施策立案における仮説的推論の可能性を考える(その1)。

現在、今回のコロナウィルスへの対応に関する施策立案について、議論が分かれています。この評価については、迅速かつ精緻な分析が必要と考えますが、収束後に再検討が必要かと思います。

今回は、2015年度以降の地方創生施策の結果において、検討します。結果として、多くのメディア、報告書が示しているとおり、目標値と実態値では幅は大きいです。代表的な指標としては、以下の指標で示されています。国レベルのKPIの達成率は2018年度で数値目標を定めており、現時点で目標を達成している施策は11%でした。

内閣官房ホームページ「まち・ひと・しごと創生本部」 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」策定に関する有識者会議(第2回)参考資料2https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/senryaku2nd_sakutei/h31-04-09-sankou2.pdf

検討すべきは、最終的に、なぜこのような結果になったのかではなくて、なぜ当初2015年度値〜2019年度(現状、2018年度値しか分かりませんが)の間、絶えずKPIの進捗率が上昇傾向にならなかったのかということです。

施策立案の基本としては、プロジェクト((事務)事業)→プログラム(施策(目標))→ポリシー(政策(目標))、→は因果律における手段と目的の関係になります。と言うことは、事務事業を実施すれば、施策目標は達成できる。施策目標を達成すれば、政策目標は達成できる。という三段の論理で成り立っています。この三段の論理は裏返せば、原因と(中)結果→(大)結果と対になります。原因があり、それは状況を悪化させ、状況の悪化は悪い方向での大きな状況の悪化につながっていきます。昨今のEBPM(Evidence Based  Policy-Making)の議論は、まさしくこの関係性を統計学的に根拠づけするものの一つと整理できます。

そして、本稿でとりあげる「仮説的推論」は、この三つの関係性が上手くいかなかった場合の本当の原因をどのようにして探り当てるのかという問に答えるものの一つと言えます。仮説的推論とは英語ではアブダクションともいわれます。米国のプラグマティストであるパース(1839-1914)の論考が代表的です。パースについては以下を参照;https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%B9。日本における代表的な論者である米盛裕二によれば「アブダクションは、最初にいろいろな仮説を思いつく思索的段階とそれらの仮説について検討し、そのなかからもっとも正しいと思われる仮説を選ぶ熟考的推論の段階から成り立っています。(中略)要するにアブダクションは正しい仮説の形成を目指して意図的に用いられる方法であり、従って十分意識的に熟考してもいられるのであれば、科学的発展の推論の方法となり得る」(米森, 2007)と指摘されています。

本稿は、我々はなぜたえず新しい仮説を導き出せなかったのかを、パースなどの仮説的推論の議論をひもときながら検証してきます。

【次はその2へ】

参考文献; 米盛裕二(2007)『アブダクション―仮説と発見の論理』 勁草書房




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