなくなる!
え!?まさか神姫が言ってた変化や違和感ってこのこと!?財布をなくしたことに早く気がつけってことだったのか!?
てか、なくした?盗まれた?どっち!?
そんなことよりも、まずは財布をなくした可能性のある時間や場所を考えてみる。
学校に行って、昼休みにジュースを買った時、財布は確かにあった。そして今はない。この間になくなったということは、財布は学校か通学路のどちらかでなくしたことになる。
俺は急いで自転車に飛び乗り、注意深く通学路の地面を見ながら、学校へ向かった。
通学路には、財布は落ちていなかった。ということは、学校だろうか。それとも、誰かが交番に届けてくれたのか。
財布の中には、原付の免許証が入っているので、交番に届いていれば、実家に連絡が入り、親が俺のスマホに連絡をくれるはず。それがない内は、必死で探すしかない。時間が経てば経つほど見つかりにくくなる。
学校に到着すると、急いで教室に向かい、自分の机の中を探る。こんな所に財布を入れることはないが、今はわらにもすがる思いだった。
当然のことながら、机の中に財布はなかったので、職員室に向かう。先生に財布が届いてないか聞いてみたけど、残念ながら届いていなかった。
俊輔「はぁ~。」
深いため息をつきながら、自転車を押してトボトボ歩く。一体どこで財布をなくしたんだろう。どれだけ考えても見当がつかないので、やはり誰かに盗まれたのかもしれない。
でも冷静に考えてみると、たかが三万円を失ったくらいで、一生後悔したり、命を失ったりするだろうか。
事情を話せば、親がお小遣いをくれるだろうし、友達にお金を借りることもできる。最悪、死ぬくらいなら、万引きして食料を確保すればいい。たかが三万円を失うことが、命にかかわる何かに繋がるとは思えなかった。
そんなことを考えていると、自転車に乗った見知らぬ男子高校生が二人、こっちに向かって来ていることに気づいた。
男A「おい返せよー!先に見つけたの俺だからなー!」
男B「お前のものは俺のものー!俺のものは俺のものー!」
そう言い放つ男の手に握られていたのは、俺の財布だった。
続く。
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