ある人の日常(#2)
「なぁ、落ちついて聞いてくれよ」
「まぁいいが、まず落ち着くのは君のほうじゃないかススム」
俺はススムに呼び出されて終電もないこの時間、タクシーを飛ばして行きつけのバーに到着した。
その直後だった。
数人の男に囲まれ、見たところ全員が何かしらの武器を手にしている。
もちろんススムの姿はなく、俺はすべてを悟った。
騙されたのだ。
「やぁ、穏やかじゃないね。何が目的なんだ? 金か? ただ残念だ、生憎今は$100も持っていない。日を改めてはどうだい?」
連中は何も言葉を発しない。
ただ武器をこちらに向けたまま、まるで誰かの指示を待っているかのように、状況に変化は見られなかった。
「どうだ、$100で手を打たないか。これを取られてしまうと明日からの生活が厳しいが、俺も穏便に済ませたいんだ」
男らは互いに顔を見合わせたあと、地面を指さした。
ここに置いて去れと、そう言っているかのようだった。
俺は$100を指定された場所に投げた。
奴らは数を数えている。
俺は質問を重ねた。
「もし知っていたらでいい、ススムという男に聞き覚えはないか? 身長はそうだな、俺と同じくらいで、ひげを蓄えている。どうだ?」
男は口を塞いだままだった。
「もし君たちがススムを解放するなら$10,000用意しよう。今すぐにとは言わないが、アテはある。これでも俺はもともとそっち側の人間だったんだ。嘘じゃない。今は足を洗ったが当時の相棒はまだまだ現役だ」
この時、初めて男の一人が口を開いた。
「信じられないな、証拠はあるのか」
「あるにはある。ただし条件がある」
「聞こう。ただし、お前が場をリードできる状況じゃないことを覚えておけ」
「オーケー、条件は簡単だ。こいつで決める」
俺は1枚のコインを取り出した。
「こいつが裏ならすべてを言うとおりにしよう。ただし表だった場合、俺が$10,000を出したあと、ススムを解放してほしい」
「お前のメリットは」
「メリット? 言わずもがな、ススムが解放されることだ。金は惜しいが人の命には変えられない」
男どもはしばらく悩み、「いいだろう」という回答を出した。
俺はニヤリと笑みを浮かべ、こう告げた。
「でもただのコイントスっていうのも面白くない。どうだ、俺がコインを投げて、そっちがキャッチする。かなり平等じゃないか?」
「いいだろう。早くしろ」
「そんなに急かさないで。俺の人生がかかってるんだ」
ポケットからコインを1枚取り出し、「じゃあ、これでいくぞ」と間髪入れずにコインを男どもに向けてトスした。
「おい! どこに投げてるんだ」
「申し訳ない」
俺は起爆スイッチを押した。
「それは罠だ」
瞬間、大量の催涙ガスが噴出し、俺は用意していたガスマスクを着用し、苦しんでいる男どもをかき分け、奥へと進んだ。
「おいススム、何をやってるんだ!」
「助かるよ。この縄をほどいてくれないか」
「$10,000だ」
「は?」
「払えないならここまでだ。男どもがやってくるぞ」
「は、払うよ! だから早く──」
「ほどいた。先を急ごう」
用意しておいたレンタカーを飛ばしながらススムはひたすら感謝の言葉を並べた。「あのままだと死んでいた」「お前は命の恩人だ」
「んだことどうでもいい。奴らは誰なんだ」
「なぁ、落ちついて聞いてくれ──」
ススムといるといつも災難ばかりに遭遇する。
今回もどうやら俺は無駄に敵を増やしてしまったらしい。
さて、ここからどうすることやら。
とりあえず──
「サンドイッチでも食べながら考えよう」
まずは腹ごしらえだ。
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