見出し画像

うなぎパイ

久方ぶりにnoteへログインすると【登録して一年記念】とポップアップが出た。通常、noteユーザーはあれから一年か…と浸って、これまでを振り返ったり、投稿した記事を読み返したりするのかもしれない。しかし私は一年間でたった一件しか投稿していない、不良ユーザーだ。初めから不良だったわけではない。当初はエロい話や画像でバズってバンバン稼いでやる!と息巻いていた。しかし、我が身にエロい事象なぞが一切起こらず投稿しないままと、いうのはまるっと嘘で、ただめんどくさくなって書かなくなっただけである。なんという体たらく。

そんなヤル気0で年数だけ過ぎてしまった物を、なぜ今更投稿することにしたのか。

思い出したのだ。私は。なにを?

『うなぎパイ』

恐らく、今ぐらいの時期か、もう少し夏に差し掛かった時分。小学生だった私は、汗をダラダラ流し帰宅した。玄関を入れば家中クーラーで冷え切っており、外とは別世界のような快適さ。おかえりー、と、母がいつものようにテレビを見ながら声をかけてきた。ただいま、と近付く。母は何かを食べている。これもいつものことだ。しかし、今日は少し様子が違う。母は見たこともない長細いお菓子を食べている。私は母に尋ねた。

「それ、なん?」

「ああ、これ?今日、面白いことがあったんよ!若いお兄ちゃんがこれを売りに来てさ。こんな奥まったところまで来るの珍しいけん、話聞いちゃろうっち思って聞いたら、僕は今日、うなぎパイを売りに来ました!って、このお菓子持って来てからさ、じゃあ買っちゃろうっち買ったらね、売れたら踊れと言われてますので、ここで踊ります!!っちいきなり踊り出したんよ。その踊りがおかしくてからさ。」

※補足。私は山間にある田舎町の出身だ。実家は森の中の隠れ道のようなところに位置していた。何故か地図にもその道の記載がなく、知らない人はこんなところに家があるなんて思いもしない場所だった。当時はネットがなかったので、町では訪問販売が盛んだったが、うちまで辿り着くことは稀であった。話に戻そう。

「踊り?」

「そう、あれは目の前で踊ってもらわんと表現し難いねー。いやぁ、おかしかったばい。(注:面白かったよ、の意)」

母はそう言いながら思い出し笑いをした。私は、どうしてもその踊りが見たくて見たくて仕方がなくなった。言葉で表現できないほどの踊り。思い出し笑いをするほどの踊り。見たい、是が非でも観たい。

「えー、見たかったぁ。」

「また来るっち言いよったけん、また来るやろ。」

今なら検索すれば、YouTubeに動画があるかもしれない。そのお兄さんが誰なのか、わかるかもしれない。個人のTwitterなんかも見つけて、恋が始まってしまうかもしれない(妄言です)

当時は携帯電話すらない時代。また来る、という言葉を信じて待つしかないのである。大らかだ、なんと、大らかな感覚。来る、信じる、待つ。

私は毎晩、うなぎパイのお兄さんについて妄想した。顔はもちろんかっこいい。良く通る声で、はっきり喋る。服装は全身黒で、忍者のような出立。手にはザルを持っているという造形に落ち着いた。なぜザルなのか、今思えば、うなぎとどじょうすくいと混同した結果だが、当時はしっくりきたので、ここで着地した。名も知らぬ彼はこのように形作られ、私は答え合わせをする日を待った。

長くなったので、また明日。

つづく(はず)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?