【マジカミサービス終了物語 ~黒いセイラの世界より~】1
【マジカミサービス終了物語 ~黒いセイラの世界より~】
第1話 「- 凶報 -」
2023年10月31日 PM00:01
真っ暗…………ううん、目を開けてないのかも…………。
声がでないみたい…………ちがうわ、聞こえてないのかも…………。
からだが動かない…………そうね、指先から少しずつ…………感覚が……ないみたい…………わたし……息を……しているのかしら…………。
時間は遡る。8月23日、早朝。
私、袖城セイラの朝は早い。怪しい新聞を読みながら、今日できるであろう「ワルイコト」を夢想してほくそ笑む……。美しくも邪悪ならしいその微笑みは、産みの母をして「もらい手があるのかしら」と嘆かせている。
しかし今朝の私は違った。目を見開き、肩は小さく震えていたんじゃないかと思う。
起床してリビングに現れた父は、私の異様な姿を見て驚いて声をあげた。
「だから、あれほど拾い食いはやめろと!」
普段なら父の尻に回し蹴りをかましてあげるところなのだけれど、一息おいて私は静かに言葉にした。
「…………マジカミ……サ終だって…………」
「ほら、あなたの愛車! ホワ〇トベースって呼んでる白いハ〇エースワゴン。あれ出してよ! …………そうよ! 30日! 夕方には出発して泊まりになるわ。…………あたりまえでしょう、あなたは車中泊よ!」
午前中には動きはじめていた。私にとって世界の終わりである事態の情報を知ってから半日と経っていないけど、じっとしていられなかったから。学校? サボったに決まってるじゃない。
「スーパームーンなのよ! 年に一度の機会よ、逃す手はないわ! 儀式よっ!! …………あなたは理解しないだろうから……」
通話の相手は牧田(イベントストーリーで2回登場)。かつての渋谷の半グレのボスも、いろいろと弱みを握って今ではすっかり私の手下になってるんだけど……覚えてないわよね?
「準備もいるから人手も欲しいわね。チャラ男(汎用モブ1号)とフードの男(汎用モブ2号)も捕まえてきてっ!」
理由も話さないで強引に命令したからかしら、牧田は少しゴネてたわ。私だってこれから何がおこるかわからないのに。
「だから、あなたの仕事より私の用事の方が大事に決まってるじゃない! …………いいわ! そういう態度なら、私、おしゃべりさんになるから。 明日から渋谷の街、歩けないわねっ!!」
イラついてきてたから、ちょっとキレ気味。
「…………わかればいいのよ。ここあ達には私から連絡入れておくから迎えに行ってあげてね。…………言わなかったかしら? 目的地は――グンマ――よ!」
午後のメンテナンスが開けたわ。そしてアイアムマジカミのサービス終了が公表されると同時に、世界は一変してしまったの。
8月30日、午後、車中
「おにぎり食べるにゃ~!? いーーっぱい作ってきたよー!」
「ここあちゃん、チョー天使!」
「あたし食べたーい!」
「ウ、ウチももらおうかな~」
「僕もください」
車中はとっても賑やか。みんな小旅行気分ではしゃいでる……みたいにふるまっていたわ。こんな状況じゃなかったらホントに楽しかったかも。
ひとりだけ寡黙にハンドルを握っていた牧田が、我慢しきれなくなったのか口を開いたの。
「……お嬢はこうなるって知ってたんだよな!? 街中から人が消えちまったんだぞ! どういう事なんだよ!?」
あっ……、お嬢っていうのは私のことね。なんていうか、配下? にはそう呼ばせてるの。なんだか、らしいっぽくてよくない?
「そうね、おそらく――存在力――っていったらいいのかしら? それが低い人達が消えたのよ――――この物語の世界で役割の無い人達――――」
「それじゃあ今日の仕事を引き受けてなかったら、オレ達も消えてたかもって事なのか……?」
ずいぶんと省いたけど説明はしてあげたわ。みんなも黙って聞いてた。魔法少女達とはすでに話し合っていたけど、この話題になると当然みんな憂鬱になるのよ。
――――私達がゲームのキャラクターで、そのゲームが終了して、みんな消えちゃうなんて――――。
「……黙って消える気はないんだろ?」
「あたりまえでしょう! だから儀式をするのよ。力を集めるの。こんな世界から『脱出』するために!!」
「そんな事できるのかよ?」
「できるわ! ム〇に書いてあったもの!!」
「……ム〇……かよ…………」
「セイラの愛読書にゃ!」
同日、深夜。都内某所、高層ホテル上層階スイートルーム。
私、大鳥丹は全裸のままベッドの上で目を覚ましました。一枚のシーツが掛けられていて、彼との行為の後、そのまま眠ってしまったみたいです。
身体を起こして周囲を見渡すと彼はすでに身なりを整えていて、全体がガラス張りの壁から外を向いてタバコをくゆらせていました。
「…………パパ?」
「起こしちゃったかな? 眠っていてくれてもよかったのに。……いや、月を見ていただけだよ…………今夜の月はね、スーパームーンなんだ。一年で一番大きく見える満月さ。本当に大きい……不気味なほどだね……ははっ」
うしろ姿で見えませんが、私は知っています。こんな時、彼は片側の口角をつり上げて少し怖い顔をしているんです。
「君も見てみるかい。なんだかすごいんだ……」
シーツを裸身にまとって彼の横にならんで月を見上げました。
「わかるかい? 満月の周囲に虹色のようなフィルターがかかっているんだよ。……我が娘ながら……やってくれるね」
「……セイラちゃん……ですか?」
魔法少女の仲間であり、友人でもある少女の名前。あたりまえの事なのに彼女が彼に無条件に愛されているのを自覚すると、やきもちのような気持ちになる自分が嫌になります…………。
彼は両手で髪をなでつけると外を向いたまま告げました。
「さて、僕も行動を起こすとするよ。君とつながったまま消えるのも素敵だけど、娘に負けてられないからね。……君にも協力して欲しいんだけどな?」
私に答えの選択肢はありません。
「心配はいらないよ! すべてはム〇に書かれていた事を実践するだけさ」
「…………ム〇、ですか…………?」
そういえば、セイラちゃんがよく読んでいました。……でもあれって、ちょっとアレなだけの雑誌では…………?
私は不安でいっぱいです。
同刻。グンマ県某市
ドンドンドンドドンドン♪ お〇りお~〇るな~~ら~♪ ピッピッピーヒャラピ~~♪ カンッカンッ♪ チーンチーン♪ ベン〇ラベントラスペ〇スピープル、ベ〇トラベントラス〇ースピープル~!
私は袖城セイラ。ここは市内中央部に位置する小高い山。その山頂に今は一部の石積みだけを残す古城があるの。普段も観光客の訪れないような場所。そんなところに深夜、浴衣姿の私達がにぎやかに踊っていたわ。
ちょっとまって? 少し巻き戻し! ……そうね、この辺からでいいわ。
「いろは! 太鼓、弾幕うすいわ! 何やってんの!?」
「えーーっ!」
「セイラさんっ! カセットってどっち向きでいれるんですか? これでいいのかな~? 東〇音頭?」
「花織! 判断がおそいっ!」
「セイラ~、このカスタネットとトライアングルはどうするん?」
「首からかけて、腰から吊るすの。アルト笛はいい感じに合わせて吹いてね。反復横跳びしながら前進する感じかしら!? 40秒で支度して!」
「きっついにゃ~!」
「護摩壇っぽいものを作ってとは言ったけど。本格的ね! 牧田たちって器用なのかしら?」
彼らは山腹の駐車場に戻らせた。居ても邪魔なだけだし。
ここは知る人ぞ知るって感じのパワースポットなの。山頂だから月に近いし誰も来ない場所なのにそれなりのスペースはある。この儀式には最適な場所のひとつね。
「ピッピッピーヒャラピ~~♪ カンッカンッ♪ チーンチーン♪ こんな感じかにゃ?」
「さすがねっ!」
「ドンドンドンドドンドン♪ セイラちゃん、これでいい?」
「いい感じよ!」
「再生しますね! ――お〇りお~ど〇な~~ら~♪――」
「素敵ねっ!」
私は護摩壇もどきに火を入れ、供物の藁人形を手に取りやすいように並べて呪文を唱えはじめる。
以前エレボスの悪魔たちが移住先をさがしたようにはいかないわ。ここはゲームの世界だから、私達が認識する並行世界もおそらくすべてがこのゲームの内側だと思うの。
だけど、このゲームを作った世界。消そうとしている世界はあるはずでしょう? 力を集めてその世界へ行くの。みんなで脱出するのよ! 消えてしまった人達もふくめて!!
私は大きく立ち上りはじめた炎を背にして、両手をひろげながら宣告した。
「さあ、はじめましょう! ――――死〇の盆踊り――――!!」
「……ウチ、その映画みたことあります」
「史上最低の映画なんだってー!」
「しーーっ!!」
ちょっと奇妙で少し時期はずれな盆踊りのスタートよ!!
つづく