【マジカミサービス終了物語 ~黒いセイラの世界より~】 2

【マジカミサービス終了物語 ~黒いセイラの世界より~】
 第2話 「- 会議は踊る -」


 儀式は続いていた。始めてからどれくらいたったんだろう。疲労と熱気で頭が朦朧としてきてる。時間は、日付を超えたかしら…………。

 ここあったら座っておにぎり食べてるじゃない…………いろは、どこでも寝ちゃうのね…………花織、それってタワーのゾンビみたいよ…………。

 そろそろ限界かと思った、その時! ――――――やっと来たわ!

「みんな見てっ!? 月が!!」

 何回か点滅したように見えた月が、虹色のフィルターに包まれたような姿に変わった。あとは目的地のイメージをあたえればいい。それが道になるはず。

 達成感を感じたと同時に私の意識は遠くなった…………。

「いや~、大成功だったみたいだにゃ~? みんな、おにぎり食べよー!」

「セイラさん大丈夫なんですか? 倒れたままですけど!?」

「あたし様子見たけど眠ってるだけみたいだよ?」

 仲間たちの話し声で目がさめた。とりあえず儀式が成功したことで私はテンションが上がっていた。

「私、しゃけ!!」

「セイラちゃん、おはよー!」

「成功したみたいですね、よかった~」

「今日はお疲れ様! はい、どうぞ! いろはと花織には梅干しをあげるわ!!」

「自分の嫌いな具、人に押し付けたらダメにゃ!」

「ふふっ!」

 いつもながら、ここあのおにぎりは美味しい。少し体力ももどってきた。

「この調子で明日もがんばりましょ!」

「これ、明日もやるんですか?」

「えーーっ!?」

「明日は場所を変えるわ! 行先は――イバラギ――よ!」

「イバラ、キにゃ!」

「こまかいわねっ!!」

 こんな時間を失いたくない。そのくらい望んでもいいはずよね…………。


 
 渋谷、円山町。

 あたしは槍水りり、来られる人は全員集合って連絡を受けて、ここ、旧クラブ・ピラミッドにやってきた。今日はマリ夫とイコと一緒。ルクりん達はエレボス組と一緒に行動してるらしい。早めに着いたつもりだったけど、入口前には環課長とはなびの親子しかいなかった。

「……地球防衛軍……だと……くぅ…………!」

「お、おやじ?」

 環課長は目頭をおさえている。入口には書道家が書いたのかと思うほど達筆な文字で、地球防衛軍と書かれた大きな看板が立てかけられていた。なんだろう? あの世代には変にツボるんかな?

 センターフロアにみんな集合してたみたい。各学校と魔界組でそれぞれ自然とグループになってる。ニンフや魔獣もいるじゃん。この世界の住人って意味なら、みんな仲間なんだよね。

 行方不明だとか言われてた有羽組の魔法少女たちも揃ってた。連絡はとれてたから心配はしなかったけどさ。

 だけど、少ないよ…………。ピラミッドは渋谷でも大きなクラブのひとつだったけど、その1フロアーに入りきれちゃうの? あたし達の世界ってこんな少ない人数で回ってたん? ゲームのシナリオにかかわらない人達が消えちゃうと、こんなもんなん?

 ――――なんだか鳥肌がたってきたよ。

「環課長、誰かと名刺交換してるっすよ。大人はこんな時でも大変っすね」

「イコのパパよ。もう広島には誰もいなくなっちゃったんだって。だけど交通機関は動いてたって言うんだから、かなりホラーよね!」

「ひりつくねぇ……」

 このフロアには、ちょっと大きめのステージがあって、3人が上がって待機してた。

 蒼ニキ、丹ちん、そんで中央に…………? 秋月補佐官?

 そういえば、サ終の発表があった日からオムニスを見ないんよね。どうしたんかな…………。


 
 白い部屋。

 オレは量とびお、兼オムニスだ。このゲームの主人公…………だよな? 誰かそうだと言ってくれ!

 世界がこんな事になってるのに、オレはずっとここにいた。

「なんでここにいなきゃダメなんだよ! オムニスでもダメって!」

「だからアンタは目なんだって! ユーザーの目で運営の目! みんなアンタを通して世界を見てんの! 今、あの子たちは行動してんのよ! アンタがいたら丸見えなの! 邪魔したいの!?」

 カミサマンに強く言われ、オレは何もできずにいた。

「ちくしょう! 祈るしかできないってのかよ!!」

 うつむいてしまったカミサマンに、いや、みんなに、オレは謝るしかできないでいた……オレは無力だ…………。

「ごめんな…………」


 
 私、大鳥丹を含む3人にスポットライトがあたりました。他の人は普段どおりの服装なのに、私だけガウン姿、とても恥ずかしいです。

「静聴っ!!」

 ざわつく場内を蒼が制します。こういう所はさすがに生徒会長ですね。

「今日はこの状況を打開するプランを持った人物を紹介したい! 是非、話を聞いて欲しい!」

 蒼にうながされて、私も声をあげました。

「……パパ! ……じゃなくて……いい人そうなおじさんモブ……じゃなくて……セイラちゃんのパパ……じゃなくて……袖城孝っ……」

「パパだっ!!」

 私が緊張感と羞恥でダメダメなので焦れたのかも。……でも、もう、蒼ったら……! けれどパパは気にする風もなく1歩進み出ると、十分に間を貯めて場の緊張感を高めてから静かに話しはじめたんです。

「…………私は女子高生が好きだ…………私は女子高生が大好きだ…………(長いので以下略、どこかで聞いたような、だけど感動的ないいお話しでした)」

 パーパ! パーパ! パーパ! パーパ! 会場はパパコールに沸いています。絶望の中、小さくても希望が見えたんですから、みんな明るい表情になったように見えます。ベアトリスさんなどは感激に涙しているようです。

 新しい世界を創生、誕生させてすべてをそこに転移させる!? それがパパのプランでした。そんな事ができるんでしょうか? でもこの人なら! と思わせてくれるオーラをパパは纏っています。……素敵ですぅ…………。

 パパの話は続いています。合図を出しつつ、片手で聴衆のざわつきを抑えました。私は指示どうりガウンを脱ぎます。

 キワドイ水着姿に片手にアルト笛、首からカスタネット、腰からトライアングルを吊るしています。どうやら露出が多いほど効果が高いらしいのですが、全裸と言う訳にも…………でもなんてかっこう。

 特に男性達から大きな歓声が上がっています。とっても恥ずかしいんですけど何だかだんだん……。あぁ、いけない、新しい趣味に目覚めそう。

「彼女の姿が基本装備だ! 何をするのかって? 日本の伝統文化、盆踊りだよ! 少し露出が多めかもしれないけどね。……注意点をひとつ、男性は参加不可だ! いろいろと台無しだろう!?」

 蒼にうながされて会場は拍手に包まれています。…………こんなので、いいのでしょうか…………? 私、みだれてしまいそうです…………。 


 
 再び槍水りりだよ! 秋月補佐官は、じゃなくて、パパさんでいいのかな? すでにステージを降りて、代わったヴィヴィアンあきさが細かな指示をだしていた。このプラン実行の統括リーダーは彼女なんだって。知らないうちに根回ししてたみたい。

 結局ね、パパさんの話だと、この世界の中心は渋谷駅前のスクランブル交差点なんだって。だから、その東西南北に舞台を作って、踊りまくって力を貯めるんだってさ。

 理屈はよくわかんないけど、やるよーあたし! どんなことになったって最後まで戦うんだ!

「あ痛っつ!!」

「どういう事よ! おとうさん、……じゃなくてパパだったかしら?」

 いつのまにか近くに来ていたパパさんの尻にセイちんが回し蹴りをかましてた。あたしからすると、こんな親娘のコミュニケーションは羨ましい気もするんだけどね。

「世界の危機なんだぞ? 子供にまかせておくわけにもいかないだろう? 僕は僕なりにやれることをするさ! 第一、お前の方は3日で帰って来たじゃないか!? 中途半端な……」

「だって、みんな家族が心配だから帰りたいって言うんだもの。残念だけど、無理強いは出来なかったし……」

「その辺がお前の優しさでもあり、限界でもあるんだろう。…………少なくとも道はできているようだし…………。よくやったよ! さすが我が自慢の愛娘だね!」

「ふんっ! 本心じゃどう思ってるんだかっ!?」

「まぁね。今回は上手くいったみたいだけど、お前の知識はム〇に寄りすぎだな……。民〇書房も読みなさい。勉強が足りない」

「民明〇房……? 聞いたことあるわね…………」

「今のお前はガ〇ダムは見ているけど、エヴァ〇ゲリオンは見ていないアニオタのようなものさ。ちなみにガ〇ルズ&パンツァーは見てるんだろうね?」

「ガル〇ンは見てるわ! 諸事情があって……」

 あたしにはサッパリ意味がわかんないっしょ――――。

「ガ〇パンっすか?」

 話に食いつこうとするマリ夫を抑えようとすると、横から。

「私もガル〇ン大好物です! 何度も大洗に行ったんですよ。うふふっ」

 マリ夫のママ(丘田夕梨花)が食いついてきた。パパさんが手をひらひらさせて挨拶してる。元々、知り合いだったみたい。……ん? なんかヤバくね? もう、混乱するからアニメの話題やめて。

 パパさんはベアトリスさんをはじめ、数人に挨拶して回ると、まだざわついてる会場から出て行った。いいんかな? セイちんがパパさんの後ろ姿をにらんでいたよ。



「遅かったのう、いつでも行けるぞ!」

 わらわはルクスリア・ザ・ラスト、七魔王がひとりじゃ。日が暮れるとともに妖しくかがやきを増した虹色の月を見上げながらパパ(もう、パパでいいじゃろう?)が現れるのを待っておった。

「待たせたね。こんな時だけど初見の人達には一応あいさつぐらいはしておきたくてさ」

「思った以上にあっさり受け入れられて助かったな……」

 パパの足元から声がしたかと思うと、影が伸びて人の姿になりおった。人間にも変わった術を使うものがおるのう。百波瀬匠と言うたか、ここあの父じゃな。

 今、この旧クラブ・ピラミッド入口前には、わらわ。コクリ・ハクリ。特外課課長にしてはなびの父、環慎次。雪船家執事のジェームズ・ジェンキンスと先述の2名。計7人が立っておる。

「この地球防衛軍って看板をみて思いだしたよ。子供の頃、こんな看板をかけた秘密基地を作ったんだよな。すぐ撤去されてたけど」

 環が語りだした。百波瀬とパパと、3人は幼馴染なのだそうじゃ。

「あれは宇宙人と戦うって設定じゃなかったか? 今度の相手は異世界人だぜ!?」

 百波瀬がつっこみ。

「デカルチャー!」

 パパがチャラかす。いいトリオじゃ。さぞかし、しょーもない悪ガキどもであったのじゃろう。

「車を用意いたしました。指定された諸々も詰め込んであります。さおり様(エリザ母)とジュリア様(セイラ母)は、牧田様達と共にすでに設営に入っておられます」

 ジェンキンス翁が車を示しつつ声をかけた。厳しそうな男じゃのう。

「じゃあ、いこっか!? ハンカチ持ったか~? お小遣いは500円までな~!」

 遠足にでも行くような様子じゃ。行くのは遥かな異世界、すでに通じた道があっても、時空転移の得意なわらわとて行きつくことができるかわからん。帰り道など論外と言っておいたのに……いい度胸じゃな。

 じゃが最後にパパ達は姿勢を正し、ジェンキンス翁に深々と頭を下げた。

「ミスターJ、後を頼みます。子供たちを妻たちを世界を…………」

「ご武運を!」

 翁は軍隊式の敬礼でわらわ達を見送っておった。


 つづく

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