『仮想問題』
そういえば
そうそうそう
なんだったか
なにをわすれたのだったか
そんなときがある
そんなときが、いまのいま、ある
そうそうそう
そのあたりまで書いたときにあったことばが
そうそうそう
うそうそうそ
そのように
私から失われてしまった
たいしたことばでなければいい
ことばであったかどうかもわからない
一応確認だ
コタツは「切」だ
ヒーターも「切」だ
ガスの元栓は「閉」だ
玄関の鍵も「閉」だ
確認済だ
現実世界の現実問題としては解決している
あとは仮想世界の仮想問題か
そうそうそう
そのあたりまでは頬のなかにあったのに
あとは吐き出すタイミングだけだったのに
なくなるなんて味気ないじゃないか
うそうそうそ
そのように
私はのみこんでしまったのか
もう
尻から出るか
口から出るか
腹から出るか
わからない
そうそうそう
一頭のマッコウクジラだ
それかもしれない
頬のなかが塩辛い、気がする
私の頬のなかに迷い込んだのかもしれない
マッコウクジラは瀬戸内海の出入りの「入」を押した
そしてどういうわけか
一頭のマッコウクジラが
私の頬のなかでひとり泳いでいた
瀬戸内海が私のくちびるだとしたら
淡路島が喉につまりそうでくるしい
一頭のマッコウクジラもくるしい
瀬戸内海が私のくちびるだとしたら
私は四国をはむはむしている
或いはマッコウクジラという痰を吐こうとしている
一頭のマッコウクジラよ
仮想の私から出るのだ
口からでも
尻からでも
腹からでも
私の出入りの「出」を押すのだ
私という仮想問題の「出」から
現実問題の「出」へ向かうのだ
これでは私の頬のなかの蛙ではないか
一頭のマッコウクジラよ
黒潮へ向かうのだ
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